女王は拾った
彼らが完全に去った後に、子どもに向き直る。
「……ホラ、面倒ごとは去ったわ。さっさと帰りなさい。これに懲りて、今後は悪さをしないようにね」
子どもは反発するように何かを呟いた。
けれども声が小さ過ぎて、聞こえない。
「……何かしら?」
「……っ! だから、帰るところなんて、ない!」
瞳に涙を溜めながら、けれども睨みつけるような目つきで私を見ている。
「帰るところがないって……親と喧嘩でもしちゃった?」
アリシアが子どもに目線を合わせるようにしゃがみつつ、問いかけた。
「……違う! お、俺が……魔力持ちだからって」
「そうか……」
つい、溜息が漏れる。
それに反応したのか、子どもは震えていた。
「安心して。私も、アリシアも魔力持ちだから」
「嘘だ!」
「嘘じゃない。……ホラ」
軽く、魔力を放出させる。
少年は、すぐにその力に気がついたようだ。
……瞬間、堰を切ったように子どもの瞳から涙が溢れる。
「その姿からして、家を追い出されたのは昨日今日の話ではないでしょう。今まで、どうしていたの?」
「……村を追い出されてから、王都に来た。王都なら、何とかなるんじゃないかって。でも、俺みたいな餓鬼はどこも雇って貰えなくて……さっきみたいに金を擦って、生きてきた」
「……そうか」
私は子どもを抱き上げると、歩き始めた。
抱き上げられた子どもも、アリシアも驚いたように目を丸くしている。
「る、ルクセリア様!?」
「貴方を連れ帰るわ。食事も、学ぶ機会も全部あげる。貴方は庇護を受けて暮らし、学び、魔力の扱いに慣れ、大人になった時に自分の手で糧を生み出せるようになりなさい。大丈夫よ、途中で放り投げるような真似、しないから。貴方が助けを不要とするまで……最後まで、面倒を見てあげる。……私ができなることがあったとしても、周りにちゃんと言っておくし」
「なんで……っ」
「……嫌なの。何で、魔力持ちだからって、そんな目に遭わなければならないの」
私は、吐き捨てるように言った。
けれども少年は納得がいかないようで、ジタバタ暴れている。
「好意が信じられないのなら、将来私の役に立って恩返しをして頂戴。期待をしないで、せいぜい待っているわ」
……大人しくなった少年を抱えて、来た道を戻った。
「え、ちょ……あんた達、どこに向かうつもり!?」
城門に近づいたところで、再び少年が暴れ出した。
「どこって……そこよ」
私は空いた片方の手で、城を指す。
「……は?」
「あそこ、私の家」
「……え?」
少年が呆けている間に、さっさと門を潜って城内に入った。
……結局、少年を城の中に入れるために、私は正体を晒さざるを得なかった。
結果、護衛なしで外に出たことがバレて、若干騒ぎになったのは仕方ない。
「……不謹慎ですが、楽しかったですね」
その騒ぎを見て苦笑いをしつつ、アリシアがこそりと耳打ちをしてきた。
「そうね。とても、楽しかった」
私もまた、笑みを浮かべていた。
彼女との最期の思い出となった、今日一日のことを思い浮かべながら。