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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
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密偵の祈り

「いやぁぁ! ルクセリア様!」


アリシアの悲痛な叫びが、響く。


『トミー、いつも助かる』


そう言われた時、素直に嬉しかった。

彼女が、信頼を寄せてくれたのだと分かって。


なんでも、自分でやってしまう人だった。

誰も寄せつけず、ただ自らが決めた道を突き進む。


この人が進んだ先はどうなるのか……それが見たくなっただけ。

そう思っていたのに。

いつの間にか、頼られることに喜んでいる自分がいた。


もっと頑張ろう、もっと認めてもらいたい……そう思って、それなりに研鑽を積んできたつもりだ。


それなのに俺は今……無力だった。


弱まり続ける脈動に誰もが諦め、絶望しかけた……その時だった。


「……手を貸せ、アリシア!」


怒号ともとれるヴィルヘルム様の叫びが、響いた。


「え、え?」


「良いから、さっさと手を貸せ」


混乱するアリシアの手を取り、ルクセリア様の体の上に置く。

そして彼自身も、ルクセリアの体の上に手を置いた。


「君の中にも、残っているんだろう? 自分の魔力じゃない、魔力の残滓を」


「私の魔力じゃない、魔力?」


「俺も、感じた。多分、ずっと愛の宝剣に守られていたから。愛の宝剣の力が、俺の中に残っている」


彼の掌から、臙脂色の光が溢れる。


「君は、永遠の宝剣の力で生き永らえたんだろう? ならば、君の中に、宝剣の力は残っている筈だ! だからこそ、ここまで辿り着くことができたんだろう」 


アリシアは、目を閉じる。

……そして次に目を開いた時、彼女の瞳から涙は消えていた。


「やってみせます!」


そう叫ぶが早いか、彼女の掌から光が溢れる。琥珀色の、美しい光が。

二つの光が、彼女の中に溶けていく。


「……これで、助かるのかっ?」


二人の邪魔をしないよう、俺はこっそりとゴドフリーさんに問いかけた。


「分かりません」


ゴドフリーさんの瞳には、強い焦燥の色が映っていた。


「……ただ、愛と永遠の宝剣の力が二人に残っているのであれば、可能性はあります。愛の宝剣は愛する者を守る為のもの。永遠の宝剣はその名の通り、永遠を約束するものであり、死の運命すら覆すこともあるものと言われていますから」


「それなら……っ」


「ただ、正当な宝剣の後継者以外が宝剣の力を使ったことなど、聞いたことはありません。ですから……どうなるか、私にも分かりません。最早二人の力と宝剣の神秘を信じるしかないでしょう」


「……そっか」


ゴドフリーさんと話している間も、アリシアとヴィルヘルム様は魔力を注ぎ続けていた。


額に汗を流し、歯を食いしばりながら。

二人の顔色が悪くなるごとに、その場の空気は、より絶望の色が濃くなる。


「目を覚ませ、ルクセリア! 逝くな! 君が、君こそが自ら理不尽な世界を正すべきだろう!? 君は君がいない世界こそが俺に自由を齎すと信じていたみたいだが……そんなの真平ごめんだ! 君のいない世界で自由を謳歌できる訳がないだろう!」


その絶望に抗うように、ヴィルヘルム様が叫ぶ。


「起きて下さい、ルクセリア様! こんな……こんな終わりを迎えるために、私はあの時、貴女を庇ったんじゃない! 記憶を失くしている間も、私はずっと貴女のことが大好きでした。平民でしかない私を、王女である貴女が友としてくれた時からずっと、その気持ちは変わらなかったんです。それに貴女が目を覚さなければ、誰が私の新作のお菓子を食べてくれるんですか? ずっと、貴女のために作り続けて来たんです。これからも、貴女のために作り続けたいです……!」


「……起きてください、ルクセリア様」


アリシアの言葉に続くように、自然と口を開いた。


「ずっと、不思議に思ってた。貴女が、まるで自分がいなくなった後を前提としているかのような体制を作っていたことが。夜中、こっそりと一人で指示書なんて、作っていたことが。……こうなることを分かっていたんですね」


そう言いながら、自然と自嘲した。


「でも、まだ早いです。全てを放り投げて、どこにいくっていうんですか!? できあがったばかりの体制は、脆いんです。貴女じゃなきゃ、纏められない。魔王なんでしょ、貴女は。それだけの力と意思がある人が引っ張ってかなきゃ、ダメなんですよ!」


「……トミーさんの言葉に、賛成です。貴女は、恐ろしかった。敵に向ける容赦のない刃は、部下である私ですら怖かった。けれども同時に、貴女は優しかった。貴女が私たち……特にアリシアに向ける笑みや、我らを思っての言動は……たまに分かりづらいこともありましたが、それでも確かに心地良いものでした。そんな二面性のある貴女でなければ、あの国は引っ張っていけないでしょう」


 ゴドフリーさんもまた、俺に続いて言葉を紡いだ。


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