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REGAIN  作者: 村上蘭
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決心




 彼女を渋谷のスクランブル交差点で見かけてから

一週間が経っていた。部屋の鍵は、防犯用の二重鍵

に変えたので、侵入される不安は解消したのだが、

どうにも腑に落ちない疑問は解消するどころかむし

ろ僕の胸の中で、まるで悪性の腫瘍の様に日に日に

膨らんで行った。それで、僕は自分でも驚いている

のだが、かなり思い切った行動に出ることにした。



「確か、この辺だったよな」



 次の休みの日、僕は彼女が勤めている探偵事務所

が入っているあのビルの前に立っていた。あの時は、

彼女を追いかけるのが精いっぱいで、建物を見る余

裕は無かったが今日改めて見てみると意外と古いビ

ルだと思った。壁にある顔の皺のように見えるクラ

ックが、それをさらに強調しているみたいだ。ここ

で、一つ断っておきたいのだが、僕がここに来た理

由は純粋に部屋に侵入した犯人探しが目的であって、

このことを理由に彼女とお近づきになりたいとか、

ましてや交際しようなどと、そんな不謹慎な考えは

一切無い訳で・・・まっ、まあそんな事は、どうで

も良い話で取り敢えず僕は探偵事務所のドアをノッ

クした。



「いらっしゃいませ」



 彼女は、お辞儀をしながらそう言って顔を挙げる

と予想通りの言葉を僕に投げかけた。



「あら、貴方どうしてここに?」



 少し、ビックリした顔で言った彼女の後ろのデス

クに坐っていた。中年の男性が口を挟んできた。



「何だ、君たち知り合いか?」



 応接室に通された僕は、これまでの経緯を包み隠

さず正直に話した。彼女に、駅で助けて貰ってその

後僕の部屋で、侵入事件が起こった事そして町で彼

女を偶然見かけて好奇心からストーカーまがいに後

を尾けてしまった事など流石にこの話の時には、彼

女の眉間に立て皴が刻まれたが、直ぐ「困った人ね」

と言いながら笑って許してくれた。



「そうですか、いや散々な目にあわれましたな、ま

あそれでもうちの事務所の所員が役に立ったのであ

れば幸いでしたな」



 さっき、渡された名刺でこの中年の男性が探偵事

務所の所長であることが解ったのだが、何とも風采

のパットしない男だった。人を見た目で、判断して

はいけない所だが彼女とのぱっと見の落差があまり

に大きかったので、ついそんな事を考えていたら、

コーヒーの良い香りが僕の鼻腔をくすぐって来た。



「コーヒー良かったらどうぞ」



 彼女がコーヒーを、テーブルの上に丁寧に置きな

がら言った。



「あっどうも、いただきます」



 僕は、コーヒーを飲みながらチラッと彼女を見た。

胸もとの名札に眼が行って少し驚いた。そこに田崎

由香里と書かれていたからだ。



「何だよ、所長と同じ苗字、という事は二人は父娘

か?」



 心の中でそう思った僕に目ざとい彼女は直ぐに反

応して来てこう言って来た。



「今、名札を見て所長と私が父娘じゃないかと思っ

たでしょ」



「あっ、いや別に・・・」



 ズバリ、言い当てられてドギマギしている僕に

所長が助け舟を出してくれた。



「いや、よく間違えられるんですが父娘じゃ無いん

ですよ。まあ、当たらずとも遠からずと言う所でこ

の娘は、私の弟の娘でして姪っ子になります。幼い

頃に、両親を交通事故で亡くしたもんで以来私の家

でひき取ったというわけですな、まあ親子みたいな

感じではありますよ」



 所長がそう言うと、彼女が細くて長い指を差し出

し僕と所長の前に突き出して言った。



「はい、私の身の上話はそこまでよ。ここからは仕

事の話をしましょうね」



 所長も、少し喋り過ぎたと思ったのか出されたコ

ーヒーをぐっと一口飲むと、顔を引き締めてからお

もむろに話し出した。とっ、すいません、突然なん

ですがここで僕の自己紹介をします。名前は結城直

哉と言います。結婚はまだしていません。余計な事

ですがつき合っている人も居ないです。仕事は都内

の某お菓子メーカーに勤めていまして、自分で言う

のも何ですがまあ、真面目だけが取り柄みたいな平

凡な男です。そんな僕に、今度のドラマのような

出来事が起きて正直面くらっているのですが・・・

はい、では話を探偵事務所に戻します。




「それで、結城さん今日はどういったご用件で当事

務所に来られたのでしょうか?」




 田崎所長の眼を視ながら、僕はゆっくりとでも真

剣に話した。



「実は、単刀直入に言いますと僕の部屋に侵入した

犯人をこちらの事務所で捜して貰えないかという事

です」




 その言葉を、聞いていた田崎所長は暫く腕組みを

しながら眼をつぶって何か考えていたが、その閉じ

ていた眼をゆっくり開けると僕にこう言った。




「結城さん、その依頼はうちの事務所ではできませ

ん残念ながらお断りいたします」



「えっ!」



 僕は、思いもよらない答えが返って来た事で唖然

として彼女と田崎所長の顔を交互に見ているだけだ

った。





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