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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
131/144

女王は拾った

彼らが完全に去った後に、子どもに向き直る。


「……ホラ、面倒ごとは去ったわ。さっさと帰りなさい。これに懲りて、今後は悪さをしないようにね」


子どもは反発するように何かを呟いた。

けれども声が小さ過ぎて、聞こえない。


「……何かしら?」


「……っ! だから、帰るところなんて、ない!」


瞳に涙を溜めながら、けれども睨みつけるような目つきで私を見ている。


「帰るところがないって……親と喧嘩でもしちゃった?」


アリシアが子どもに目線を合わせるようにしゃがみつつ、問いかけた。


「……違う! お、俺が……魔力持ちだからって」


「そうか……」


つい、溜息が漏れる。

それに反応したのか、子どもは震えていた。


「安心して。私も、アリシアも魔力持ちだから」


「嘘だ!」


「嘘じゃない。……ホラ」


軽く、魔力を放出させる。

少年は、すぐにその力に気がついたようだ。

……瞬間、堰を切ったように子どもの瞳から涙が溢れる。


「その姿からして、家を追い出されたのは昨日今日の話ではないでしょう。今まで、どうしていたの?」


「……村を追い出されてから、王都に来た。王都なら、何とかなるんじゃないかって。でも、俺みたいな餓鬼はどこも雇って貰えなくて……さっきみたいに金を擦って、生きてきた」


「……そうか」


私は子どもを抱き上げると、歩き始めた。

抱き上げられた子どもも、アリシアも驚いたように目を丸くしている。


「る、ルクセリア様!?」


「貴方を連れ帰るわ。食事も、学ぶ機会も全部あげる。貴方は庇護を受けて暮らし、学び、魔力の扱いに慣れ、大人になった時に自分の手で糧を生み出せるようになりなさい。大丈夫よ、途中で放り投げるような真似、しないから。貴方が助けを不要とするまで……最後まで、面倒を見てあげる。……私ができなることがあったとしても、周りにちゃんと言っておくし」


「なんで……っ」


「……嫌なの。何で、魔力持ちだからって、そんな目に遭わなければならないの」


私は、吐き捨てるように言った。

けれども少年は納得がいかないようで、ジタバタ暴れている。


「好意が信じられないのなら、将来私の役に立って恩返しをして頂戴。期待をしないで、せいぜい待っているわ」


……大人しくなった少年を抱えて、来た道を戻った。


「え、ちょ……あんた達、どこに向かうつもり!?」


城門に近づいたところで、再び少年が暴れ出した。


「どこって……そこよ」


私は空いた片方の手で、城を指す。


「……は?」


「あそこ、私の家」


「……え?」


少年が呆けている間に、さっさと門を潜って城内に入った。


……結局、少年を城の中に入れるために、私は正体を晒さざるを得なかった。

結果、護衛なしで外に出たことがバレて、若干騒ぎになったのは仕方ない。


「……不謹慎ですが、楽しかったですね」


その騒ぎを見て苦笑いをしつつ、アリシアがこそりと耳打ちをしてきた。


「そうね。とても、楽しかった」


私もまた、笑みを浮かべていた。

彼女との最期の思い出となった、今日一日のことを思い浮かべながら。


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