女王は突入する2
「……これは、これは。驚きました。本日お会いする約束をしていましたでしょうか?」
突然私が現れたことには驚いていたようだが、流石はスレイド侯爵。
すぐに平静さを取り戻して、問いかけてきた。……中々に、肝が座っている。
「いいや。突然の訪問ですまないが、早急に其方と話す必要があってな」
「早急に、ですか。……貴女のご希望には最大限添いたいものですが、生憎とこちらも立て込んでおりまして。正規の手続きを踏んで、お越しいただけると大変ありがたいのですが」
「否、これは国家にも関わる大事。他の何を置いても、優先させるべきことではないか?」
「仰ることは尤もですが、だからこそ、正規の手続きが必要なのでは?」
スレイド侯爵の言葉に、私は笑った。
その笑い声は、静かな室内に不気味に響く。
「ちゃんと、正規の手続きに則っている。……罪を犯した罪人を捕らえるための、な」
「……はて。罪、ですか?」
「人身売買のおかげで、どれほど潤った?」
「大変申し訳ないのですが、仰っている意味がよく分かりません」
揺さぶりをかけても、彼は全く動じない。
まあ……これだけでボロを出すような真似はしないか。
「ほう。……最近、人身売買を犯した疑いがあるとベックフォード侯爵家の捜査をしていてな。そこで押収した書類には、スレイド侯爵家に攫った子ども達を引き渡していると記載があったのだが?」
ペラリと、懐から書類を出す。
幾つかある書類の内、この為に一つを持参していたのだ。
「なっ!心外です。私はそのようなものに、関わっていません。……恐らく、当家を騙る何者かの犯行によるものでしょう」
まるで自分こそが被害者だ、とでも言うかのような沈鬱な表情。
最早ここまで来ると、一流の役者以上に役に入っていると言っても過言ではないかもしれない。
「ほう?では其方はこれを知らぬと言うことか?」
「ええ、全く。……その証拠に、その紙には私のサインや侯爵家の印が一切ない」
ただ、悲しいかな。
彼は、役者であっても脚本家ではなかった。監督でも、なかった。
「……ふふふ、はははっ」
だから、彼は間違えた。
そしてだからこそ、私の描いた筋書き通りに進んでいた。
「……何が、おかしいのでしょうか」
「これが笑わずにいられるか?其方はこれを知らぬと言った。ならば何故、この屋敷に魔力持ちが捕らえられている?」
「陛下!捕らえられていた子ども達を無事、救出しました」
そのタイミングで、トミーが声高らかに宣言しつつ部屋に入って来る。
……あまりにタイミングが良すぎて、笑うしかない。
「看守は捕らえたか?」
「勿論です。既に、自供も取れています」
「……だ、そうだ。これでも尚、其方は否定するのか?」
「くっ……」
瞬間、けたたましくベルの音が鳴り響く。
それが、非常事態を知らせる報せと分かるのに、そう時間はかからなかった。
あっという間に、多くのスレイド侯爵家の私兵たちが部屋の出入り口を取り囲んでいた。
狭くはない室内だったが、人が集まり過ぎて狭く感じる。
「その者を、取り押さえろ」
『スレイド侯爵家の私兵たちよ。全員、跪け』
スレイド侯爵と私の発言は、全く同時だった。
勿論、私の魔法に従って全員がその場で跪いている。
「なっ……!……ありえない。魔法はこの室内で使えない筈」
「……其方まで、驚くか」
スレイド侯爵の驚く様に、つい私は溜息を吐いた。