1-2 その日の青年
その日、日々銀佑は朝食を終えて、まず書類の整理をした。
昼前から郊外ショッピングセンターへの対抗策を講じる中小小売店を対象として、販売戦略の講演会にて弁舌を振るった。
続いて夕方からは、大手メーカーの下請け受注を目指したいという工業部品工場の製造工程マネジメントを行う。
最後に一頻りの挨拶を終えると、それからようやく自宅兼事務所への帰路についた。
すでに日はとっくに落ち、ひと気も減った頃であったが、今日はまだ一仕事残っているのだ。
27歳で経営コンサルタントとして独立してから早1年。
ようやく得た事業再生の大仕事だ。
これを成功させればハクもついて大きな仕事も入りやすくなるだろう。
まずは帰って、債権者への説明資料の作成だ。財務分析は一通り終えたし、おおよその資金繰りの計画案もできた。
あとはそれを基にして依頼者の代わりに利害関係者へ説明を行う。
最初は拗れるケースもあるだろうが、相手に伝わるようにしっかりと説明をして、上手くいけばやっとゴールが見えてくるという寸法だ。
自宅はもはや資料作成のために帰る場所と化していて、先週からはずっと仕事の合間に仕事をするような生活が続いている。
今月はきっと1年で一番忙しくなるだろう。
そう。確かにキツイ生活だが、タスクにも夢があった。
「名前が売れれば、同じような講演をしても実入りが変わってくるだろうし、人を雇って財務分析とかの受注を増やしてもいいかも知れんなぁ。『所長』なんて呼ばれて、いい車乗って、キャバクラに連れて行ってくれるような交際費持ちの取引先も増えるかもだし」
うへへへへ、と含み笑いが漏れそうになる。
稼いだ分は遊ぶ。それこそがタスクの信条であり、つまりはたくさん遊ぶためにはたくさん稼がなくてはならないのだ。
一刻も早く戻らねばと路地を抜けつつ、ひと気がないのを良いことに、成功を夢見てついついスキップなんぞしてしまう。
もちろんタスクとしても、やらずにすむならダラダラとサボっていたい。だがキツイ仕事も成功への道筋をイメージすればなんのそのだ。
「おっと」
曲がり角の先からちらちらと光が漏れているのに気づいて脚を緩めた。いい歳をした男が一人でスキップをしているのを見られたとあっては、流石に恥ずかしすぎる。
自転車でもいるのだろうと平静を装って曲がってみるが、予想に反して何もなかった。
「……何だこれ?」
そう。予想に反して何もなく、そこには光しかなかった。
もちろん街灯の光ではなく、色合いは昼白色だが蝋燭の炎のようにちらちらと揺らいでいる。
不思議なことに光源が見当たらない。それに目線から膝丈程度までは間違いなく光を放っているのに、地面はほとんど照らされていない。
「こんな技術ありえるのか? プロジェクション・マッピング? でも空中だぞ……。なんだこりゃ?」
少し不気味だが知っておけば個人的な投資や、工業系企業のマネジメントの受注時に役立つかもしれない。
思わず手を伸ばしてしまうタスクであったが、
「……うぉあ!?」
あー、昔読んだライトノベルにこうゆうのあったなぁ、と気づいた時にはすでに眼前は真っ白な光に包まれていた。