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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
33/144

官僚と人形姫

本日2話目の更新です

ザワザワと、室内が騒がしい。

……それも、そうだろう。

普段決して会うことのないお姫様を、間近で見ることになるのだ……誰もが困惑と緊張を隠しきれない。


「マホガード先生。本日これから、ルクセリア姫様が、こちらにいらっしゃると伺っておりますが……」


交流会に選ばれた一人が、代表してマホガード先生に質問をする。


「ええ、そうですよ。姫様が、宮中で働く官僚と交流する場を設けたいと仰っていたので、私の方で皆さんの予定を抑えさせていただきました」


「なーんだ……俺たちが集められたから、何事かと思ったけど……マホガード先生の人選なら、納得。やっぱり、人形姫が俺たちの勉強会を知る訳なかったか。な? ブライアン」


先輩の言葉に、僕は曖昧に頷いた。

……やっぱり、先輩もマホガード先生に師事するメンバーが集められたことに、疑問を持っていたか。


けれども、ギルバート先生が態々僕たち先生の生徒を集めたことに引っかかる。

人形姫相手と侮るのであれば、それこそ生徒たちだけを集める必要もないと思うのだが。


「皆さま、ご苦労様ですわ」


ルクセリア姫様が入った瞬間、室内の緊張は最高潮に達していた。

そんな空気の中、ルクセリア姫様は優雅な笑みを浮かべつつ官僚たちの前の席……相対する席に座る。


瞬間、彼女の身に纏う雰囲気がガラリと変わった。


「……忙しい最中、集まってくれたことに礼を言う。ギルバートのもとに集う有能な其方たちと一度話がしてみたかったが故、多少、無理を押し通させた」


声色が、違う。

口調が、違う。

何より、滲み出る雰囲気が違った。


僕たちはそれを肌で感じ取り、体を震わせる。


「……ブライアンよ」


……これは、誰だ?

一体、何がどうなっているんだ?

そんな疑問が、僕たちの表情に浮かんでいることだろう。


「は、はい!」


「ギルバートのもとで、よく勉強していると聞いている。優秀な皆の仲間に最近入ったということで、緊張もするであろうが……これからも、励め」


ルクセリア姫様の言葉の真意を、僕は正確に読み取った。

まさか……まさか、ルクセリア姫様だったのか!


僕の目は、これ以上開けないというほど見開いていた。


「で、では……ギルバート様の上司とは……!」


「……余の『目』は、優秀でな。其方たちの仕事ぶりを、余に報告してくれていた。その中から、余が認めた者たちをギルバートのもとに送ったのだ。……ブライアン、其方のレポートはとても面白かったぞ」


「……あ、ありがとうございます……っ!」


ルクセリア姫様だったのか……僕を認め、拾い上げて下さったのは。

僕は、涙を浮かべながら頭を下げる。


「そのように礼を言って良いのか?……よく考えてみよ。其方は、否が応でも権力闘争の渦に巻き込まれる可能性があるのだ。それも、分の悪い余の陣営と見られるのだぞ」


「あの状況が続いていたら……きっと、私は全てに諦めていました。官僚になる前に描いていた夢も、職務に対する希望も」


それは多分、弱々しい声だった。

ともすれば、静かなその部屋ですぐに溶けて消えてしまいそうなほどに。


「現実を前に、理想を貫き通すことは酷く困難で。流され、何もしなければ楽だと自分に言い聞かせ……そうして、徐々に腐っていったでしょう」


僕は、俯けていた顔を上げた。


「けれども、私は思い出すことができました。何故、官僚を目指したのかを。何故、理想を抱いたかを。それは、分不相応な夢を抱く自分を肯定してくれる存在がいたからこそです」


「面白い。身の安全よりも、己の理想こそを尊ぶか。……他の者たちは? 逃げるのであれば、今だぞ? 今この部屋を発つのであれば、其方たちを見逃すぞ」


彼女はそう言って、視線を滑らせる。

けれども、僕を含め誰もその場から動かない。


「良い生徒たち……否、仲間だな。ギルバート」


「はい、姫様。私の方こそ、多くを学ばせていただいております」


ギルバート先生は、穏やかな笑みを浮かべながら僕たちを見ていた。


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