官僚は見届ける
青よりも蒼い、美しい空。
「……いよいよだな、ブライアン」
同僚の言葉に、生唾を飲み込みながら頷いた。
そのまま無言で僕たちは玉座の間に向かう。
こんな晴れやかな日に、けれども玉座の間は重苦しい雰囲気がのしかかっていた。
……それも当然だ。
今日は、査問会。それも被告人席に座るのは、五大侯爵家の当主が三人。
誰もが、今か今かと査問会が開始するのを待っていた。
ルクセリア様も玉座に着き、侯爵が到着するのを待つ。
まるで氷で出来たかのように、彼女の顔には何の感情も浮かんでいない。
けれども、僕は確信していた。
その表情は、嵐が起こる前の静けさだと。
……この査問会が、平穏のままに終わる筈がないと。
玉座の間には、多くの人が集まっていた。
この国を揺るがす査問会を見守ろうと。
そうして、衝撃と共に待ちに待った時がやって来た。
僕にとって……否、今この場にいる聴衆たちにとっても、五大侯爵は権力の象徴。
豪奢な服に身を包み、遮る者はいないと言わんばかりに肩で風を切っていた。
それが、今ではどうだろうか。
アーロンたちに連れて来られた彼らは皆、質素な服に身を包み、ただただ肩を縮こまらせている。
オマケに、明らかに憔悴しきっていた。
彼らは玉座から離れつつも、跪くようにしゃがみ込んだ。
そしてその瞬間を待っていたかのように、鐘が鳴り響いた。
「これより、ベックフォード侯爵家当主バーナード・ベックフォード、ウェストン侯爵家当主レイフ・ウェストン、そしてスレイド侯爵家当主サイラス・スレイドの査問会を開始する!」
玉座の横に控えていた官僚が、室内に響き渡るように叫ぶ。
ビリリと、空気が震えた。
「……バーナード・ベックフォードとレイフ・ウェストンの罪状は誘拐と人身売買。両名は領民を拐い、サイラス・スレイド侯爵に売却していました。サイラス・スレイドの罪状は人身売買と利敵行為。彼は領民たちを隣国セルデン共和国に売却しています」
読み上げられた罪状に、聴衆はザワザワと騒ぐ。
「尚、証拠としてバーナード・ベックフォード氏とレイフ・ウェストン氏のサインが入った人身売買に関する書類が、こちらにございます。また、ルクセリア陛下と国軍兵はサイラス・スレイド氏拘束の折、行方不明だった子供たちが捕われているのを目にしています」
官僚が口を閉じた後、ルクセリア様が軽く手を上げた。
瞬間、騒めいていた空気がシン……と静まる。
「……何か、申し開きはあるか?」
「陛下……わ、私は騙されたのです。エトワールとかいう、見世物小屋の者たちに」
レイフ・ウェストンが徐に口を開いた。
「わ、私もです。腹心の部下に、裏切られてしまったのです……。誓って、陛下を裏切るような真似はしておりません!」
続いて、バーナード・ベックフォードが口を開く。
その必死な姿は、雅さを誇る貴族のそれではなかった。