女王は散歩をする2
「夕方なのに、結構人がいるわね」
キョロキョロと大通り見ながら、素直な感想を口にする。
「そうですね。裏の路地さえ行かなければ、安全になりましたから」
「なるほど」
ブライアンの案を元に王都の警備見直し案を施行したけれども、中々功を奏しているようだ。
後で奏上したブライアンは褒めておこう。
それから、あちらこちらと目に映るままに店を冷やかした。
「……少し、値が上がっている?」
「そうですねえ。特に食料品関係は、ここ最近値段が上がっています」
セルデン共和国との戦争が噂になっているせいか。
様子を見て、価格調整の為に介入して……と、いけない。
折角アリシアと外に出ることができたのだ……今だけは、仕事を忘れよう。
そして私は、めいいっぱい外の世界を楽しんだ。
「今日は楽しかったわね、アリシア」
そう言いつつ、自然と口角が上がる。
「はい! ルクセリア様」
「あらダメよ。その名を大きな声で呼んじゃ……」
瞬間、ブワリと強く風が吹いた。
そしてそれと同時に、私のショールが風に乗って飛んでいく。
アリシアが、ショールを追いかけて走って行った。
「あ……」
……彼女が全力疾走をする姿を、久しぶりに見たからだろうか。
十一年前、私が彼女を失うキッカケが鮮明に私の中で蘇って、自然と体が震えた。
「ダメよ、ダメ。……アリシア、行っちゃダメ」
口から出た言葉は、擦れて声にもならない。
暫く、その場で呆然と立ち尽くしていた。
再び、強風が体を突き抜ける。
……ダメよ、ダメ。
アリシアを、一人にしちゃダメ。
私は自身に言い聞かせ、拳を握るとともに走り出した。
……確か、こっちの方に来ていた筈。
記憶を頼りに裏路地の方を進めば、彼女がいた。
……何故かその後ろには子ども、そして睨み合うように彼女の正面には男が三人。
「一体、これはどういう状況かしら?」
「あ! ……あの、すみません。このショールを掴んだ時に、この子とぶつかりまして……」
焦ったように答える彼女に、私は笑みを向けた。
「アリシア、大丈夫? 怪我はない?」
子どもと男たちをまるっと無視して、彼女に歩み寄る。
「あ、あの……大丈夫です、はい。私を置いて、お先に……」
「まあ、貴女を置いてなんていけないわ。……貴方たち、一体彼女に何の用かしら?」
彼女より前に立ち、いかにもガラの悪い男たちを睨みつけた。
「こ、この女に用はねえ。その、後ろの餓鬼を渡せ!」
前方への警戒を緩めることなく、チラリと後ろを振り返る。
アリシアの後ろに隠れるようにいた少年は、震えながら首を横に振っていた。
私は軽く溜息を吐くと、再び男たちと目を合わせる。
「申し訳ないけれど、この子は私が預かることになったの。……だから、用件を聞かせて貰えないかしら」
「用件も何も、その餓鬼が俺たちの金を擦ったんだ」
子どもに視線を向ければ、明らかにその子は視線を泳がせていた。
私は深く息を吐くと、懐から金貨を出す。
「それは申し訳なかったわ」
謝りつつそれを渡せば、男たちはそれ以上何も言わず去って行った。
……もっと金を寄越せだとか、更なる要求があるかもしれないと思っていたけれども、意外と良い人たちだったようだ。