女王は仕事に戻る
「ああ……お陰で、疲れが取れたよ。すまんな」
トミーの言葉に応えると、ゴドフリーが眉を下げつつ口を開く。
「我らに謝罪は不要です。……あれだけ魔法を大判振る舞いされたのですから、休んで当然かと」
「ゴドフリー殿の仰る通りです。情けない話、ルクセリア様の魔法のお陰で、我らは戦場で楽をさせていただきましたからね。その分、後始末で働かなければ我らの立つ瀬がございません」
「アーロンこそ、何を言うか。此度の勝ち星は、其方たち一人一人の尽力があってこそ掴み取ったもの」
「勿体ないお言葉です」
アーロンはそう言いつつ、頭を下げた。
「面を上げよ。……さて、皆の報告を聞こうか」
アーロンとゴドフリー、それからトミーはそれぞれの戦いを報告してくれた。
「……エノーラのことは、残念であった」
「申し訳ございません。……彼女を、救えなかったことは我らの失態です」
「其方らを、責めはせん。彼女は、其方らに救われることを良しとしなかった。それだけのこと」
「しかし……」
「時を戻せぬ以上、悔やんでもどうしようもない。故に、この件に関してはこれで終いだ。……彼女を、彼女の子と共に埋葬することを許す」
「……ありがとうございます」
「……トミー。スレイド侯爵家の屋敷には、其方の部下以外の子ども達はいたか?」
「残念ながら、いませんでした。既に、セルデン共和国に送られてしまったものと」
「……ギルバート」
「既に、外交ルートでセルデン共和国には抗議を入れています。……ただし残念ながら、スレイド侯爵が自主的に子ども達を送っている以上、『連れ去った』と抗議することは難しい。よって、『我が国の魔法使いの不当な扱い』を抗議すると共に、我が国で彼らを保護する旨を申し入れています」
「セルデン共和国の反応は?」
「未だ、返答はきておりません」
「ふむ……そうか。トミー」
「はい。今のところセルデン共和国の上層部の反応は二分しています。一方は、我が国の抗議に憤慨している奴らですね。中には実験段階である魔法師団を活用し、アスカリード連邦国に攻め入ろうとする強硬派もいるようです。もう一方は、『不当な扱いなど事実無根』と諸外国にアピールすると共に、我が国にもその旨を申し入れて様子見をしようとしている一派です」
「ふはっ……ギルバード。其方の策は見事にハマったな」
私の言葉に、ギルバートは首を縦に振った。
その横で、アーロンが若干首を傾げたのが目に映る。
「見事に、セルデン共和国は二分し混乱しておる。同時に、ギルバードは他国に示したのよ。魔法を『不気味で恐ろしい力』だと他国に積極的に宣伝し回っている国が、魔力持ちを集めているということを。例え、セルデン共和国が否定しようとも問題ない。そんな抗議をされること自体が問題なのだ。……何かを企んでいるとしか思えぬであろう?」
「まあ、そうですな。軍備増強の為、と考えるでしょう」
「たった一つの抗議で、セルデン共和国内に不和を引き起こし、他国がセルデン共和国に対して疑心暗鬼に陥る。それが理解できるからこそ、セルデン共和国も焦っているのであろう。まあ……セルデン共和国の上層部が事実を突かれて逆に怒り出す者たちか、あるいは、事実を隠そうとする者たちばかりだからであろう」
「はっ……その言葉だけ聞いていると、子どもみたいな反応ですよね」
トミーは冷笑を浮かべつつ、吐き捨てた。
「そう言うてやるな。……トミー、其方は引き続き、セルデン共和国の動きを注視せよ。それから、今回の件……上手く使うと良い」
「ええ。子ども達を早く取り戻せるよう、頑張りますよ。ね? ギルバートさん」
「勿論」
二人の返答を聞いた私は、立ち上がる。
「……さて、と。皆、余と共に来るか?」
「私は遠慮させていただきます。今回皆さまが捕まえた各侯爵領の領政を整備する為、諸々業務が溜まっていますので」
「俺もパスです。今はセルデン共和国に集中させていただきますよ。それに、折角誰にも邪魔されずにスレイド侯爵家の屋敷の捜索ができるので、改めて何か出て来ないか調べてみようかと」
「そうか。アーロンとゴドフリーはどうする?」
「ならば、私はお供させて下さい」
「わ、私も」