使用人は、泣いた
「私、もうルクセリア様には失って欲しくない。悲しませたくない。だから、そんな理不尽なことを、許したくないの」
「……ですって。ルクセリア様」
トミーが、いきなり後ろを向く。
「……え? ルクセリア様?」
確認するように、彼の視線を辿って歩けば、建物に隠れるようにしてルクセリア様が座り込んでいた。
「どうして、ルクセリア様がここに……」
ルクセリア様は、問いに答えなかった。
彼女の口から出るのは、嗚咽のみ。
そしてその瞳からは、次から次へと大粒の涙が溢れ出ていた。
「アリシアを付けて来たんだよ。それで、俺が護衛兼監視で付いて来たっていう訳」
「あ……なるほど」
座り込んでいるルクセリア様に近づいて、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
そんな私を、ルクセリア様は手招いた。
そしてそのまま抱き締められる。
「……ありがとう、アリシア」
涙ながら、彼女は囁くようにお礼を言った。
「礼を言われることは、何も……。私、何もできなかったですから」
「……ううん。貴女の気持ち、とっても嬉しかったわ」
「ルクセリア様……」
ギュッと、ルクセリア様の腕に力が込められた。
「……私も、愛しているの。彼のことを。本当は、止めたかった。もう離れたくないって、縋り付きたかったの。……でも、彼の言った通り……愛だけじゃ、どうにもならない」
彼女の大きな瞳からは再び涙が溢れ出て来た。
彼女の生来の美しさもあって、その涙はまるで宝石のように輝いている。
「ルクセリア様……」
「だって生き残った以上……私は、王の座を誰にも譲る気がないから。ヴィルの言っていた甘い夢を、私は実現させたい。ううん、実現させてみせる。そうじゃなきゃ、私はまた……そう遠くないうちに絶望に囚われてしまう。だから王として、私は成すべきことをしなければならない。……その為には、彼の側にはいられない。彼の言う通り、彼はとても難しい立場にいるから」
ルクセリア様は、顔をあげた。
その瞳には、けれどももう絶望の色は映っていなかった。
「でもね……諦めたくないの。そう分かっていても、貴女の言った通り、私はもう失いたくないの」
抱きしめ合う私たちに、トミーが近づいて来た。
「良いんじゃないですかね。陛下が決めたことに、俺は従いますよ」
彼女の望みを理解した上で、トミーが言葉を紡いだ。
「私もです。………ルクセリア様のお心のままに」
そして私もまた、トミーに同調しつつニコリと笑った。
「ならば、二人とも……力を貸してくれる?」
「「勿論です」」
その言葉に、ルクセリア様はぎこちないながらも、小さく笑ったのだった。