団長は、追い詰める
アーロン殿と分かれた私は、カールを追っていた。
「ああ……本当に、凄いです」
そう呟く私の正面には、カールとベックフォード侯爵家の嫡男であるラッセルの姿があった。
そしてその二人の周りには、幾人かの護衛がいる。
彼らは一様に、突然現れた私を警戒しているようだった。
「本当に凄いものですね」
「一体先ほどから、何を訳分からないことを……いいから、そこをどけ!」
ラッセルが怒鳴る。
それを無視して、地面に手を置いた。
一瞬で、高々とした土の壁が登場する。
「貴方も凄いと思いませんか。……ねえ?」
楽しさを共有したくて問いかけたというのに、誰も何も言わない。
「え……ええ。貴方の魔法はとても強力で素晴らしいものだと思います」
やっと口を開いたかと思えば、検討外れなそれだ。
……つまらない。
カールならば、もっと気の利いた発言をしてくれると思ったのに。
カールの表情には笑顔が貼り付けられているものの、瞳には困惑の色が映っている。
「私が、ですか?いえいえ、一体何を仰っているのだか」
つまらないその言葉を、笑い飛ばした。
「私が凄いと申し上げたのは、陛下と側近の方ですよ。……貴方たちの逃走ルートを、こうもピタリと言い当てるとは。お陰でこうして私は、楽ができるというものです」
陛下という言葉を聞いた瞬間、カールの動きが止まった。
「あの、貴殿は一体何者……?」
「ああ……すみません。私の名前は、ゴドフリーと申します。王国魔法師団団長を務めております」
私の答えを聞いて、カールと青年はサッと顔色を変えた。
「……あ、貴方が有名な魔法師団団長ですか……」
「おや?私をご存知でしたか。随分と情報通なのですね」
『どの口がそれを言うのだか』という心の声が聞こえてきそうなほどに、カールの表情は強張っていた。
「ダメですよ。そんな表情を浮かべていては、皆さんが不安がってしまいます」
私の注意に、カールは無言のまま笑みを返す。
「……さて、ラッセル様、カールさん。どうか大人しく捕まって下さいませんか?」
「捕まる?はて、一体私が何をしたのでしょうか?」
「心当たりがあるからこそ、逃げているのでは?」
「逃げる?失礼ですが、ゴドフリー殿。私には全く意味が分かりません。私は、ラッセル様と共に出かけるだけです」
「そうでしたか……ならば、丁度良い。代わりに、私と共に王都まで楽しくお出掛けしましょう」
「いえいえ、高名なゴドフリー殿とご一緒させていただくなど……」
「遠慮せずにどうぞ。私としては、大人しく付いてきていただきたいのですが」
相手の出方を伺うように、彼らを注視した。