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4-3 勇者ではなく、正しくは軍師でもなく

 当初は疑心もあり、敗戦を察していたこともありで半ば死んだ目をしていた兵たちも、同様の手順でそれぞれに策を伝え疑似的に実践する度に、少しずつ活力を見せていった。

 それにともなって「軍師殿」という不本意な呼び名が広まっていくのが少し気になるタスクではあったが、皆が話を聞いてくれたことには素直に感謝したかった。

 覚悟を決めたタスクがなんとかひねり出した、合計4つの戦略理論。

 兵士たちには敢えて自信に溢れた態度を見せたが、これで駄目なら覚悟はしている。

 不本意だが、タスクとてこれだけの人数の命の責任を背負って、自分だけ逃げ延びようとは思いはしない。

 故に彼らが敗れれば、タスクの異世界生活もそれまでだ。

 そんな訳でタスクは進軍していく王国軍を見送って、砦の一室で悠々と食事をはじめた。

 スープにキノコが一切れ入っているのは、食事がゴージャスになった故だろう。


「軍師さまぁ。ほんとぉーに軍の人たちと一緒に行かなくてよかったんですかぁ?」


 そのアリスタの問いはタスクにとっては愚問だ。


「いや、俺が一緒に行って何するんだよ。やることないだろ」


 でもでもぉと、ぐずるアリスタに答えてくれたのはテーブルを挟んで座るソフィアだった。


「アリスタさん。タスクさんはご自身のお勤めが、戦術指揮ではないと仰っているのではないでしょうか」


 本当に頭の回る少女だ。


「私たちはこれまで兵を動かすことが戦いだと思っていました。果敢に戦って下さる兵士の皆さんがいて、そしてその根底にあるのは部隊を動かす指揮官。その指揮官の武器こそが『戦術』であるのだと」


 その通りだ。ソフィアの意見は正しい。


「ですが、兵士の持つ剣に剣術の教えがあり、それを打つ鍛冶師がいるように、指揮官の武器である戦術にもまた、それを選び、教え、打ち鍛える方が必要だったのですね」


 そしてその先も理解しているようだ。

 そう。当然のことながら、会社で意思決定を行い、戦略的判断を下すのは経営者であり、すなわち会社を動かすのもまた経営者だ。

 だがそのための方針を定め、戦略策定を手助けする専門家もいる。

 情報を多義的に収集し分析し、長い歴史の上に成り立つ理論に基づいて組み立て直し、その扱い方を指南する者。

 すなわち経営コンサルタントだ。

 そして優れた戦略は、会社だけでなく、時には市場に影響を与え、敵すらも動かすこともある。


 その日の夜は、進軍する者たちにとっても、砦に残った者たちにとっても、長いようでもあり、そして短くも感じられるものになった。


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