女王は命令する2
そしてアリシアが完全に去ったところで、ゴドフリーが口を開く。
「……残念です。アリシアさんとはもう少し、話したかったのですが」
「……其方にとって、あの子はまたとない研究対象であろうからな」
「ええ、そうなんですよ!魔力があるのに、魔法が使えない。そんな事例、聞いた事がありません。聞けば、彼女は一定期間の記憶がないのだとか。記憶……つまり意識と魔法が結びついているということなのか、はたまたその記憶がない期間に魔法を封じる何か出来事があったのか……興味は尽きません」
私の呟きに、彼は興奮したように目を輝かせて言った。
そんな彼を眺めつつ、私は彼女を助けた時のことを思い出す。
私を狙った誘拐犯に攻撃された時、私を庇って倒れたアリシア。
死にかけたその時、宝剣を無理矢理呼び出して……そして、宝剣の一つ『永遠』の宝剣の力で彼女をこの世に繋ぎ止めた。
つまり、だ。
彼女が記憶を失ったのも、魔法が使えなくなったのも、永遠の宝剣による副作用……という可能性はあるのだけれども、そんなこと彼には言えない。
ただでさえこんな状態なのに、そんなことを言ったら……実験室に一直線だろう。
「あの子を研究対象とすることは、許さん」
「分かっていますよ。ですが会話をしている内に、少しでも何か糸口が掴めるかもしれないじゃないですか! ……まあ残念ながら、中々話す時間すら、いただけないんですけどね。貴女様に突撃するあまり、嫌われてしまったようで」
そう言った彼は、しょんぼりと項垂れていた。
……せめて、話だけは聞いておくようにそれとなくアリシアには言っておくか。
「……さて、本題に入ろうか」
そう呟けば、ゴドフリーは顔をあげる。
「ゴドフリー。其方、セルデン共和国のことをどう思う?」
「近づきたくないですね。……尤も、あちらも私が入国しようとすれば拒絶するでしょうから、お互い様でしょうけれども」
「いずれ、あの国と戦うことになるかもしれぬ」
それから、私はゴドフリーに一通り話した。
エトワールの件、それから五大侯爵家が魔力持ちの誘拐に手を貸していること、そしてセルデン共和国で魔力持ちが捕らえられていること等々、これまで判明したこと全てを。
「……という訳で、其方にも余の手足となって動いて貰いたい」
全てを話し終えたけれども、ゴドフリーの顔色に変化はない。
「同じ魔力持ちとして、当然のことです。……相手が五大侯爵家だろうがセルデン共和国であろうが、陛下の手となり足となり、戦います」
「そうか。そう言って貰えて、何よりだ」
「……それにしても、この国ですら魔力持ちは苦境に立たされているとは。今ご説明いただいた話の中で、最も衝撃的かつ……」
ゴドフリーは、一瞬固まった。
私は続きを促すような真似はせず、ただ彼が再び口を開くことを待つ。
「……悲しいです」
そうして静かな室内に響いたのは、虚しい呟きだった。
「……悲しい、か」
「はい。上手い表現ではないかもしれませんが、貴女様の説明を聞いた際、咄嗟にそう思ったんです」
そう言って、ゴドフリーは苦笑を浮かべる。
「そうか……」
私の歯切れの悪い反応に、ゴドフリーは首を傾げた。
「……陛下?」
「否、何でもない。……其方は信頼できる部下を引き込み、来るべき日に備えよ」
「承知致しました」
そらから二、三言葉を交わして、ゴドフリーは退出。
彼と入れ替わりで戻って来たアリシアも、茶器類を片付けて部屋を出て行った。
残された私は、アニータに見守られながら淡々と仕事を再開。
そうして、いつも通り仕事をこなし……気がつけばこれまたいつも通り完全に夜になっていた。
「……ねえ、アリシア」
再び部屋に戻って来たアリシアに、休憩がてら声をかける。
「どうかされましたか?」
「人の言葉に引っ掛かりを覚えるときって、どんなときだと思う?」
「引っ掛かりを覚える、ですか。……そうですね、違和感を覚えたときでしょうか」
「違和感、ね」
「ええ。相手が嘘をついていると感じ取った時……あるいは、自分の気持ちに嘘をついている時、言葉に違和感を覚えるのではないでしょうか」
「面白い考えね。相手は分かるけれども、自分が嘘をついているとき……か」
「はい。人は、自分に嘘をつく生き物ですから」
……ならば、私は何に嘘をついているのだろうか。
「……『悲しい』という言葉を聞いた時にね、違和感を感じたの。相手が嘘をついているとは思えないのだけど、私は一体何に違和感を感じたのかしらね?」
独り言のように、自然とそんな言葉が自分の口から出た。
「ルクセリア様……」
アリシアが何かを言いかけたところで、ノック音が部屋に響く。
「失礼致します、業務報告に参りました」
そうして、彼女の言葉の続きを聞くことなく、私は仕事に戻った。




