団長は、突入する
そうして迎えた、運命の日。
「……それにしても、魔法とは便利なものだな。ゴドフリー」
辺りを見回しながら、隣に立つ人物に向かって呟く。
「あれ?確かアーロンさんも魔力を持ってますよね?」
私たちがいるのは、ベックフォード侯爵家の前。
「まあ、な。とは言え、そんなに多くはないぞ?」
ゴドフリーの問いかけに苦笑しつつ、答えた。
「移動魔法も凄いが、魔法を強化できるルクセリア様の価値は計り知れない」
「あの方と比べてはダメですよ。魔力は莫大、オマケに強力な宝剣まで付いているんですから。正直、今回の作戦が『取り逃がさずに捕まえる』という目標ではなく『殲滅する』であれば、あの方が一人いれば十分です」
「それほどか」
「陛下のお力をご存知ないのですか?」
「私は婚礼式に出ていなかったからな。それに、魔法のことは門外漢だ」
「ああ……そういうことですか。凄まじ過ぎて、最早神々しいですよ。陛下の魔力は」
一瞬、沈黙がその場を包む。
「……さて、そろそろ仕事の時間ですね」
ゴドフリーが地面に手を当てると、瞬く間に土でできた高い壁が屋敷を取り囲んだ。
「ゴドフリー殿の魔法は確か……『改変』だったか?」
「ええ、そうですよ。今のように物質の形を変えたり、氷から水蒸気に変えたり等々物質の状態を変えたりできます」
「本当に便利な力だ。お陰で、こちらは随分楽をさせて貰えるだろう。……さて、全員突入しろ!」
私の号令に、控えていた国軍兵や魔法師団が一斉に走り出す。
途中出会したベックフォード侯爵家の私兵たちを、容赦無く捕らえながら。
「急げ、急げ! 目標を逃すなよ!」
隊員たちの後ろから、撃を飛ばす。
「……アーロン殿。こう言っては難ですが……思った以上に、敵の抵抗が少ないですね」
私の横に佇んでいたゴドフリーが、遠慮がちに呟いた。
「敵を過小評価し油断することは良くないですが、確かに仰る通りです。本隊は当主やカールの守りについているのか、あるいは……」
言葉を区切り、考えに没頭するために一瞬目線を上げた。
「否、今は考えている暇はない、か。……急ぎましょう」
「ええ……そうですね。それでは、失礼致します」
「ご武運を」
「アーロン殿こそ」
ゴドフリーが、私と別れて走り出した。
他の隊も、作戦通り散って行った。