女王は癒しを求めた
何処までも広がる、深い闇。
どんどんその闇に私が侵食されて、境が曖昧になって……私という存在が無くなりそう。
そんな状況に、恐怖して。
逃げたい……逃げたいと素直に自分の思いを叫んだ瞬間、誰かの手が私を掴んだ気がした。
そして、目が覚めた。
震える手で支えながら、体を起こす。
……未だ、怠い。
けれども意識を飛ばす前よりも、随分と楽になった気がする。
私は体の調子を確かめながら立ち上がり、真っ赤に染まった手を湿らせた布で清めた。
「誰か……」
「……お呼びでしょうか、ルクセリア様」
「あら、フリージア。アリシアは?」
「ルクセリア様がそろそろお目覚めになるだろうからって、お茶を準備しに行きました」
「ふふふ……それは楽しみね。私は、どれぐらい眠っていた?」
「ほんの一刻ほど」
「そう……『フリージア。この布を、誰にも見つからないように廃棄しておいて。その後に』アリシアをこの部屋に呼んで」
「承知致しました」
私が渡した布を隠すように持った彼女を見届け、再びカウチに座ってアリシアの到着を待つことにした。
「ルクセリア様、お待たせ致しました!」
「あら、この甘い匂いは……今日のお茶は貴女のデザート付きかしら?」
「ええ、そうです。お疲れかと思いましたので軽めのもの……と、体を動かされたので重めのものと二種類準備致しました。ルクセリア様、どうされますか?」
「ふふふ……なら、どちらも」
「はい、どちらもですね。……って、ええ?どちらもですか?」
「ええ、そう。アリシアのデザートを逃す手はないもの。それで?軽めのものと重めのものは、それぞれどんなメニューなのかしら?」
「軽めのものは、ベルルのムースを作成しました。重めのものは、以前ルクセリア様が『タルトタタン』と名付けたケーキを準備致しました」
「まあ、素敵!有難う、アリシア」
淹れて貰ったお茶を飲みながら、ムースとタルトタタンを食べ始める。
「美味しい!また腕を上げたわね」
彼女の作ったそれらを、夢中で頬張る。
……ああ、美味しい。
やっぱり、疲れたときにはアリシアの甘いものに限る。
あっという間に食べ尽くした私は、最後にもう一度彼女にお茶を淹れて貰った。
「さて……何時までも休んでいては、皆に悪いわね」
そして私は自室の外に控えていた護衛騎士を連れ、執務室に向かう。
「お疲れ様です、ルクセリア様。十分に休めましたか?」
席に着いて暫くしたところで、アーロン、ゴドフリーそれからトミーとギルバートが部屋に入って来た。




