女王は客を迎え入れる
「……ルクセリア様。少し、相談をしても良いですか?」
執務中、トミーが室内に現れた。
「どうかしたか?」
「ウェストン侯爵領の協力者を通して、オスカー・ウェストンより接触がありました」
「ウェストン侯爵家の嫡男か……一体どのような用件か?」
「非公式で、陛下と会談の場を持ちたいと」
「……このタイミングで会いたいとは。エトワールの件か、はたまた領官たちの囲い込みの件か……」
「……彼を、抱き込むつもりでしたからね。上手くいって、良かったです」
「まだ、結果は分からぬがな。とは言え、折角餌に食いついてくれたからにはしっかりと釣り上げねばならんな」
……そうして、面談当日がやってきた。
私の傍には、ギルバートとアニータそれから護衛騎士二人。
対して、オスカーは本人と従者の二人きりだった。
「突然の申し出にも関わらず、陛下の貴重なお時間を頂戴し、恐悦至極に存じます」
あまりにも丁寧な物言いに、私はおろか控えていたギルバートも驚いているようだった。
侯爵家にとって、王家はあくまで対等な存在。
あるいは、目の上のコブ。
表向き敬うような素振りを見せたとしても、決してこんなストレートな言葉を口にしたりしない。
「これは、ご丁寧に。……早速だが、用件を聞かせて貰おうか」
「……私の父レイフ・ウェストンは、人身売買に関わっています」
「ほう、内部告発か。……その証拠は?」
「ベックフォード侯爵家当主よりウェストン侯爵家当主へ、商品である子ども達を受け取った旨の書状です。残念ながら、印はべックフォード侯爵家のものしかございませんが……」
オスカーが差し出した書類を、ギルバートが受け取る。
彼自身がザっと目を通した後、私に差し出した。
私も、内容を確認する。
べックフォード侯爵家で押収した書類と同じような、商品のリストのような書きぶりのそれだった。
オスカーはウェストン侯爵家の印がないことに、申し訳なさそうにしていたが……ウェストン侯爵家の印付きの書類は、既にべックフォード侯爵家で押収している。
むしろ、やはり侯爵家同士で裏切りが起こらないよう決定的な証拠を互いに持ち合っていたという仮定が正しかったことの証明となって、私としては良かった。
ただ……。
「スレイド侯爵家の印が入った書類は、見つからなかったか?」
「スレイド侯爵家、ですか?いえ……隈なく家内は探しましたが、それらしいものはなかったと思います」
てっきり、スレイド侯爵家も含めて三家で互いに持ち合っていると予想していたのど、どうやらそれは異なっていたらしい。
スレイド侯爵家の証拠は、べックフォード侯爵家・ウェストン侯爵家のどちらからも出てこなかったことになる。
三家の力関係は同格と思っていたが……主犯のスレイド侯爵家が頭一つ飛び出しているということか。
「ならば、良い。よくぞ正直に、報告した。……だが、何故これを余に報告した?これが余の手に渡れば、ウェストン侯爵家はただでは済まぬと分かっていた筈。それとも、婚礼式の一件を知らなかったとか?」
「……いずれにせよ、ウェストン侯爵家は終わりを迎えます。他ならぬ貴女様の手によって」
「ほう?」
「既に、貴女様は我が領官の四割を掌握されています。それも、領官の中でも、とても有能な者たちを。彼らがいれば、ウェストン侯爵家が無くなろうとも、残り六割が機能停止しようとも、最低限領政の維持は可能でしょう。……婚礼式前のラダフォード侯爵家と今のウェストン侯爵家は正に同じ状態です」
「……よく現状を理解しているようだな。派手に動き過ぎたか?」
気がついてくれて良かったと思いつつ、私は笑う。
「否……ラダフォード侯爵家の一件、ひいては十一年前の忌まわしい事件を知っているからこそです」
けれども、次に放たれた彼の言葉に一瞬思考が停止した。
……十一年前?
お父様と、お母様の件か!
「何故、其方が十一年前の件を知っている?」
私は震えそうな声をどうにか抑えつつ、聞いた。