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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
138/144

女王は、信じたかった

「けれども、ルクセリアの道はそれだけじゃないだろう? ……何故なら、ルクセリアが持つ力はそれだけじゃないのだから」


「私が持つ、力……?」


「そうだ。宝剣が、ルクセリアの全てじゃない。……ルクセリアは、女王として多くの人を動かす力がある」


「……人を動かす力……」


「どれだけ強大な力があっても、一人の力には限界がある。だからこそ、ルクセリアは復讐に人の力を借りたんだろう? それと、同じだ」


彼はそう言って、微笑んだ。


「ルクセリアには、王として打てる手立てを持っているじゃないか。それで、礎を築けば良い。ルクセリアが自身で絶望した世界を正していけるように。……ルクセリアが努力する限り、きっと周りにいる人たちは皆、ルクセリアの力になる。勿論俺も含めて」


……それは、甘い夢だった。

私に、時間が残されていたら……その道を選び取ったのだろうか? 


……分からない。

もしも、なんて考えることすら無駄なのかもしれない。

その夢を前にしても、私の心は確かに絶望と憎悪に囚われていたから。


けれども、その甘い夢に耳を傾ける程には……もしかしたら、私の中には期待もあったのかもしれない。

絶望に埋もれていて見えなかった、希望の光が。


確かに、私は彼らの助けを借りて良かったと思った。

私一人では成し遂げられなかったことが、できた。


ギルバートは夜遅くまで、私とこの国の在り方を、政治体制を議論し、そしてそれを実行するために手足となって動き続けてくれた。


トミーは私の目と耳になって、情報を集め、助言してくれた。


その過程で二人の部下が成長する様も見ることができた。


アーロンは私に戦う術を与えてくれ、ゴドフリーは壊れた私の体を支え続けてくれた。


そうして、皆が私を助けてくれたからこそ……私は、私の思う通りに進むことができたのだ。


彼が気づかせた私の中のそれを、彼と共に手にすることができたら……幸せかもしれない。

そう思って、心が更に揺らいだ。


そしてだからこそ、これ以上魔法を紡ぐことができなくなっていた。

瞬間、私の体の力が抜ける。


……もう、限界か。


「……ああ、ダメね。ダメだわ」


反動で倦怠感と目眩が、益々酷くなる。

最早立つことすら難しくて、そのままその場に倒れ込んだ。


「……ルクセリア様!」


皆が、私に走って近づいて来る。


「ルクセリア様……!」


ゴドフリーが、私の手を取った。


「危険です! 早く、治療を施さないと!」


私の魔力の流れを、読み解いたのだろう。

……彼は、直ぐに私に魔力を流すと同時に、近くにいた人たちに薬を飲ませるよう指示していた。


「……どうしてですか!? 魔法を、止めたのに!」


アリシアが、叫んだ。

……ああ、重い体に響く。


「……ヴィルの言葉に聞き入った時点で、私の……負け。ゴドフリー、もう、良いわ……」


「ルクセリア様!?」


「もう、ずっと昔から……私の魔力、回路は、壊れていて……体は、限界だったの」


「そんな……!?」


誰もが、驚いた顔をしていた。

ここまで隠し通せるなんて、私も中々の名女優かもしれない。


……なんて、そんなしょうもないことを考えて、一瞬、笑ってしまった。 


「……憎しみに、焼かれて、ずっと、苦しかった。復讐を果たしても、憎悪の炎は、き……消えなくて……ずっと、行き場の……ない、怒りが燻り続けていた」


魔力の暴走が私の体を苛み、言葉を徐々に奪っていく。


「だと言うのに……最期に、甘い夢に……心が揺れて、しまったわ。ふふふ、私は、最期の最期に、望みを成し……遂げられなかったのに、何だか、すごい開放感。何故か、満足してしまった、わ。……未だ、心にある炎は、消えていないけれども……それ以上に、満足しちゃった、の。貴女たちに、また会えたから、かしら? 私がいなくても、きっと誰かが、私に代わってこの理不尽な世界を壊してくれる。それなら、もう……良いかなって」


「嫌です、嫌です、嫌です! やっと、思い出せたのに! 私の宝物……ルクセリア様との、思い出を。それなのに、こんなのあんまりです……」


……アリシアの瞳には、涙が浮かんでいた。

その涙を拭おうと手を上げようとしたけれども、生憎と力が出なかった。


……ああ、苦しい。でも、笑っていたい。

彼らに残る最期の表情が、苦しむ顔だなんて嫌だから。


「ごめん、ね。……ありがとう」


そうして、私は意識を手放した。


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