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私の体験談  作者: 常羽 トオル
1/3

小学3年生

初作品です。


拙い小説ですが、楽しんでいただけると幸いです。

「私」は小さい頃から祭が大好きで、地元で行われる小さなお祭などによく参加していた。


うちの地域では夏に行われる祭は、町全体で行われる盆踊り大会、本町だけで行われる小さい祭、そして公民館で行われるホタル祭の3つで、その時は丁度ホタル祭が行われていた。


親からもらったなけなしのお小遣いを持って会場に向かう。

町内の人がひらいた出店で、買ったフランクフルト片手に酔っ払った大人を眺め、ぶらぶらと歩く。


その日は同級生は少なく、仲が良い友達はおらず、遊ぶことは諦めていた私はホタル祭の由来の、公民館の横を流れるホタルがいる供太川を眺めていた。


この川の上流に行けば更にホタルがいるのでは?


考えが決まってからは行動は早かった。フランクフルトの串を片手に川辺を歩いていく。段々と祭の賑やかな喧騒は遠ざかっていった。

街灯も減り薄暗い川縁、聞こえるのは虫と蛙の鳴き声と川の音だけになった。ホタルの幻想的な輝きはその数を増やしていた。


「ぼく、危ないからそこまでにしときなさい」


ふいに前の方から声をかけられ、私はびっくりして滑ってしまった。履いていた短パンは泥にまみれ、不快感を覚える。


「驚かせてしまったね…怪我はないかい?」


声のした方に顔をしかめながら向くと、そこにいたのは清楚な感じの服を着た優しそうな女の人だった。


「パンツが泥だらけになったけど!…怪我はないです。」


少し嫌みをこめながらそういうと、彼女は少し困ったように眉を下げながら笑った。


「ごめんね、でもそこから先は少し深くて危ないんだよ…それ以上服を汚すとお母さんに怒られるんじゃないかい?戻ったほうがいいよ」


そういわれて目の前を見ると、確かに川縁は途切れ暗い川が広がっていた。このまま進むと泥だらけでは済まず、服までびしょ濡れになってしまうだろう。


私は鬼か般若か見間違う顔をした母を想像して、思わず身震いをしてしまった。


「こちらに来てはいけないよ、その代わりにお姉さんがお小遣いをあげるから、出店で何か買うと良いよ」


震える私を見て少し笑った彼女は、そういって私に向かって小銭を1枚投げて渡してきた。


「…知らない人にものをもらっちゃいけんって言われとる…。」


驚きながらも、決まりごとを破るという更なる罪を犯したくない私は彼女に返そうとしたのだが


「これは二人の秘密さ 何か食べ物を買っても、食べてしまえば大丈夫、ばれないでしょう?」


そういって彼女は柔らかく微笑んだ。


常に駄菓子屋で無駄遣いをしていた私はその誘惑に直ぐに流された。小銭を握りしめて元の道を戻る、出店は20時には閉まってしまうからだ。


「お姉さんありがとう!」


そういって振り返ると、彼女は笑いながら手をふってくれた。


「気をつけておかえり、ころばないようにね」


私は女の人に手を振り返して、一目散にその場を後にした。







祭の会場は明るく、多くの人で賑わっていた。


「どした常羽の坊主、泥だらけで…川で転んだか?」


そういって出店を開いている近所のおじさんに声をかけられた。


「うん、そんな感じ!やから帰る前に、おっちゃんこれで焼きそば頂戴!」


近所の人は第二の親といって過言ではない。私はお小言を頂く前に、そういっておじさんにお金を渡そうとした。


「坊主ぅ…さてはおまえコレ川で拾ったな?別に今日はいいけど、ちゃんとせぇよ!」


しかしその握りしめていたお金を前に出した時、私はおじさんのそんな声が遠くに聞こえていた。



そのお金は500円玉だった。


ごく普通の、汚れて擦れて、遠目では500円とはわからない程になっているだけの、500円玉だった。


私は渡された焼きそばを持って、川の上流を眺めた。


完全に暗闇に包まれた川の側を、数匹のホタルが淡い光をたゆらせている。



その時に初めて気がついた。


彼女はどうやって彼処にたどり着けたのだろうか?服も汚れず、道もない川の先へ…そしてもう一つ、不思議なことに気がついた。


彼女との会話はとてもスムーズにだった。私も彼女も、お互いに聞き返すようなことはなかった。


そうだった。


あり得ないはずなのに。



彼女と話している時、まわりの音が一切がなかったのだ。



上流の激しい水の音も、虫たちの鳴き声もあの時間だけはなかったのだ。


私は背を伝う冷たい汗を感じたが、けれど優しく微笑む彼女を思い出し、手に持った焼そばを見つめた。


彼女が何者であれ、私を危険から救ってくれたのは本当のことなのだ。

優しく微笑む彼女を思い浮かべ、川の上流に向かって頭を下げる。



そして私は、彼女からもらったお金で買った焼そばを、わき目もふらず一心不乱に食いつくした。




遊び回る子どもの胃袋は、常に飢えていたのだ。














あれから20年近くの時が流れた。地元の祭に行くことは減り、川の上流にも行くことはない。


あれから少しあの上流のことを調べてみたが、あの場所で行方不明や事件・事故などで亡くなった人はいなかった。


彼女は一体誰で、何故彼処にいたのかは今もまだ分からない。

けれども私は、屋台などで微妙な味の焼そばを食べる度に彼女を思い出す。


そうして思い馳せるのだ。














あんな可愛い彼女が欲しい人生だったと…



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