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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第二章
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官僚は見守る

「……そうか。ならば仕方ないな」


ルクセリア様の許しの言葉に、けれども二人は希望の光をその瞳に宿す。


僕は、小さく溜息を吐いた。

まさか彼女の瞳を見て、それでも許しを得られると本気で思っているのか……と。


「とでも言うと思ったか。……随分と、余は見くびられているのだな」


瞬間、彼女から底冷えするような声色で非難の言葉が飛ぶ。

その瞳には、怒りの焔が燃えていた。


「「なっ!」」


「話をすり替えるな。その言い訳は誘拐には通用するが、人身売買には通用せぬ。何故なら、ここに其方らのサイン入りの書類がある以上、其方らが領民を受渡し、そしてその対価を受け取っていたことは覆せぬ事実だからだ。その事実がある以上……人身売買だと認識していなかったとは通用せぬであろう?」


「それは……」


「これ以上、戯言にしかならぬ申し開きは結構。……さて、サイラス・スレイド。其方は何か申し開きはないのか?」


今尚焦った様子のレイフ・ウェストンとバーナード・ベックフォードとは対照的に、サイラス・スレイドは落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「……ございませぬ」


「ほう?良いのか?」


「良いも何も……この場に引き摺り出された以上、私が負けたことは確定していますから。……これ以上、お前たちも見苦しい真似はよせ。ラダフォード侯爵を裁いた誠実の剣を持つ以上、この場で嘘を重ねれば重ねる程、不利になるだけだ」


サイラス・スレイドの諫めるような言葉に、レイフ・ウェストンとバーナード・ベックフォードはいきり立つ。


「なっ……!お前のせいであろう!」


「そうだ!お前が私たちを唆したせいだ!十一年前だとて……」


「ベックフォード侯爵!」


バーナード・ベックフォードの言葉を遮るように、サイラス・スレイドは叫んだ。


「……ああ、そうだ。其方たちに言われずとも、私自身で認めよう。今回の件、全て私が企てたものです」


シン……と、再び辺りが静まり返った。

聴衆たちは、驚いた表情でサイラス・スレイドを見つめている。


サイラス・スレイドの言う通り、査問会に引き摺り出された以上、罪を免れることはない。

けれども彼は、決定的な一言を自ら告げた。


最早罪を軽くしようと誤魔化すことも、言い逃れをすることもできない。

自ら首を絞めるような真似をした彼を、聴衆たちは驚きを以て見つめていた。


「そ、そうだ……!全ては此奴が悪いんです!」


「そうです、陛下!最も責任が重いのは、彼です!」


今度はサイラス・スレイドの言葉に希望を見出したのか、レイフ・ウェストンとバーナード・ベックフォードが再び口を開く。


「そうだ!私の罪が最も重い。そう認めているではないか……!だからお前達はもう、余計なことは言うな!」


罪を擦りつけようとするレイフ・ウェストンとバーナード・ベックフォード。


そんな二人を咎めるようにサイラス・スレイドが言葉を重ねることによって、皮肉にも、より二人が醜く愚かに感じられ、逆に彼自身はより清廉な者に映る。


……滑稽だった。


「ふふふ………はははっ!あははっ!」


まるでその滑稽さを嘲笑うかのような笑い声が、響き渡る。


瞬間、場が凍りついた。


この場に相応しくない笑い声が響いたせいではない。

……否、ある意味笑い声のせいか。


その笑い声は、恐ろしい何かに聞こえた。

まるで死そのものが囁きかけてきたかのような、凍えるほどに冷たいそれ。


そしてそれと同時に、肌が焼きつく程の重圧が玉座から放たれていた。

誰もが恐ろしいと言わんばかりに、ルクセリア様から視線を逸らす。


「……殊勝だな、サイラス・スレイド」


ニタァと、彼女は笑みを浮かべた。

……否、あれは笑みではない。

口が裂けた、という表現の方が彼女には合っていた。


「……本当に、意外だ。其方に家族の情があったとは」


何故か、彼女は納得していた。

一体彼の言葉の何が彼女の琴線に触れたのか、分からない。聴衆も同様のようだ。


……ただ一人、サイラス・スレイドを除いて。


明らかに彼は、ルクセリア様の言葉を聞いて顔色を変えていた。


「其方からすれば、確かに二人には黙っていて欲しいであろうな。何せ二人は共犯者。都合の悪い事実を知っている彼らが、余計な事を口にしては堪らぬであろう。今回の件も然り……昔の件も然り」


ついにサイラス・スレイドは震え出す。

けれども彼女は、止めない。

……彼を追い詰める、言葉を。


「余が知らぬとでも、思っておったか?其方の罪を。そして其方の横に並ぶ者たちの罪を」


彼女の言い回しは、意図的に核心を突くことを避けていた。

その意図を問いたい衝動に駆られたが……けれども、できない。

彼女から漂う恐ろしい圧に、僕含めその場の誰一人として口を開くことができなかった。


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