女王は、最後の力を振り絞った
……どれぐらい時が経ったのだろうか。
いつの間にか、医者とゴドフリーが私の周りを慌ただしく走り回っていた。
私は震える体で立ち上がり、宝剣を呼び出そうと、魔力を込める。
……宝剣の存在が、感じられない。
やっぱり、もう限界か。
……けれどもまだ、最期の一仕事が残っている。
ここで、諦める訳にはいかない。
体のの奥底に残る最後の力を振り絞って魔力を無理矢理生成する。
「ルクセリア様! もう、お止め下さい!」
強大な魔力が辺りに漂い始めた頃、トミーとダドリーそれからゴドフリーが身を引いた。
近付けば自身の身も危ないと、本能的に悟ってのことだろう。
近付けない代わりに、トミーが私を制止するよう叫んだ。
私は、軽く首を横に振る。
そのまま続けていると、ついに宝剣が五つ私の前に現れた。
そして更に宝剣の力を引き出そうと、魔力を注ぎ込み続ける。
「……ゔっ」
途中、再び口から血が零れ落ちた。
「一体、そうまでして何を……!」
「……皆の魔力を、永久に封印する」
咳き込みながら、トミーの問いに答える。
「そんなこと……」
「できる。……五つの宝剣が揃ったときの能力は……」
「……『夢』ですよね。『愛、叡智、栄光、誠実、永遠は全て儚く夢幻の如し。王には一時の夢を』……その能力は、現実の否定」
咳で息が詰まった私の代わりに、ゴドフリーが言葉を繋ぐ。
「そう、だ。……流石に、過去を変えることは叶わないが、今この時の状況を変えることはできる」
「おやめ下さい、陛下! ……その宝剣の能力は、王の命と引き換えに発動する筈です」
ゴドフリーの叫びに、トミーとダドリーも顔色を変えて私に近づこうとしてきた。
「……だとしても、止めない。魔力を封印するまで」
「どうして……」
五つの宝剣の光が、徐々に一つへと収束されていく。
「魔法への恐れが、そっくりそのまま全て余に向いている。今が、チャンスだ。……悪役である私と共に魔法が消えれば……全ての悪は余一人のものになる」
「……そうじゃなくて! どうして、ルクセリア様がそこまでする必要があるんですか!」
「……私はもう、信じられないから」
意識が遠のき始めて、つい、素の口調で返していた。
「は……?」
「私はどうしても信じられないの……人を。……さっきだって……人の悪意は魔力持ちに向けられていた。魔法があるから……ううん、魔法を扱う人が未熟だから、悲劇は生まれ続ける。理不尽な世界が広がり続ける。だから、私は……」
どうせもう、私は保たない。
その証拠に、さっき結界を張ったその時から、目眩と吐気以外……殆ど、感覚がなかった。
けれども……どうせ倒れるなら、理不尽の源を道連れにしたかった。
それは、ささやかな復讐。酷く個人的な感情によるもの。
私は、笑った。
「大丈夫。魔力を封印しても、アスカリード連邦王国を守る結界は、持続する。永遠の宝剣を使ったから」
「お止め下さい! ルクセリア様!」
力を振り絞り、魔法を行使しようとしたところで……この場にいない筈の人物の声が聞こえてきた。