侍女と主人の戴冠式
国中が、新たな女王の誕生と女王の婚姻に沸いていた。
中でも特に沸いていたのは、私だろう。
「素敵ですわ!ルクセリア様!!」
そう叫びつつ、私の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「もう、アリシアったら……大袈裟なんだから」
ルクセリア様はそう言って苦笑いを浮かべていたけれども、大袈裟でも何でもない。
確かに、式典のためのドレスを身に纏ったルクセリア様は美しいのだ。
純白の、ドレス。
胸元には細やかなレースがあしらわれ、そのレースにはドレスと同色の白い真珠が縫い付けられている。
肩が開いた作りで、チラリとのぞかせるデコルテが艶めかしくも、彼女の華奢さが際立ち、まるで侵し難い清らかさを漂わせていた。
「ああ……惜しむべきは、この美しい姿を限られた人しか見ることができないということです。何故、戴冠式は五大侯爵とその縁者しか見ることができないのでしょう?」
「まあ、神聖な式だからね。これでも大分、昔よりは出席者の制限が緩和されているみたいだけどね」
「んー……ですが、そのせいで婚礼式も出席者が限られてしまうんですよ? 婚礼式と戴冠式が同時に行われる為、婚礼式だけ人を増やすことが難しいという理由で。女性にとって、最も重要なイベントなのに……!」
「まあまあ、アリシア。私は納得しているんだし。……それに、むしろ私にとってはその方が好都合だしね」
「……好都合?」
「ホラ、人が多いと緊張してしまうから……ね?」
「ルクセリア様が宜しいのであれば、良いのですが……」
「……そろそろ、お時間です」
私とルクセリア様のやり取りに、すっかり慣れたらしいフリージアが、冷静に時を告げる。
ルクセリア様はフリージアに礼を言うと、そのまま護衛騎士の手を取って式典の場に進んで行った。
私とフリージアも、ルクセリア様の後に続いて会場に向かう。
今回は以前の夜会と異なり、ルクセリア様の側近として、私たち二人も会場に参列することが許されているのだ。
式典の会場は、王宮内の礼拝堂。
歴代王が、代々王位を受け継いできた場だ。
部屋の奥の中央には祭壇があり、その更に奥には、五本の宝剣のレプリカ。
壁には、五色の垂れ幕が掛けられている。
宝剣のレプリカの前には、式典の進行を務める魔術師団の団長であるゴドフリー・サクソンが佇んでいた。
宝剣は、強力な魔力を秘めた物。
それ故、宝剣は魔法師団の管轄となっていた。
また、宝剣はアスカリード連邦王国にとって信仰の拠り所。
それが転じて、各式典の進行を務めるための部署となっていた。
ルクセリア様は参列者に見守られる中、祭壇に向けてゆっくりと歩を進める。
国をあげての式典の割には、会場にいる人数は少ない。
陽の光を浴びて輝くドレスを纏う彼女自身こそが、まるで輝いているようだった。
彼女の美しさに、その場にいた参列者も息を飲んでいる。
祭壇の前には、ルクセリア様の婚約者であるヴィルヘルムが立っていた。
戴冠してそのまま、結婚式が執り行われるためだ。
ルクセリア様が祭壇の前に到着すると、ゴドフリーが朗々と歌を歌うように言葉を紡ぐ。
その言葉は、初代国王が二代目に王位を譲ったときのものだ。
……王位を受け継ぐ覚悟があるかと、問うそれ。
「誓います。私は王位を継ぎ、この国の灯火を絶やさぬことを。この国を、遍く照らすことを」
ルクセリア様はゴドフリーの言葉に、迷いなく誓いの言葉を返した。
そしてそのままルクセリア様は、その場で膝を折る。
「よく、王国を治めなさい」
そしてゴドフリーは、ルクセリア様の頭に王冠を乗せた。
瞬間、参列者から拍手が起こる。
ルクセリア様は手を振って、それに応えていた。
ついに……ついに!
ルクセリア様が王となられたのだ!
その光景に、私は感動で涙が止まらなかった。