女王は突入する3
「その者が魔法を無効化することは、分かっている。その上で、余が対策をしないと?」
「だが、魔法を無効化する魔法の対処など……」
「余としては、其方がわからないことの方が驚きなのだが……」
五大侯爵家はそもそも、莫大な魔力を消費する宝剣に魔力を捧げる役目を負っていた。
だから、五大侯爵家ならば宝剣の能力を知っていてもおかしくないのだけれども……最早、その役目は忘れられて久しい。
……役目と共に能力すら、忘れ去られたか。
そっと、手をかざす。
直後、ズシリとした重みが手にのりかかった。
私の手の内にあるのは、蒼色の光を纏った宝剣だった。
「これは、叡智の宝剣。能力は、敵の魔法の無効化と味方の魔法強化。……つまり、この宝剣の力を発動させ続けている限り、其方の魔法は効かぬ」
スレイド侯爵が、初めて焦りを見せた。
その様が、あまりにも愉快で愛しくて……つい、心が躍ってしまう。
『スレイド侯爵と、その側近よ。其方らも、跪け』
瞬間、彼らも周りの私兵たちと同様その場に跪いた。
屈辱的なこの状況に、彼らは苦悶の表情が浮かべている。
「皆を捕縛せよ」
私はそんな彼らをせせら笑いながら、周りに指示を飛ばした。
それまで静かに事の成り行きを見守っていた隊員たちは覚醒してスレイド侯爵たちを捕らえる。
「さて……帰るぞ」
面倒な奴らが動き出す前に……な。
その言葉が聞こえたかは分からなかったけれども、隊員たちは指示通り動いていた。
『こちら、トミー』
突然、私の頭の中にトミーの声が響く。
『どうした、トミー。そう言えば、姿が見えぬな』
『そっちは部下たちに任せたので、俺はウェストン侯爵家に移動しました』
『……計画を立てた余が言うのも難だが、其方は勤勉だ』
『ええ、まあ。もっと褒めてくださっても良いですよ……と言いたいところですが、実際は楽な仕事です。ウェストン侯爵家の主だった者たちは皆、オスカー率いる私兵……反乱軍と言った方が正しいですかね?まあ、どちらでも良いか。彼らとオルコット侯爵家の兵が既に抑えてくれていましたので』
協力者のアテとは、オルコット侯爵。
ゴドフリーやアーロンに作戦を伝えると同時に、別途オルコット侯爵にも助力を求めていた。
『そうか。オスカーとオルコット侯爵家はしっかり働いてくれたのか』
『ええ。……それはもう、こちらが驚く程』
『ならば、良い』
『と言う訳で、俺は俺と一緒に来た隊員たちと一緒にウェストン侯爵家の奴らを全員連れて王都に戻りますので』
『分かった』
トミーとの通信を終えると、私は王都に戻った。