表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王宮侍女シルディーヌの受難  作者: 涼川 凛
10/28

騎士団長の怖いもの3

そして、お昼になり。


シルディーヌは、使用人の休憩室でフリードと向かい合って食事をしていた。


別に約束をしていたわけではない。


シルディーヌが食堂に食事をとりに行くと、大勢の騎士が行き来する中にフリードの姿を見つけたから、これ幸いと引っ張ってきたのだった。


とにかく話を聞いてほしかったのだ。


アルフレッドのことを話せるのは、今のところフリードかアクトラスしかいない。


今は、朝の出来事をかいつまんで話しているところで……。



「……そしたら、アルフは、尋問を五分で済ませてきたと言うの。ものすごく怖いことを言ったと思うのだけど、実はとても簡単なお仕事だったのかしら?」


「は!? ご、五分ですか!?」



フリードは、口に運ぼうとしていた肉のソテーを、ぽとりと皿の上に落とした。



「ええ、確かにそう言ったわ。フリードさんが執務室を出て行ってから、割とすぐに戻ってきたもの」


「いやいや、待ってください、シルディーヌさん。いくら怖い言葉を並べたとしても、五分では絶対に無理ですよ。警備隊だって同じようなことを言っているはずですし、あの犯罪者は、何人もの人を殺めた凶悪な男でした。一筋縄ではいかなかったはずです。鬼神と呼ばれる団長にしかできない技ですよ」


「……そんな怖い人だったの?」


「はい。ここへ連れてくると連絡があったとき、すぐさま『ここへ連れてくるなどとんでもない! 俺が出向く!』と言って、矢のようにすっとんで行かれました。伝達に来ていた警備隊員と一緒に慌てて追いかけまして、朝の命令を伺ったわけです」


「そうだったの……」



フリードの話をじっくり聞けば、アルフレッドの周囲は朝から大騒ぎだった様子だ。


髪がすごく乱れていたのも、改めて納得できるというもの。



「でも、凶悪犯に対して迫力勝ちするなんて、鬼神のアルフには怖いものはないのかしら?」



アルフレッドの苦手なものは、幼い頃にさんざん探したが、結局見つけることができなかった。


虫も獣も平気そうだった。


さらに犯罪者も平気となれば、最高の地位につく王族が怖いのかもしれないと思う。


だが、王太子殿下はとてもおおらかで素敵な人だから、怖い存在とは言えなさそうだ。



「やっぱり、国王陛下かしら?」


「いえ、国王陛下は威厳あるお方ですが、団長は“怖い”と思っていないでしょうね。敬意は示されますが、実に堂々とした態度で話されます」


「じゃあ、結局、怖いものはなにもないのね」



なんだか呆れてしまうが、それがアルフレッドという人なのだろう。


鬼神の異名は伊達ではないのだ。



「いえ、団長にも怖いものはありますよ。怖いものと言うか、弱いものですね。シルディーヌさんは、近くにいて気づきませんか?」



フリードは意味ありげににっこりと笑って、シルディーヌを見ている。


けれど、いくら考えてもシルディーヌには思いあたるものがない。


首を傾げて見せると、フリードはいったん迷うような素振りをした後、声を潜めた。



「俺が言ったと言わないでください」



シルディーヌは、わくわくしながらこっくりとうなずいた。


アルフレッドの怖いものなんて、初めて知ることができるのだ。誰に聞かれても貝のように口を閉ざしてみせる。



「彼女である、シルディーヌさんですよ」


「……私!!?……冗談でしょう? そんなはずがないわ」



まず第一に彼女じゃないし、アルフレッドは幼い頃からずっと変わらずにドSなのだ。


例えばシルディーヌが怖いものに出会ったら、足がすくんだり、逃げ出したりする。


けれどアルフレッドは逆で、自ら近づいていくような人なのだ。


シルディーヌが驚いたり困ったりするのを楽しんでいるような感じだ。


ともすれば、叱ったりもする。


どう考えても、怖いと思っている相手への態度ではない。


けれど、フリードは訳知り顔でシルディーヌだと言い張った。



「団長の態度を気にしてみてください。怖いと思ってることが分かると思います」


「本当に……そうかしら?」



シルディーヌには、どうにも信じられないことだったが、フりードは大きくうなずいている。


今朝のアルフレッドの態度を思い返しても、盛大な疑問符が浮かぶばかりだが、いつもと違うと思ったのは事実だ。



「もしかして、あれが、怖いと思ってるってこと?」



いや違う。納得できない。


いくら考えても納得できるはずもなく、今度アルフレッドをよく観察してみようと心に決めたのだった。


そして、この日の午後はアルフレッドに会うこともなく過ぎていき、おかしな一日は終わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ