表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/45

7-1 王都奪還戦

 前回の戦いから18日が経ち、いよいよ王都奪還戦が開始されようとしていた。

 敵の編成や魔法属性の配分が判明していた前回とは異なり、臨機応変な戦略策定が必要となるだろう。

 タスクは本音では望まぬこととはいえ自己の判断で行軍へと同行することにした。ソフィアには反対されたし、先日は一緒に行かないのかと聞いてきたアリスタさえも反対してきた。とはいえ、映像の無い通信だけでは、観測そのものが間違っている可能性と、観測されたものの伝達が間違っている可能性、そして口頭でもたらされた情報を受け取ったタスクが意味を見誤る可能性、いくつものリスクが生じる。

 それに、まぁ本人たちは知りもしないだろうが、ここはマズルスたちがその命をもって、タスクにこの世界での活路を示してくれた地でもある。


 それらを考慮すればタスクとて、この地に来ない訳にはいかなかった。

 ソフィアや市民の見送りで出発してから、歩き続けること3日。計80キロ以上に及ぶ道のりではあったが、特に荷物も持っていなかった身としてはあまり苦労は感じなかった。

 そして兵たちも、出発前日の訓練を軽いランニングで終えてゆっくり休んだおかげもあってか、疲労の色はあまり見受けられない。外周を交代で見張り、他は好きに話して構わないというタスクの指示も功を奏したのかも知れない。

 そうして、何度かの小さな戦闘はあったものの、無事に王都までおよそ4ロールグの距離まで辿り着いたのだ。


「過去の記録と斥候が持ち帰ってくれた情報。これらから推察するに、王都近辺には1万をゆうに超える魔王軍が巣食っていることが予想される。まずは早急に本陣の設営。ならびに王都周辺の敵の配置確認を行います。全軍協力して望んでください」


 タスクの指示に合わせてアージリスたちが個別に隊を動かし、兵たちが散っていった。

 なだらかな丘陵地帯の、小高く盛られた辺りを自陣として定め、簡単な仕切りや調理場を設置する。

 豆粒程度にでも王都が見えるということで最前部に作った指揮所には、大量の紙の束が運び込まれた。

 無防備ではないかという声も出たが、どのみち敵がここに来ることになれば、その頃には友軍は壊滅状態だろう。タスクとて、その時にはせめて自陣内で一番前に立つくらいの覚悟はしている。


 紙というのはラムゼイの木の繊維から作られるそうで、そこそこに貴重品らしかったが、タスクは惜しまずに使った。

 タスクは脳内で軍の動きをシミュレートできるような天才軍師ではない。多少暗算が得意なだけのコンサルタントだ。使えるものは使っていくしかない。

 高低差、地面の水気の状態や障害物の有無を含む地理情報。

 各戦隊の能力や特色。および各個人の能力や特色。魔導師の属性レーダーチャート。

 戦隊ごとの物理的、心理的、属性的相性を示すアクティビティ相互関係図。

 ありとあらゆる情報を書面に書き起こした。


 腕時計を手放す前に測っておいた大小さまざまな大量の砂時計も用意した。

 そして勿論、あれも作った。テーブル一つを丸々使う大きな地図と、そこへ並べる戦隊数分の駒だ。タスクもこの世界に来るまでは映画やアニメを観ていて、盤上で駒を動かすだけで戦況が分析できるのかと疑問だったが、これがやってみると思いのほか効果的で、リアルタイムで全体への戦略策定を行うなら、これの有無で勝敗が決まるのではと思えるほどだった。

 そんな訳で、事前に作っておいた大量の資料をテーブルへと鋲で留めていると、大きな木箱を抱えた姉弟が入ってくる。


「タスクさん。通信台はここでいいですか?」


 ハーズがテキパキと木箱を開いて夫婦貝を取り出す。


「あぁ。頼むよ」


 当初はタスクも同行までは求めないと言ったのだが、この姉弟もまた強く希望してついて来てしまったのだ。

 確かに前回の戦いのあと、タスクは通信に携わる兵を招いて講習会を開いた。講習は全4回で、宿題も出した。最終日にはテストを行いみんなを労った。この姉弟が好成績だったのも事実だ。

 もともとのセンスか、あるいはロシュにも話した「なんとなくでも経験しておけば体が覚える」という理屈もあるかもしれない。


「本陣より第1大隊観測手へ。夫婦貝の試験交信を願います。繰り返します、夫婦貝の試験交信を願います。以上です。…………本陣より第1大隊観測手へ。確認しました。ご協力ありがとうございます、以上です」


 バーグの通信の様子も以前とは別物だ。

 軍事知識の無いタスクなりに考えて指導した、誰から誰にの原則、手隙確認の原則、本題優先の原則、締めの原則、5W1Hの原則、復唱の原則、ホウレンソウの原則が活かされているのだろう。


 今回は夫婦貝が5組になったことも鑑みて、金管を繋いで夫婦貝を直接手に持たなくても聞き取れるようにした。聞き取りは常時全てのほら貝から可能だが、喋りたいときは金管の蓋を開けた夫婦貝だけが使用状態になるという寸法だ。夫婦貝を持たせたのは第1、第2、第4戦隊と多角戦略隊、そして魔導師隊だ。複雑化はしたが、これならハーズとバーグの取り違い防止にも役立つだろう。


 まぁともあれ、自分以外が全員兵士というならまだしも、これでタスクとしては更にここを敵に晒す訳にはいかなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ