表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
3/144

王女と見習い侍女

安心したところで、私はジッと彼女を見る。

……おかしい。

私の魔法が、彼女に対して発動しない。


「……それで、貴女は誰から私に仕えるように言われたの?」


「えっと、王さま。……です」


「お父様が? 一体、どうして貴女を……」


……口調や格好から察するに、彼女は恐らく貴族の子女ではない。

だから『危険に遭っても良い』と、お父様は彼女を私の侍女に抜擢した?


そこまで考えて、その考えを自ら否定する。

……まさかあの優しいお父様が、そんな非情な命令を下す筈がないだろう……と。


むしろ彼女も何らかの魔法が使えて、そのおかげで、『私の魔法が、彼女に対しては発動しない』ということを察して命じた、という方が可能性は高い。


「えっと……王さまは、『アリシアの魔力が、人より多いから』と言ってる、ました。それから、『身寄りがないから、ずっとルクセリアの側にいることもできる』と」


「ああ……やっぱり。でも、申し訳ないけれども、ここで貴女を雇うことはできないわ。王宮に戻ってちょうだい」


「な、何でですか? 仕事がなくなっちゃうと、困るです!」


「お父様には、便宜を図るように伝えるわ。仕事が欲しいなら、王宮で雇うようにと」


「……それは無理、です」


「無理? 無理って一体どう言う……」


「……。塔で勤めることを伝えたら、娘はきっとこう言う筈だ。『お父様には、便宜を図るように伝えるわ。仕事が欲しいなら、王宮で雇うようにと』とな。……だが、こればかりは幾ら娘の頼みでも聞けない。何故なら私は、娘にとって君が必要だと思っている。だからもし、娘が私の予想通りの言動をしたら、私の言葉を一字一句違わずに言って欲しい。『私はアリシアを塔以外で雇うつもりはない』とね。……と、王さまが言ってる、ました」


急にスラスラ言葉が出てくるな、と思ったらお父様の言葉か。

と、言うか……。


「……貴女それ……今、お父様の言葉を一字一句違わずに言ったの?」


「? そう、です」


急に流暢に話したかと思えば、まさかのお父様の言葉。

一字一句間違えずに話したのだとしたら、凄まじい記憶力だ。


けれどもどうやら本人、それがどれだけ凄いのか分かっていないようだ。

首を傾げて、可愛らしい……じゃなかった。今はそれどころではない。


「勿体ない……それ程の記憶力があるのに、貴女を王宮で雇わないと言うなんて。その才能があれば、十分他でもやっていけるわ。……むしろ、大きくなって、何かその才能を活かせる職に就いた方が絶対良い」


「それは困る、ます。生活するのには、お金が必要です。……ご主人様が言う『才能を活かせる職に就く』ことができるのは、いつ? ……ですか」


暫く、彼女と見つめ合った。

困った表情を浮かべながらも、その瞳に映るのは期待の光。……ダメだ、彼女に引く気はなさそうだ。


私は、そっと息を吐く。


「……正直に、貴女を雇いたくない理由を言うわ。そうしたら、貴女は自分から辞退してくれると思う。私の魔法……『心域(しんいき)』はね、『他人の心に作用する』ものなの」


「他人の心に作用する、もの?」


「そう。私には生まれた時から、いつも『声』が聞こえていた。それは、その人が口に出していない筈の『心の声』」


最初は、まさかそれが自分の魔法だとは思わなかった。

むしろ、この世界の誰もができることだと思っていたのだ。

……生まれたその時から、当たり前のようにできたことだったから。


それに丁度その頃は、生まれ変わったことに頭がついていけなくて、『声』のことなんて深く考えている余裕もなかった。

……まさか、魔法だったとは。


「それが聞こえることは、当たり前のことだと思ってた。……だから、ポロリとお母様の考えていることを言い当ててしまったの。それも、一度だけではなく、何度も」


流石に一度目は『随分と勘の鋭い子だな』と、追求してこなかったけれども……何度も会話を繰り広げてしまえば、それはもう偶然ではない。

結果、私の扱える魔法が判明したのだ。


「私の魔法が判明してから、使用人たちとの関係はギクシャクしてしまったわ。だって、近づけば、隠したいことも言いたくないことも全て『心の声』として聞いてしまうのだもの。薄気味悪い力だと忌避されても、仕方のないことね」


「王さまも、お妃さまも?」


「いいえ……ありがたいことに、二人は私のことを愛してくれているわ。私の魔法を怖がっていても、それでも……ね」


私には、『心の声』が聞こえる。

だから、お父様とお母様の心の声も当然聞こえていた。

二人が、私の魔法を恐れていたことは事実。

けれども、それでも二人の心の声は『愛している』と囁いてくれていた。

それが何とありがたく、嬉しいことか。


「なら、どうして王さまとお妃さまと離れて暮らしているですか?」


「……想像してみて。ずっと、聞きたくもない他人の本音が聴こえてくるその騒がしさを。たとえ実質それが幽閉だとしても、隔離された場所に身を置く方が、気が楽だわ」


それに前世の記憶がある分、傅かれて生活をするのは、どうしても慣れない。

だから、塔での幽閉は渡りに船だった。


「だから、塔に独りで住むますと思ったの……ですか? 私を、雇うのも無理ですか?」


「ええ、そう。そうよ」


「でもルクセリア様、私の『心の声』は聞こえてないです?」


鋭い指摘に、一瞬固まった。

……ダメだ。この反応じゃ、彼女の言ったことを認めていることと同じだ。


「どうしてそう思ったの?」


「だってルクセリア様、驚きますた。私が王さまから告げられていた言葉を伝えたときに。私、『王様の予想と同じこと言ってる』って、王様の言葉を思い浮かべています……た」


……誤魔化せない、か。

それにしても、よく気がついたな。


「ええ、そう。何故か、貴女の心の声は聞こえない。……逆に、私が理由を聞きたいわ」


「理由? えっと……」


「貴女の魔法は、何?」


「んーと、私の魔法は『矛盾』。結界で身を守ったり、結界で攻撃をしたり。でも、ずっとは魔法を使ってないです」


「結界を作ることができる人にも会ったことはあるけれども、彼は私の魔法を防げなかったわ。………ねえ、アリシア。貴女、魔力を放出してみてくれない?」


「は? え、良いんですか?」


そう言っている彼女自身が、魔力を解放することを嫌がっているようだ。


「ええ、許可するわ。というより、私がお願いしているんだもの」


そんな彼女の背を押すように、畳み掛けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ