プロローグ
よろしくお願いします
「……ルクセリア。今日よりお前を、塔に幽閉する」
突然告げられた、お父様からの言葉。
塔に、幽閉。
普通、そんなことを言われたら絶望することだろう。
「謹んで、お受け致します」
けれども私は、異論を唱えたりしない。
むしろ、内心歓声をあげて小躍りをしているぐらいだ。
おっと、いけない……と、緩んだ頰を引き締めて、頭を下げる。
私の名前は、ルクセリア。
ルクセリア・フォン・アスカリード。
アスカリード連邦王国の王女にして、第三十七代王フィリップの唯一の子ども。
つまり、王位継承第一位。
そんな私が、何故塔に幽閉されることとなったのか。
王位継承権を持つ私を邪魔に思う存在が、手を回した?
……そんな、ドロドロとした物語の筋書を思い浮かべる人がいるだろう。
けれども、全くそんな事実はない。
否、私を邪魔に思う者はいるかもしれないけれども……彼らがどうこうしようが、私の幽閉は決まっていた。
それならば、両親と私の仲が悪い?
……それも、ない。絶対、ない。
『前世の記憶』がなければ、物語に出てくるような我儘な王女になっていただろうな……と思えるほど、甘やかされに甘やかされた自信がある。
それならば、何故塔に幽閉されることとなったのか?
……その答えは、私の魔法と魔力量だ。
魔法は、理から外れた超常の力。
身の内に流れる魔力を源に、普通では『ありえない』現象を起こすそれ。
例えば、手を動かさずに物を動かしたり、火を起こしたり……魔法は人によって十人十色。
そんな数多くある魔法の中で、残念ながら私のそれはとても危険かつ使い勝手の悪いものだった。
その上、魔力保有量が平均の十倍超あるせいで、全く魔法のコントロールができない。
せっかく魔力量が多いのに、全く意味がない……!
むしろ、危険が増すだけだ。
周りに危険を及ばさないようにと、お父様が私を幽閉したことは致し方ないことだろう。
むしろ私自身、お父様のその決定に安心したぐらいだ。
命令を受けた翌日、早速私は引越しを開始した。
……と言っても、身一つ。
家具は既に塔の中に備え付けられているらしいし、外に出ないことを考えれば、服も多くはいらない。
「……うわあ」
初めて足を踏み入れた塔での、私の第一声。
埃が積もった床。
全体的に薄暗くて、家具類も建物と同じく古い。
中には、壊れている家具すらある。
……ここに住むのか。
否、住めば都。住めば都。
「よし、やるか!」
ここが、始まり。
私の新しい、生活の。
埃被った部屋だったけれども、心機一転、新しい生活をスタートさせるにはぴったりの場所。
私は再び覚悟を決めると、まずは掃除を始めた。