女王の断罪3
「……とは言え、焦っては仕方ないと分かっているものの、早く片付けなければならぬな。もう少し道筋が立ち、内部の憂いを払わなければ……子ども達を迎えに行くにも万全には戦えぬ」
「……陛下の気持ち、分かります。ただ、相手は国家です。万全の体制を整えるに越したことはないでしょう」
「そうですねえ……ですが残された時間はあと少し、と言ったところでしょうか。トミーさんの工作が上手くいって、大分セルデン共和国の勢いがついていますから」
「そうだな。子ども達を早く助ける為に早くセルデン共和国に行動を起こして欲しいと思う一方、国内の背景を思えばもう少し待って欲しいと願う。……計画していた時から分かっていたことだが、それでも矛盾した願いを抱いてしまうものだな」
ふと、ゴドフリーを見上げる。
「……話が逸れたな。それで?ゴドフリーは、どのような要件で?」
「暫く任務にて王都を離れますので、ご挨拶をと」
「ああ……そうか。其方であれば万が一はないと信じているが、武運を祈る」
「有難うございます」
「なぁ……モーガン、ゴドフリー。其方ら、もし魔法を失くせる方法があったら、魔法を失くしたいと思うか?」
私が何を思ってそんな質問をしたのか、二人にはすぐ分かったようだ。
「……失くす必要はないと思います。魔法は、あくまでただの便利な道具。魔法を持っていることに、善も悪もない。……確かに、人は間違うことはあるでしょう。ですが、だからと言って、可能性を全て摘み取るべきではないと思います」
モーガンの言うことは、尤もだった。
魔法は、使う人の心の有り様で善にも悪にもなる。
誤った使い方をしたとしても、それは魔法そのものが問題なのではなく、魔法を持つその人自身の問題。
故に、責任の全てを魔法そのものに負わせるのは……それこそ、間違いだろう。
魔法のせいと逃げ道を作ることこそが、人への甘やかしだ。
「私個人としては、魔法は無くなっても良いと思っていますよ」
けれどもゴドフリーの意見は違った。
まさか魔法師団長からそんな言葉が出てくるとは思わなくて、素直に驚く。
「学術的には大変興味深く、無くならない方がありがたいのは確かですけれども……人も、社会も魔法を持てる程に成熟していない。ならば、魔法なんて無くても良いと思います。私を含め、一時的に職を失くす人は出ますが……大丈夫です。魔法が無くても、人は生きていけます」
けれども、だからこそ彼の言葉には説得力があった。
彼の言葉は、核心を突いている。
……セルデン共和国との間に広がる、埋めようのない意識の差を。
「……そうか。二人とも、ありがとう。大変有意義な意見交換であった」
「いえ。……それでは、私たちも失礼致します」
そして二人も部屋を去って行った。