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王宮侍女シルディーヌの受難  作者: 涼川 凛
20/28

ドSな愛は強大5


どこかで「ドドーン!」と、なにかが爆発するような音が聞こえる。


それに連動するように、建物が小刻みに揺れた。



「え、え、え、なんの音? なにが起こってるの?」



訳が分からず恐る恐る窓から外を見ると、森の木々の間に小さな灯りが見え隠れしていた。


その小さな灯りはたくさんあって、この建物をぐるりと取り囲んでいるように見える。



「あれは、なに……?」



そうつぶやいた瞬間、再びドドーン!!と轟音が響き、建物が大きく揺れた。


窓がビリビリと揺れて、天井から埃がぱらぱらと降ってくる。



「きゃあっ」



あまりにも恐ろしくて、シルディーヌはテーブルの脚にしがみついた。


もしかしたら天井が落ちてくるかもしれない。


そう考えるとサーッと血の気が引き、テーブルの下に潜り込んで両手でしっかりと脚にしがみつき直した。


にわかに建物内が騒がしくなって、男の怒声やたくさんの足音や女性の悲鳴が聞こえてくる。



「みっ、みんな大丈夫なのかしらっ」



震えながらもペペロネやほかの女性たちの心配をして、無事を祈りまくっていると、ふと急に静かになった。


怒声も足音も聞こえず、女性の声が微かに聞こえる程度。



「終わったの?」



嵐だったのか?


雷だったのかも?


それにしては、恐ろしく揺れた。


それに、松明のような灯りの群れも気になる。


周りの状況を確かめようとしたシルディーヌがテーブルから手を離した瞬間、ドカッ、バキッ、と今度は部屋の扉が大きな音を立て始めた。



「え? え? 今度はなんなの? いやっ、怖い!」



再びテーブルの脚にしがみつくと、大きな音とともに扉の取っ手がビュッと吹っ飛び、バキバキに割れた扉が部屋側にドサッと倒れ込んで来た。


柱に残された蝶番がプラプラと揺れ、埃がもわもわと空を漂う。


その向こう側に立っていたのは、血に染まった剣を持ち、鬼神のような恐ろしいオーラを放った仁王立ちの……。



「え、あ、アルフ!?」



恐ろしほどに鋭く光る眼光が、部屋の中を素早く見まわしている。


テーブルにしがみついて唖然とするシルディーヌを認めた瞬間、アルフレッドは無残にも木の欠片となった扉を軽々と飛び越えてきた。



「……やっと、見つけた」



鬼神のような風貌とは裏腹に、喉の奥から絞り出すような声を出され、シルディーヌの胸がちくんと痛んだ。


たいそう心配をかけていたのだ。



「た、助けに来てくれたの?」


「無論だ。痛いところはないか?」


「えっと、背中とお尻が少し痛いわ」


「なに!? 奴らに乱暴されたのか!?」


「たぶん違うわ。硬い床に寝ていたからだと思うの」


「む、今すぐここから出るぞ」



テーブルの下に潜り込んで避難している状態のシルディーヌは、アルフレッドに引き出されて片腕で軽々と抱き上げられた。



「きゃっ」


「怖かったら、しがみつけ」



言われた通り肩にしがみついて廊下に出て、シルディーヌは「あ!」と声をあげた。


アルフレッドが斬ったであろう男たちが血だらけで倒れており、うめき声をあげてうごめいている。


それにシルディーヌの部屋のぼろぼろになった扉以外は、どこもきっちり閉まっていて、ペペロネの部屋であろう扉もそのままだ。


もしかしてシルディーヌだけ助けられたのだろうか。


ほかの騎士、アクトラスやフリードはどこにいるのか。



「アルフ? ほかの騎士たちは?」


「外で待機している」


「ひ、ひとりで、乗り込んで来たの!?」


「ああ、そうだ。煩いからもう黙ってろ。いろいろは外に出てからゆっくり訊いてやる」



アルフレッドはあっという間に階段を駆け下り、建物の外まで運ばれたシルディーヌが目にしたのは、大きな大砲二台と黒龍騎士団員たちだった。


ものものしい装備で、まるで戦争でもしているかのよう。


ドーンという轟音は、大砲が建物に当たったものだったのだ。


もしも建物が崩れたら、シルディーヌは助けられる間もなく天に召されていたかもしれない。


そう考えるとぞっとした。



「あれは、昔使われていた軍の拠点のひとつで、無駄に丈夫に造られてるんだ。ちょっとやそっとじゃ壊れない。ちょっと前から組織のアジトとして目星をつけていたとこだ」



シルディーヌは火のそばにある切り株の上にそっと下されて、団員が差し出したコップ一杯の水を飲んだ。


気が落ち着いて改めて建物を見れば、月明かりの下に黒々とそびえるそれは、とても頑丈そうな建物だった。


大砲の玉が当たったようなのに、パッと見崩れているところがない。



「ところでお前、どうやってさらわれたんだ? 俺が助けに行くまでのことを詳しく話せ」



アルフレッドがシルディーヌの真横にある石に腰を下ろし、じっと見つめてくる。


焚き火がチラチラと顔を照らし、燃える炎が移っているかのように視線が熱い。


それからは巧みなアルフレッドの尋問により、ペペロネと一緒にいたら袋をかぶせられたことから始まり、髭もじゃの男に貧相だと言われたこと、果てには食事内容や考えていたことまで、すっかり全部を訊き出されていた。


アルフレッドの据わった眼が一点を見つめ、やがてドスの利いた声を出した。



「なるほど、分かった。ちょっと待ってろ。すぐに済ませてくる」



ゆらりと立ち上がったアルフレッドの体から、炎のようなものが揺らめいて見える。


気のせいかしら?と思ったシルディーヌが目をこすっているうちに、アルフレッドはフリードの元へ行った。



「準備はできているのか」


「はい。滞りなくできています。虫一匹たりとも建物の外には出られません」


「よし、全部壊していいぞ。壊れなかったら燃やしてしまえ」


「は……了解しました。組織の連中はどういたしましょうか」


「一緒に燃やせ。生きていてもどうせ虫の息だろう、構いやしない。俺はあいつを連れて先に戻る。事が済んだら報告しろ」


「は、命令のままに」



シルディーヌは自分の耳を疑った。


アジトを人ごと燃やしてしまうなど、なんて容赦がないんだろうか。


でもこれが、敵を完膚なきまでに叩きのめす鬼神の騎士団長たる姿なのだ。


アルフレッドは木の枝に掛けてある外套を取り、茫然としているシルディーヌにふわりと羽織らせた。


「よし、帰るぞ」



シルディーヌはスッと抱き上げられて、そのまま馬に乗せられた。



「え!? 待って、アルフ。本当に建物を壊してしまうの?」


「無論だ。あんな建物が残ってるから、犯罪の温床になるんだぞ。今すぐ壊した方がいい」



アルフレッドは冷淡に言って、シルディーヌの後ろにひらりと乗った。



「そ、そうかもしれないけど。ペペロネがまだ中にいるわ! それにほかの女の子たちも! お願い、助けてほしいの」



シルディーヌが懸命にお願いすると、アルフレッドは大きく深いため息をついた。



「ちっ、仕方がないな。フリード、壊すのは、中にいる女どもを助けてからにしろ。全部お前の判断に任せる」


「はい! もちろんそう致します!」



フリードの顔が明るくなったのが、夜目でも分かった。


団長の命令以外のことをするのは、副団長でも難しいのだと思える。


フリードはシルディーヌに感謝するように頭を下げていた。



「フリードさん! ペペロネは三階の部屋にいるの。ほかの子たちは二階にもいたわ。それから、シルディーヌは心配ないって、ペペロネに伝えて! それから、人命最優先でお願い!」



馬が動き出したため、身を乗り出して叫ぶようにお願いすると、フリードがぐっと親指を突き立てたのが見えた。



これで、大丈夫。


フリードならばきっとうまくやってくれるに違いない。



心底から安堵したシルディーヌは、アルフレッドの体にそっと身を預けた。


温かくて大きな体にしっかりと支えられており、とても居心地がよく、馬に揺られているというのに眠気が襲ってきた。


東の空が白み始めていて、アルフレッドたちは真夜中に助けに来てくれたんだと、働かない頭でぼんやりと考える。



「ありがとう、アルフ」



手綱を持つたくましい腕にこつんと額を当てると、シルディーヌを支えている腕にぐっと力が入った。



「お前が奪われたら、相手が誰であろうが、どこにいようが、必ず取り戻しに行ってやる」



シルディーヌは、アルフレッドの言葉を半分うとうとしながら聞き、いつしか深い眠りに落ちていった。




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