女王は命令する
「本日のお茶は、ベルアンです」
アリシアに淹れて貰ったお茶を、ゆっくりと楽しむ。
爽やかな香りが口一杯に広がり、つい頬が緩んだ。
「そしてこちらが、本日のデザートです。右から、ククルのムース、それからチョコレートケーキです」
私はいそいそとそれらを口に運んでは、紅茶を楽しむ。
「美味しい。濃厚な甘みが、さっぱりとしたベルアンの紅茶によく合うわ」
「アニータさんも、いかがですか?」
アリシアの問いに、彼女は睨めっこをしていた書類から目を離すように顔を上げた。
「だ、大丈夫です。……私、その、仕事が溜まっていますし……」
「ならばこそ、休憩は大事ですよ。ルクセリア様のお仕事を支える、重要なお役目なのです。しっかりと時には体を休め、集中するのも大切ですよ」
……尊い。アリシアの笑顔が。
ほっこりしつつ、口を開いた。
「そうよ。……貴方もアリシアのお茶を飲んで、休みなさい」
「そ、それじゃあ……」
未だに私がアリシアの前で話す時の口調に慣れないのか、アニータは私が喋る度に若干困惑したような表情を浮かべる。
……彼女の前だと、口調が昔のそれについ戻ってしまうのだから致し方ない。
「……うわ、美味しい!」
アニータは紅茶を一口飲んで、感嘆の声をあげた。
「そうでしょう?」
アリシアが褒められたことが嬉しくて、我がことのように自慢する。
「ルクセリア様、失礼致します」
そんな最中、部屋に入って来たのは魔法師団長のゴドフリーだった。
「ゴドフリー様、お疲れ様でございます。……ルクセリア様は、貴重な休憩の時間をお過ごしになっているのです。くれぐれも、宝剣を出してだとか魔法を使ってだとかでルクセリア様のお手を煩わせないようにお願い致します」
アリシアが、笑顔でゴドフリーに釘を刺す。
既に臨戦状態に入っているようだ。
「貴重な休憩時間だからこそ、業務とは直接関係ない魔法のことに当てるべきでは?」
それに対して、ゴドフリーも既に応戦態勢に入っているようだ。
いつもなら、これから二人の攻防が長々と続くのだが……。
「ごめんなさいね、アリシア。今日は、私が彼を呼んだのよ」
「そうでしたか。それであれば、異論ございません」
私が一言声をかければ、すぐさまアリシアは臨戦体制を解除した。
「ねえ、アリシア。少し、三人で話をしても良い?」
「承知いたしました。暫く席を外します」