そして女王は、戦った2
瞬間、碧色の斬撃が飛び……セルデン共和国軍の兵士たちが次々と倒れていく。
その光景にゴドフリーを除く味方の兵士が、驚愕に満ちた目を向けてきていた。
「……す、素晴らしい!」
ゴドフリーだけは、目の前の凄惨な光景よりも宝剣の力に目を輝かせている。
……相変わらずだな。
内心苦笑しつつ、栄光の剣を持つ手とは逆の手で、宙に浮かぶ宝剣の中から琥珀色に輝く剣を手にした。
二つの剣の柄を持ちながら、切っ先を地面に突き刺す。
「………ぐっ!」
予想以上に魔力を持っていかれて蹲りそうになりつつ、けれども魔法を組み立て続けた。
そうして、王国全体がシャボン玉のような透明でいて、碧とも琥珀とも取れる不思議な色彩の膜に包まれた。
その膜は、宝剣の能力……アスカリード連邦王国に結界を張った証。
遠くからも一目で見えるこの膜を目にしたトミーたちとゴドフリーは、きっと作戦を開始させた筈だ。
「……うっ」
酷い倦怠感と、目眩。
倒れそうになる体を宝剣で支えていたけれども、一瞬、内側から込み上げてくる違和感にしゃがんだ。
気持ち悪さを吐き出すように自然と開く口を抑えるように手を添える。
けれども我慢できなくて、真っ赤な血が私の手を染め上げていた。
……予想より、私の終わりの時が近いようだ。
けれども、早い。まだ、ダメ。
まだ、倒れる訳にはいかない。
私はドレスでその赤を拭うと、ふらつく体を起き上がらせる。
その瞬間、空に映像が流れ始めた。
……どうやら、トミーたちは上手くやってくれているらしい。
テレビの概念がないこの世界で、いきなり映像が空に現れたことで、誰もが呆然と空を見上げていた。
それは、二人と現地で合流した光の魔法使いの三人協働で発動した魔法。
映し出されているのは、研究所だ。
……誘拐された子どもたちが送り込まれた場所。
その近くに待機させていた部下たちが、どんどん奥へ奥へと進んで行く。
魔法を訓練するための部屋。
魔力持ちを研究するための部屋。
子どもたちの寝室。
ありとあらゆる部屋から、部下たちは次々と研究所にいた大人たちを床に沈めながら子どもたちを救出していく。
救出された子どもたちの瞳からは、彼らの絶望を表すように輝きが失われていた。
見ているこちらの胸が、押しつぶされそうなそれ。
……中には、目を背けたくなるような光景もあった。
けれども、子どもたちの救出が完了するまで、映像が止まることはなかった。
「……ご覧の通り、子どもたちの救出が完了しました」
映像が途切れたところで、トミーとダドリーだけが戻ってきた。
「子どもたちは?」
「宮中の医務室に」
「なら、良い。……トミー」
心得たように、トミーが肯く。
「セルデン共和国の方々よ。近隣諸国の方々よ。……余の名は、ルクセリア・フォン・アスカリード。アスカリード連邦王国の第三十八代王」
彼が魔法を発動させたことを確認してから、口を開いた。
「セルデン共和国の所業は、皆もご覧になられたことであろう。魔法は罪深き魔の力と説きながら、魔力持ちを自国のものにせんと捕らえ、傷つけていたセルデン共和国の真実の姿を。……空に映し出された絵は、全て事実」
セルデン共和国軍の一隊が、様子を見に来たようだ。
戦っていた筈の自軍の仲間が倒れている光景を目にして、呆然としている。
「此度の戦は、残虐非道な魔王を討つためと言っていたが……ふふふ、セルデン共和国の王よ。其方、子ども達のみならず、余の国を欲したな? 数多くの魔力持ちが暮らす、この国を」
……もしかしたら、セルデン共和国の王は、必死に否定の言葉を叫んでいるかもしれない。
けれども、その声は届かない。
届ける術が、ないから。
だからこそ、一方的な私の発言が真実として伝わる。
セルデン共和国のみならず、諸外国にまで。