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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
25/144

人形姫とご挨拶 2

本日4話目の更新です

宮中は走ってはダメよ……と、アリシアの背に向けて苦笑いを浮かべながら、小さく呟く。


裏表のない彼女の姿が、どれ程私の救いになっているか……彼女は気がついていないんだろうなあ、と俯きながら考えていた。


ふと机の上に人影が降りてきて、顔を上げる。


「……久しぶりね、ヴィルヘルム」


まさかの人物に、一瞬驚いて固まってしまった。


「久しぶりです、ルクセリア様」


彼はそんな私の反応に気がつかなかったのか……それとも気づいたところでどうでも良いと思ったのか、表情に変化はない。


ただ、淡々とした笑みを浮かべているだけだ。


「貴方も、私に挨拶?」


「貴方『も』ですか?」


「ええ。先ほど、ダグラスが来たの」


「へえ……オルコット侯爵当主が。ですが、私と彼の方は別に示し合わせた訳ではないですよ」


「そう?……珍しいことが続くと、気になるものじゃない? 何かあるのかしらって」


「別に、本当に何もないですよ」


彼は肩を竦めて、苦笑いを浮かべていた。


「それなら、何か用かしら?」


「婚約者の顔を見るのに、用事が必要ですか?」


「必要……そうね。そうでもなければ、ここには来ないと思って」


「……そんなことないですよ」


彼は一瞬、動揺を見せた気がした。


そんな彼の反応に、白々しい……と心の中で呟く。

同時に、じわじわと凍えるほどに冷たく重い感情が心に降り積もった。


そしてそれを彼に悟られないように、一瞬俯く。


彼とバーバラの仲は、周知の事実。


私と顔を合わせたのは、夜会以来今までなかったというのに、彼女とはほぼ毎日のように共に過ごしているらしい。


どちらが婚約者か、分かったものではない……そう、社交界で陰口を叩かれている。


……今更、か。

今更、傷ついてどうなるというのか。


私は俯いていた顔を上げて、ジッと彼を見つめた。

彼は、私を見つめ返しながら苦笑いを深める。


「月は……」


「……月?」


思わず、私は聞き返した。

その真意を、聞きたくて。


けれども丁度そのタイミングで、廊下の方から人の気配がした。

アリシアかと思ったけれども、違うようだ。


私が気配の主を確認し終えたのと同時に、ヴィルヘルムが口を開く。


「全く……確かに、バーバラは素晴らしい女性です。彼女と共に過ごす方が楽しいことは、否定しませんよ」


そんな言葉に、私はつい笑ってしまう。


「そう……ならば、あまり私が縛り付けてはダメね。下がって結構。挨拶は十分だから、楽しんでらしてね」


私の言葉に、何故か彼は一瞬動きが固まった。

けれどもすぐに頭を下げると、彼は去って行く。


時間にして、僅か数分。

あまりにも呆気ない婚約者との逢瀬に、胸にポッカリと穴が空いたような寂しさを感じていた。


……思っていた以上に、感情が揺さぶられている。

それと同時に、先ほどまで素晴らしいと感じていたこの景色が、すっかり色褪せてしまったように感じられた。


けれどもそんな空気を壊すように、彼と入れ替わりで戻って来たのがアリシアだった。


「ルクセリア様っ!大変おまたせ致しました」


彼女の纏う明るい雰囲気に、思わず笑った。


「おかえりなさい、アリシア」


「まずはショールをどうぞ!本日のドレスに合う、新しいショールですよ。それからお茶ですが……」


彼女のおかげで、それまで色褪せていた光景が美しいそれに変わる。


先ほどの痛みに蓋をして、私はアリシアとの会話を楽しむことにした。


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