女王は対峙する
応諾したアーロンとゴドフリーを連れて、私は牢獄を訪れる。
今回捕らえたのは、スレイド侯爵家・ベックフォード侯爵家・ウェストン侯爵家……と、非常に多い。
おかげで、牢獄は満員御礼の状態だ。
今回は、カールの元を訪れた。
好みは、後の楽しみにしておきたくて。
階段を降りるごとに、どんどんと暗さが増す。
鉄格子に囲まれた牢獄の中、カールは静かにその中央に座っていた。
私はそっと鉄格子に近く。
「其方が、カールか」
声をかければ、物凄い勢いでカールが近づいてきた。
鉄格子の先にいる私に、救いを求めるように。
私を、救いの神とでも思っているのだろうか?
……そんな疑問に、思わず笑ってしまった。
「……陛下。此度のこと、誠に申し訳ございません! しかし……私はベックフォード侯爵の無茶な命令を実現するために、スレイド侯爵を頼る他なかったのです」
だから、だったのか。彼はここぞとばかりに捲し立てた。
聞いてもいないことを、ペラペラと。
へえ……カールとスレイド侯爵は、繋がっていたのか。
カールからは証拠が出てこなかったけれども、スレイド侯爵家の押収品の中からその証拠を得ている。
ああ……腹立たしい。
彼が口から出す言葉とは全く異なる心の声が聞こえるから、余計に。
「……のう、ゴドフリー。言葉とは、こんなに軽いものなのだな」
「そうですね。私も驚きです」
遠くに控えていたゴドフリーが、近づいてくる。
瞬間、まるで恐ろしいものにあったかのように、カールが後退りをした。
「……ゴドフリー。これ程までにカールに恐怖を抱かせるとは……其方、一体何をした?」
「別に、何にもしてないですよ?ただ、捕まえただけです」
本当に心当たりがないとでも言うかのように、ゴドフリーは首を傾げている。
明らかに『ゴドフリー』の名前で反応を示したのだ……それだけ、強烈に印象付ける何かがあった筈なのだけど。
私はそっと息を吐いた。
「……このような小者に、ベックフォード侯爵は操られていたのか」
ギリリと、唇を噛み締める。
ああ……腹立たしい。腹立たしい。
仇の一人であるベックフォード侯爵が、こんな男に操られる程度の男だったのだと見せつけられるようで。
「……陛下。少々抑えた方が良いですよ」
ゴドフリーの言葉に、我に返る。
「ああ……すまぬ」
「いえいえ。陛下のご威光を示す素晴らしい魔力ですが……少々、刺激が強過ぎたみたいですね」
彼の視線の先を辿れば、鉄格子の中にいたカールが震えていた。
顔色は真っ青を通り越して土気色になっている。
「……其方の言葉を、どうして余が信じられようか。二度も主人を捨て、自らだけ助かろうとした其方のそれを」
私は視線をゴドフリーに移した。
「ゴドフリー。其方、ちゃんと伝えたのか?余が、この件に関わる者たち全てに対して怒りを感じていることを」
「ええ、勿論」
「それで、これか。……余も舐められたものだな」
再びカールを見下ろしながら、口を開く。
「罪なき領民たちを害したことは、突然許せぬ。……己の罪を噛み締め、残り僅かの時間をここで過ごせ」
そして私は、その牢獄から去った。
「……お戻りになられるのですか?」
道中、それまで口を閉ざしていたアーロンが問いかけてきた。
「うむ。……好みは後にとっておくタイプでな」
私の言葉に、アーロンは首を傾げる。
「侯爵らは、二日後に査問会が開かれる。どうせそこで相見えるから、今は良い。……どうせ奴らも、カール同様、下らぬ陳述しか口にせぬであろう?そんな戯言を二度も聞いてやるほど、余の時間は安くない」
「ああ、そういうことですか」
「……何より、その方が楽しいであろう?皆の前で無様に転がされながら、それでも必死に助けを乞う様を想像したら……ふふふ」
笑いが、止まらない。
……何て、甘美な想像。
アーロンもゴドフリーも、それ以上特に口を挟まない。
おかげで、思った以上に私の笑い声が響いていた。
そうこうしている内に、執務室に到着する。
「二人とも、ご苦労」
上機嫌のまま二人と分かれると、私は机に向かって仕事を始めた。




