そして女王は、倒れた
「……陛下。ご無事の帰還、何よりです」
王都に戻った私を出迎えたのは、ギルバートだった。
「他の皆は?」
「まだお戻りにはなられておりません。……が、それぞれ目標を捕らえたとの知らせが入っております」
「そうか……それは良かった」
「セルデン共和国の者はいましたか?」
「ありがたいことに、今回は余計な手出しはされず……だ」
「それは重畳。急いだ甲斐がありましたね」
「ああ、そうだな。……セルデン共和国が介入する前に、スレイド侯爵家を捕らえることが出来て良かった」
「ええ、ええ。………我々が一番恐れていたのは、まさにそれでしたから。いかにルクセリア様であっても、一国を相手にしては難しかったでしょう」
「……と言うよりも、奴らの援助でスレイド侯爵家が逃げたら面倒だった」
私の言葉に、ギルバートは吹き出した。
「ははっ……確かにそうですね。スレイド侯爵も驚いたでしょう。……まさか、救援依頼を出す間もなく捕らえられるとは思ってもみなかったでしょうから」
「そうかもしれぬな」
「……セルデン共和国がこちらの動きを察知する前に、急ぎ捕らえる。ルクセリア様の作戦は見事に上手くいったようで何よりでした」
「……皆の頑張りがあってこそ、だ」
彼と共に歩いていたら、いつの間にか自室の前まで辿り着いていた。
「……少し、休む」
「ええ、承知致しました。……お疲れのところ、申し訳ございません。失礼致します」
ギルバートが去ったところで、私は自室に入る。
「ご無事のお帰り、何よりです」
室内には、アリシアが待機していた。
彼女はその瞳に涙を浮かべつつも、笑みと共に私を迎えてくれた。
……帰って来たんだな、と彼女の姿を見て思う。
「ただいま」
「ご無事で、本当に……本当に、良かったです」
「ありがとう……アリシア」
それから暫く、涙を流し続ける彼女を抱きしめ続けた。
「……もう、大丈夫?」
嗚咽が止まったところで、そっと私は彼女から離れる。
「すいません、私ったら……」
彼女の頬は、赤く染まっていた。
ああ、可愛い。
「ふふふ……良いのよ。だって、それだけ私の無事を喜んでくれたということでしょう?」
「それは……はい。ルクセリア様がご無事にお帰りになられて、本当に嬉しいです」
「私も、ちゃんと帰って来られて……貴女にまた会えて嬉しいわ」
それから彼女が落ち着いた後、汚れた衣服を脱いでゆっくりと湯に浸かって疲れを癒した。
そしてその後、ゆったりとした作りの服を着てカウチに深く腰掛ける。
「……アリシア」
「どうかなさいましたか?ルクセリア様」
「ちょっと、一人にして貰えるかしら?休みたいの」
「承知致しました」
皆が部屋を出た瞬間……我慢ができなくなって、その場に倒れ込んだ。
酷く視界が歪んでいて……体中に激痛が走っている。
「……っ」
咄嗟に、声が漏れないようにと唇を噛み締めた。
強く噛み締め過ぎたのか、鉄の味が口の中いっぱいに広がる。
……無理もない。
今回は、宝剣を二つも使ったのだ。
むしろこれだけで済んで良かったと、喜ぶべきなのだろう。
「ゴホゴホゴホッ……」
噛みしめた唇から溢れる血とは別に、体の奥底から込み上げた血が口から飛び出た。
「ゴホッ……!」
意識が遠のいていく。
……壊れた器から、サラサラと私の命の刻限が零れ落ちていくのを感じながら、私は意識を手放した。