女王は客を迎え入れる2
「……初めて私が知ったのは、ヴィルヘルム・ラダフォードに聞いてのことでした。その後、私も独自に調査をしまして、我が家も関与していることを知りました」
「……ヴィルヘルムが、知っていた?」
「……はい。私の名に、誓って」
「いつからだ」
「五年以上前からです。彼はあの忌まわしき事件の真相を知り……そして陛下の御心を知り、決断を下しました。ラダフォード侯爵家の幕引きという、決断を。そして彼は確かに、やり遂げたのです。陛下の暗殺未遂……毒殺容疑に関わる確かな証拠を、陛下の手の内の者たちが手に入れられるよう誘導し、そして婚礼式の日にはラダフォード一族の者たちを逃さぬよう工作をし、陛下の統治を邪魔するであろう者達を先回りして排除していたのは、彼です」
嘘だ!そう、叫びたい自分がいた。
だってそれが本当ならば……。
私は、彼に一体どれだけの重荷背負わせていたというのか。
「……これは、十一年前の事件に我が家が関与した証拠です」
オスカーが差し出した手紙を、ギルバートが受け取る。
珍しくギルバートも、取り繕えない程の衝撃を受けているかのような表情だった。
「……これを余に渡すということがどういうことか、其方は理解した上で余に渡すというのか」
「はい。我が家は、既に大罪を犯しています。私の首を、どうぞ一族のそれと共にお納めください」
「……其方の覚悟を聞いた上で、敢えて問おう。何故、其方は密告を以って自らの助命嘆願を願わぬ?」
「私も、腐り切った今の侯爵家には幕引きが必要と悟ったまでです。自らの領民を糧とし、王を害すなど……あってはならない。故に、私の願いはただ一つ。侯爵家の幕引きを。その為に、陛下に決定的な証拠を渡しに馳せ参じた次第です」
「……本音は?」
彼の言葉には、重みがあった。
とってつけたような言い方ではなく、まさに彼がここに来るまでどれだけ絶望し葛藤したかが伝わってくるかのような。
けれども、どうしても納得がいかなかった。
侯爵家に連なる者だという偏見もあっただろうし、彼の表情を見て、まだ何かがあると直感したのかもしれない。
だからこそ、私は更に問いかけた。
その問いに彼は一瞬困ったような表情を浮かべ……そして、笑った。
「親友がやり遂げたというのに、自分だけ逃げるのは格好悪いでしょう?それに、貴女様に知り置いて欲しかったのです。……親友の功績を」
「だから戴冠式の時、其方は笑ったのか?」
「……そうですね。彼の選択を反対していた筈なのに、彼の満足気な笑みを見て、つい……」
そう言って、彼は「失礼な物言い、申し訳ありません」と頭を下げた。
「横の従者の名は?」
「サムです。……陛下、彼は今回の件も含め何も関与はしていません」
『オスカーとサム、それからトミー以外は、十一年前の事件の真相を忘れろ。そして、部屋から出ろ。護衛騎士達は部屋の外入り口前で待機。ギルバートとアニータは余の執務室で待機していろ』
私の魔法にかかった彼らは、言われた通りに行動を始める。
その様を、呆然とオスカーとサムが見ていた。
「……これで十一年前のことは、ここにいる者たちしか知らぬこととなった。トミー、どこかで聞いているのであろう?」
私の呼びかけに、トミーが音もなく現れた。