団長は、突入する4
室内に残った隊員たちも皆、エノーラの毒気に当てられたかのように顔色が悪い。
「ああ、ごめんなさい。私の為にお時間を使わせてしまって。さあ……参りましょうか」
そう言った瞬間、彼女は目の前に置いていたグラスを手に取る。
混乱しきった隊員たちは、ただただその様を呆然と見ていた。
……まずい!
即座に彼女の手を止めようと動いたが……エノーラとの間に、距離があり過ぎた。
結果、彼女を止めることは叶わず、彼女はグラスの中身を一気に飲み干す。
そうして彼女は、静かにその場に崩れ落ちていった。
「エノーラ夫人!」
倒れ込んだエノーラを、抱き起こす。
「すぐに、医療班を!早く!」
そして、近くにいた隊員たちに指示を出した。
「まあ、エノーラ夫人ですって。ふふふ……夫人なんて呼ばれたのは、はじめてよ」
エノーラは、囁くように呟く。
……苦しそうに、胸を押さえながら。
「あの男と女と一緒に処刑されるなんて、真っ平御免。ねえ、だからアーロン様。どうか私を、助けないで」
エノーラは、静かに微笑んだ。
毒の苦しみなど感じていないかのような、柔らかくて清々しい笑み。
「まあ……私がお願いしなくても、もう遅いでしょうけど。ああ、そんな顔をなさらないで。私、やっと今……自由になれたのですもの」
そうして、彼女は息を引き取った。
「……団長。隣も、ダメでした」
沈鬱な表情を浮かべた隊員が報告をする。
「そうか。……残念な最後だったが、これで我々の任務は完了だ。お前たちは彼女と、隣室の者たちを運んでくれ。くれぐれも丁重に」
「はっ!」
「私は使用人たちを拘束している隊を見て来る」
そっと、彼女を床に下ろした。
「隊長」
そうして立ち上がった私に、隊員が声をかけてきた。
「……何だ?」
「……差し出がましい口をききますが、夫人の話が本当だったのか、使用人たちから裏を取って貰えますか? このままでは、夫人はベックフォード侯爵たちと同じく名を堕とすことになります」
「ああ……そうだな。たとえ夫人が真実関わってなかったとしても、ベックフォード侯爵夫人として関与を疑われ、ベックフォード侯爵と共に汚名を被ることになってしまうだろう」
「そんなの、悲し過ぎます。せめてこれからは、夫人をベックフォード侯爵から自由にしてあげられないのでしょうか?ベックフォード侯爵から夫人として認められなかったと言うのであれば尚のこと」
「……ああ。せめて彼女を、彼女の子ども達と寝かせてやろう」
そうして、私は今度こそその部屋を出て行ったのだった。