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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
125/144

女王の断罪

コツン、コツン。

白黒格子柄の盤面上にある駒を弄ぶ音が、室内に響く。


「楽しそうですね」


部屋に入って来たのは、トミーだった。


「……ん?そうか?」


「そうじゃないんですか?やっと、宿願が叶ったんですよ?」


「確かに、捕まえたその時は楽しかった。奴らの哀れな姿を見たときには、それはもう……胸のすく思いだった。その筈なのに……何故だか、今は胸にポッカリと穴が開いた心地がする」 


「目標を失ったから、ですかね?」


「ああ……そうかもしれぬな」


一つの白王を残して、白の駒を全て転がした。

これで残った駒は、白王が一つ。


「……それで? セルデン共和国の動きは?」


「面白いぐらいこちらの思惑通りに動いてくれていますよ。各国に向けて、今回の粛清の件を利用して散々アピールしています。アスカリード連邦王国は、魔の国。そして陛下は、臣民を虐殺する残虐な王にして魔に魅入られた魔王と」


「ははは…っ!魔王とは……セルデン共和国も御伽噺好きが過ぎる」


「あれ、魔王って称号がそんなに気に入りました?」


トミーが不思議そうに首を傾げる。



……そうか。

考えて見れば、この世界に魔王が出てくる御伽噺はないか。


物語の悪役は、大体黒魔女だとか悪魔。

その悪の象徴に『魔王』が仲間入りする理由が私とは……もう、笑うしかない。


「中々大層な称号を貰えたものだな、と。やがて黒魔女や悪魔を超える恐怖の象徴になるかもしれん」


「それはおめでとうございます」


「ありがとう。……もう少しか?」


「そうですね。もう少しですよ」


「そうか。ならば余は、もうただ待てば良いのだな?」


「ええ。アーロンさんとゴドフリーさんとの連携は、俺の方でしておきますから」


「分かった。……よろしく頼んだぞ」


「承知致しました。それでは、失礼致します」


トミーが部屋を去ったと同時に、『侯爵』が部屋に入って来た。


「……其方も上手くやったな。ダグラス・オルコット」


彼の姿を見ると同時に、私は呟く。


「これで其方はこの国唯一の、侯爵。……他の侯爵が不正に手を染めた中、唯一王を支え続けた忠臣。筋書きとしては、素晴らしいであろう?」


「……皮肉でしょうか?」


彼の言葉に、クスリと笑う。


「まさか。真実、そう思っているだけよ。さて、侯爵。もう、良いな?」


私の問いに、一瞬侯爵の顔が強張った。

けれどもすぐに笑みを浮かべ、頷く。


「侯爵……其方は、知っていたな?十一年前の計画を。……けれども、其方は止めなかった。加担はせずとも、止めなかった」


スレイド侯爵が残した物は、全て目を通した。


どれを見ても、オルコット侯爵が十一年前の事件に関与したことを示すそれはない。

けれどもある一時、オルコット侯爵はスレイド侯爵の招待を断っていたことがある。


同じ時期にスレイド侯爵からの誘いをそれぞれ受けた侯爵は、以降十一年前の事件に加担していることを踏まえれば……それが何の招待かは大体想像がつく。

とは言え、手紙の中には何の明言もされていなかった為、あくまで想像の域を超えないが。


「全く……『心域』に頼り過ぎてはならぬな。其方の心の声は、確かに嘘は言っていなかった。だが、全てを言ってもいなかった。ただ、それだけ。……それに事件の折には無理をせねば余は魔法が使えなかったことも、其方にとっては功を奏したな」


「……言い訳に聞こえるかもしれませんが、何か良からぬことを考えていることは理解していました。けれどもまさか、陛下と妃を殺害するなどと大それたことをするとは……」


「……まあ、良い。罪の意識か最後の良心か、はたまた余が偶然五つの宝剣を呼び出したからか……其方は土壇場で、余についた。直接加担していないのも、理解している。だからこそ、其方の存在には目を瞑った。それで、何が不満か?」


「……いいえ。何も」


「それは良かった。昔宣言した通り、領政に関する其方の権限はほぼ失わせた。何か、不満はあるか?」


「いいえ、何も。他領は完全に王政に組み込まれつつある。そのような中で邪魔をすれば、自動的にオルコット侯爵家のみが独自の対応を迫られることになる。それは事実上、この国から見放されることと同義」


「まあ、そうだな。オルコット侯爵家は、唯一残された侯爵家として尊敬の念を浴び続けるであろう。それで不満と言われたとしても、どうすれば良いのか余も答えを持ち合わせていなかった」


私は笑みを深めつつ、最後の白王に手をつける。


「……十一年前、彼らを止められなかった罪を贖うため、私は当主の座から降り、蟄居いたします。息子には私の罪を告白すると同時に、一族を見逃してくれた温情をよく言い聞かせました。以降、陛下の良き手足となるでしょう」


「ならば、良い。くれぐれも、余を失望させるなと伝えておけ」


「……畏まりました」



それからオルコット侯爵が退出すると同時に、アリシアが入って来た。


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