8-2 軍師
翌日、タスクはゴルトシュタイン王国執政長として、通貨配分や医療に関する政策の発表を済ませ、続いてソフィアが復興へ向けて励む国民たちを労った。
あの戦いの日から王都が取り戻されたという情報は各地に続々と広まり、今は市民と兵士を合わせて2万人を超える人々が暮らしている。多いとも言えないが、まだまだ増えるだろうし、それにこれだけの人間が力を合わせれば、今後もなんとかやっていけることだろう。
ソフィアの装いも、砦にいた時とは異なり甘美な刺繍の施された純白のドレスだ。金のティアラも煌くブロンドヘアに負けじと滑らかな光を放っている。
どちらも砦でサーブリックたちに持たせる交易品を募った際にソフィアが手放そうとして、タスクが引き留めたものだ。必ず訪れるべき、王都での今日この日の為に。
王女殿下の演説が終わると、アダムス教の神父が先頭に立って市民が一斉に北西を向く。
神父と市民たちは水を掬うように合わせた両手を掲げて跪くと、一斉に祈った。
アダムス教における、神の慈愛を賜る動作でもあり、死者の魂を自然へと還元する動作でもあるそうだ。
そうして、市民たちの代表、魔導師たちの代表、弓兵たちの代表、剣士たちの代表、騎士たちの代表が順々に前に出て追悼の祈りを捧げた。
「あんな風にしても大精霊アダムスはあんまり気にしないと思いますけどねぇ。魂は決まった経路で順を追って安らぎを得て還元されるそうですから」
一応タスクも同じ動作をしていたが、妖精様いわくあまり現実的な効果は無いらしい。
「いや。お前身も蓋も無いこと言うなよ。生き残った人間の心理のケジメの問題だろ」
「えぇーっ、魂からしたらそっちの方が身も蓋も無くないですかぁ?」
意外にも少し正論で、何も言い返せずにいたタスクに、隣で祈っていたソフィアが助けをだしてくれた。
「タスクさんの故郷では追悼でお祈りはされるんですか?」
もともと信者は国民の6割ということで、ある程度形式的な信仰という節もあるのか、はたまたアリスタの言葉を真に受けたのか、姿勢は祈りを続けながらこっそり、という具合で話しかけてくる。
「あぁ、しますよ。動作はちょっと違うけど、こうゆうのもあります」
「でしたら、タスクさんのやり方でも、ぜひお祈りしてあげてください」
そしてソフィアはタスクの思いもよらないことを言い出した。やはりというか信仰という意味では、本気で信じる類のものではないらしい。
「いやいや。こっちのやり方に合わせますよ。お亡くなりになった方へのものですし」
冗談で言っているのかと思ったが、ソフィアの返答は違った。
「だからですよ。皆さんにもこの国を救ってくださった方のことを知って、そして安心して頂きたいんです」
ソフィアの言葉に押されて、タスクは結局アージリスに続いて前へ出て、両の手のひらを合わせて祈った。
乗りかかった舟なので皆さんの無念は晴らしました。
乗りかかった舟なので魔王とか言うのは倒せそうなら倒します。
乗りかかった舟なのでこの国はしっかり復興させます。
ただし稼いだ分はしっかり遊びます。
祈って、そして思った。
経営コンサルタントとしての経験は、この世界で軍師を勤めるにあたり、まぁ少しくらいは役立ちそうです。と。




