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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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官僚と人形姫 2

本日3話目の更新です

「そうか……。ならば、本題に入ろう。其方たちに質問だが、王位を継いだ後……余はまず何から着手するか。当ててみよ」


「魔法師の育成でしょうか。国力の底上げの為に、魔法師の育成は必須ですから」


「税制の改革でしょう。制度に多くの穴が散見されながら、ここ数十年、全く改善がなされていない」


「医療制度の改革でしょう。未だ、地方には十分な医療体制が敷かれていない。その為、魔術とも呼べないような怪しげな術に縋る者が後を絶ちません」


「法の改正も必要ですよ? 税制と同じく、ここ数十年改正がなされていません。おかげで、ここ最近の犯罪や慣習に法が対応しきれていません」


次々と仲間内から、意見が飛び交う。

ルクセリア姫様は、興味深いと言わんばかりに笑みを浮かべていた。


「……面白い意見を貰った。だが、残念ながら……余の行いたいこととは少し異なる。余の行いたいこと、それは組織の構造改革だ」


「組織の構造改革、ですか?」


彼女の発言にしっくり来ないのか、皆が揃って首を傾げている。

その中の一人が代表して、彼女に問いかけた。


「魔法師の育成、確かに必要であろう。税制、医療制度、法の改正……いずれも、必要だ。だが、それらは全て『それらを発案し、承認し管理する体制』が整ってこそ。残念ながら、今のこの国の組織構造では、誰かが発案したとしても全ては絵に描いた餅にしかならぬ」


彼女は、ゆったりとした動作で手のひらに顎を置く。

そして観察するかのように、僕らの一挙一動を眺めていた。


「そう。それもこれも、特定の領地に大きな権限を持たせているが故。言わずもがな、領地のそれと国政のそれ。……同じ組織が同じ国の中に二つあることは、非常に非効率であろう?」


「ですが、それは……各領主が領地を治める限り、どうしようもないことでは……? まさか……」


言いかけて、僕は言葉を止めた。

その先の言葉を口にすることを、恐れて。


ルクセリア姫様は、明言はしていない。

五大侯爵家を、排除する……と。

けれども、実質同じ意味だ。


僕のその反応に、ルクセリア姫様が笑みを深めた。


「ふふふ……ははは。もう一つ、理由を説明しようか。それは、組織構造が複雑になり過ぎていること。この王宮内の組織だけを切り取って見たとしても、だ」


けれども、彼女は僕の質問に応えない。

代わりに、別の理由を告げた。


「結果、指揮系統・責務の所在が曖昧だ。言い換えれば、権限と義務が曖昧ということ。組織というのは、各人に与えられた責務が明確となり、それに見合った権限を得ることで初めて回る。誰が何をやっているか分からぬのに、必要な職務を全て全うしていると言えるのか? ……そのような状態で、改革などできぬであろう? まずは今の業務を精査した上で、必要な部署と人員に絞り、その上で指揮系統を明確化する」


一瞬、彼女はギルバートに問いかけるかのように目を向ける。

ギルバートは、彼女の問いに肯定するように首を縦に振った。


「そこで、だ。……其方たちには、ギルバートより『組織』を題材とした課題を出させた。そして今も尚、皆で議論を続けて貰っている」


「……あ、あれは……仮定の話ではなかったのですか?」


「忙しい其方たちの時間を割かせるのだぞ? 余は、無駄なことはさせぬ」


ルクセリアはそう言って、にこやかに微笑んだ。


「覚えておくと良い……組織に属する以上、全ての事柄はそれ単独では動かぬ。何かしら関係する人や物、そして事柄があるものだ。全てのことを、疑え。表面だけではなく、その裏の意図まで読み解けるように。今回で言うと、其方たちの課題に関連するのは……余の思惑、と言ったところか」


「……ならば、ルクセリア様。貴女様が今、それを明かすのは何らかの意図があってということでしょうか」


僕の問いに、ルクセリア姫様は驚いたかのように僅かに目を見開く。

けれどもすぐに、艶やかな笑みを浮かべた。


「ふふふ……そうだな。其方の言う通り、今これを明かすことには理由がある」


彼女はそう言って、指を人差し指を立てて見せる。


「一つは、其方たちへの信用の証。余が、其方たちを頼りにしているということを伝えたかった」


そして人差し指を立てたまま、中指を立てた。


「もう一つは、其方たちに余が思い描く終着点を伝える為だ。……有能な者が揃っていたとしても、皆が別々の終着点を思い描いていては物事は進まぬ。終着点を共有しさえすれば、同じ方向に進むことができる。仮に皆が別々の方角を見ていたとしても、だ」


彼女は言い切ると、指を立てていた腕を下ろす。

その顔に浮かぶのは、優しい笑みだった。


「さて、本題だ。邪魔な者たちを排除し、組織の構造を改革し……余は何を求めるのか。それは、富国。貴族のみならず、民全てがその恩恵を享受できることを望む」


全ての民、と言ったところで息を飲む。

……けれども、どうやら驚いたのは僕だけではなかったようだ。

マホガード先生と護衛騎士を除く、その場にいた皆が驚いていた。


なるほど……素晴らしい『理想』だ。

けれども、それは酷く困難な道のり。


全ての者が満足することは、不可能に近い。

仮に民を優先した結果……貴族が蔑ろになるというのであれば、貴族は揃って抵抗するだろう。


特に五大侯爵家が大きな力を持つこの国で、それを推し進めることは……非常に難しいことだろうとは、誰もが予想できることだ。


そこまで考えて、僕は理解した。

……ああ、だからか。

だから、ルクセリア姫様は五大侯爵を排除することを望むのか。


……ルクセリア姫様は、毒薬だ。

この国の悪いところを治す、治療薬ではない。

己の毒で全てを壊し尽くす程に、強烈かつ苛烈。


「険しい道だとは、分かっている。だが……これから百年先も、この国が存続する為には必要なこと。其方たちと共に行くのであれば、余は必ずやその終着点に辿り着けることを信じている」


……けれども、毒薬(それ)が何だと言うのだろうか。

確かに僕も、限界を感じていたのだ。

一部の者に過大な権力が与えられ、その影響が国政にまで及んでいるその事実に。

何よりルクセリア姫様が目指す先は……求めるものは、同じ。


「その為に、必要なのは『領政の集中と国政の分散』。まずは、組織の基盤を整備。その上で、領より国中央に業務と権限を集中。そして余から必要な権限を各省へと分散。同時に資金と人材を必要な箇所に投入。そこから、余や其方たちの描く『改革』を国政に反映させていく。そうして国の基盤が整えば、やがては民が富み、そして国が富む。民もまた、その恩恵を享受することができる。それが余の描く終着点だ。ただ……其方たちが不安に思うように、余の描く終着点は遥か彼方。そこに至るまでの道は、酷く遠く困難だ。故に、時間がない」


この国に、繁栄を。

この国の民に、安寧を。

その為に、ルクセリア姫様が己の毒を使うというのであれば……皿をも食らうまで。


「まず其方たちがすべきことは、今の議論を深めること。つまり、『組織のあるべき姿』を定める。……余もこれより、議論に加わる。共に、この国の未来を語ろうぞ」


そして彼女は、ニコリと笑う。

先ほどと同様の柔らかな笑みだというのに、今度のそれは『油断ならない』と誰もが感じ取ったのだった。


「あと、一月だ。余が王座に就く前に、大枠を詰めるぞ」


「畏まりました」


彼女の命令に、皆が立ち上がって頭を下げる。

まるで示し合わせたかのように、同じタイミングで。

その光景を見て、彼女は立ち上がった。


「時刻だ。……余は、これで失礼する。其方たちは早速、議論を進めるが良い」



そうして彼女は、部屋を出て行った。

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