女王の仕事2
アニータは、表向きギルバートの部下、裏ではトミーの部下というややこしい任命になっている。
本当はトミーの部下として誘拐事件の解決に専念させたかったのだけれども……トミーの仕事は大半が国内外問わず飛び回るもの。
……それに全て付き合っていたら、彼女は私の側で私を見張ることができなくなってしまう。
という訳で、昼はギルバートの部下かつ連絡役として私の側に居続け、夜はトミーの部下として集まった情報を整理させていた。
余計に多くの仕事を押し付ける狙いは、断じてない。
「……それでは、私は失礼致します」
ギルバートが去った後も、私は仕事を続ける。
「……あの、ルクセリア様」
ギルバートが去ってから、どのくらい時間が経ったのだろうか。
……部屋の隅で書類を整理していたアニータが問いかけてきた。
「どうした?」
「……何時まで仕事をしているんですか?」
「今日の仕事は、もうこれで終わりだ。……ただ、やりたいことがあるから、もう少しここにいるよ」
「やりたいこと?」
「うむ。……皆への指示書を作成しているんだ」
「……指示書って、何?」
「余がいない時に、どう仕事を進めて欲しいかを書いておく書類だ」
口を開きつつも、羽ペンを持った手を動かす。
「はあ……そうですか。それ、本日じゃないと駄目なんですか? そろそろ休んだ方が良いかと」
「どうせ明日やろうが明後日やろうが、この時間にならないと自由な時間はないだろうからなあ……。眠たかったら、先に眠っていいぞ?」
「……それじゃ、見張りにならないじゃないですか」
「とは言え、昨日もそうしたじゃないか」
「うっ……それは、そうなんですけど」
「好きにしろ。別に、見張りは強制していない」
「……ルクセリア様は、いつもこんな感じなんですか?」
「こんな感じ、とは?」
「毎晩遅くまで仕事に仕事……一体どれだけ働くんですか?」
「……余には、時間がないのだ」
「……時間がないって?」
彼女の問い返しに、言うべきでないことを言ってしまったと反省する。
「いつもの仕事に加え、子ども達の件もあるだろう?だから、時間が無い」
「あ……そうですよね」
責めているように聞こえてしまったら申し訳ないが、それ以上に誤魔化すことができて良かったと安心した。
静かな室内に、彼女の欠伸の音が響く。
「すいません……もう、限界です。先に眠ります」
「ああ……それが良かろう。また、明日」
「はい。また、明日」
彼女が去った後、私はゴドフリーから貰った薬を飲んだ。
「……さて、もう少し頑張るか」
そして私は、書類に向き直ったのだった。