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悪徳女王の心得  作者: 澪亜
第一章
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王女と侯爵

お父様とお母様が亡くなったと知ってから、三日。

私は、密かに王宮に戻ってきていた。

……幽閉を私に命じたお父様は、既に亡い。

唯一の王位継承権を持つ者として、王宮に戻る必要があると判断してのことだった。

元々塔には荷物を最小限しか持ち込んでなかったので、驚くほど簡単な引っ越し。


私が塔に幽閉されていたことを知る人物は、お父様とお母様を除けば、直接私を世話していたアリシアと『侯爵』だけ。

塔に幽閉されている間、ずっと私の不在を隠し通していたそうだ。

おかげで、私はずっと王宮に住んでいたという嘘を誰も不審に思うことはない。


「ふう……」


溜息を吐きつつ、カウチに深く腰掛ける。

……体が、怠い。

その上、何故か心の声が全く聞こえない。


王宮に戻れば、再び心の声が四六時中聴こえてくることになるだろうと、塔から引っ越す前に覚悟を決めていた。

塔のそれとは違って王宮の生活は、どうしても多くの人に囲まれることになる。

当然、聴こえてくる心の声も多くなる……筈だった。


筈だったのに、今、全く声が聞こえてこない。

……一体、どうして?


否、なんとなく……理由は分かっている。

『永遠』の宝剣を使ってアリシアの命を繋ぎ止めてから、全く身の内の魔力を感じられなくなっていた。

恐らく……あの時、私の魔力に何らかの異常が発生したのだろう。


「……失礼致します」


ノック音がして、侍女と共に入ってきたのは侯爵だった。


「何か、分かったか? それとも、アリシアが目覚めたか?」


務めて、言葉遣いを変える。

それは、記憶にあるお父様の口調を意識してのこと。

侯爵は一瞬驚いたように目を見開いていたけれども、あえて私の口調の変化には触れないようだ。


アリシアは、未だに目覚めない。

宝剣の力で命を繋ぎ止めたとはいえ……あの事件の時、アリシアは瀕死の状態だったのだ。

いつか容態が急変してしまうのではないかと、気が気でない。


「あの少女は、未だ深い眠りの中にいます。……宝剣の力を信じるしかないでしょう」


「……そうするより他なし、か。王宮の医師に、手厚い看護を続けさせよ」


「承知致しました」


「それで、何用か?」


「……前王と王妃を襲撃した輩の背後が、掴めました」


「ほう……調査を始めて三日で分かったか。随分と頑張ったものだ。それで、犯人は?」


「……スレイド侯爵家当主です」


侯爵の答えに、私は噴き出した。

そしてそのまま、声をあげて盛大に笑う。


「ははは……っ! 其方の言葉を信じるのであれば、五大侯爵家の当主が王を殺したというのか? ……傑作だな!」


ビリリ、と私の怒りに呼応するかのように壁が揺れた。


「王国で最も力を持つ五大侯爵家の一角が、王家から離反した……この分では、他の侯爵家もどうか分からぬな」


それが、一番の問題だった。

この国……アスカリード連邦王国は、今でこそ王族のもと一つの国家にとして運営されているけれども、建国当初はその名が示す通り、複数の小国の集まり。

その名残で、侯爵の地位を与えられている家は『五大侯爵』と呼ばれる五つの侯爵家のみしかなく、かつそれらの侯爵家は強力な権力を有している。


「なっ……! 我が侯爵家は、アスカリード王家に忠誠を誓っております」


「ああ……そういえば、そなたも侯爵であったな? ……けれど、本当にそなたは味方か?」


思わず、薄っすらと笑いが浮かんだ。

侯爵は、気まずそうに一瞬顔を背けた。


「……っ。確かに、私は我が身に流れる血と我が領を誇りに思っています。だからこそ私が最も守るべきものは、我が領地とそこに住まう民。それは、揺るぎない事実です」


けれども、そう言葉を紡ぐ侯爵は再び真っ直ぐと私を見ていた。

その瞳に映るのは、怖いほどの気迫。


「ですが……かつて私の祖先は、アスカリード王家の軍門に下りました。そうすることが、我が領地と民にとっての最善と信じて。そして王家は、そのときに私の祖先と交わした『約束』を守り続け……確かに、領地と民を守り続けています。そのご恩に報いこそすれ、裏切ることなど以ての外。先祖に顔向けできない、道理に悖る行為です。貴女様がかつての約束を引き継ぎ、我らと共にある限り……私は、貴女様の盾となり矛となる所存です」


「その言葉に、偽りはないか?」


「……私は、姫さまの魔法を知っていますから。口先での言葉遊びなど、不要。虚言を申すことは、愚の極み。……違いますか?」


ジッと、侯爵を見つめる。

その表情から、少しでも彼の心の内を読み取れるように。


「……その通りだな」


心の声は、相変わらず聞こえない。

今まで心の声が聞こえることを煩わしいとしか思っていなかったのだけど……不便に思うとは。

ただ、この状況で侯爵が嘘偽りを言う可能性は少ないだろう。

侯爵は私が魔法を使えなくなったことを、今はまだ知らない。

本音が筒抜けの相手に、わざわざ嘘を言う意味はない筈だ。

それに……こんな真剣な光を宿した人物が、嘘を言っているとは思えない。


「信頼の証に、一つ其方(そなた)に相談を」


「……何でしょうか?」


「誰か、魔法の研究者をここに呼べ。宝剣を使ってから、どうも私の魔力の流れがおかしい。思ったように、魔法が使えない」


「至急、手配致します」


真剣な表情のまま、侯爵はキビキビと部屋を出て行った。

侯爵の退出と同時に、深く息を吐く。


本当に、体が重い。

私はふらりふらりと、覚束ない足取りで私室に戻る。

そのまま体を預けるように、カウチに寝そべった。

ふかふかのクッションが、心地よい。

……そのまま意識を失うように、深い眠りについてしまった。

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