4-2 ジャスト・イン・タイム
もっとも危惧すべき問題として、そもそも時間が圧倒的に不足していることもあって、まずは全軍をもって準備に取り掛かる運びとなった。
いまだ納得しないものも当然多くいたが、魔導師たちやソフィアの声もあり、そしてそもそも駄目でもともとという戦いだったこともあって、表立って異論を述べるものは多くはいなかった。
魔導師隊とアリスタ、ソフィアは地図を眺めて、タスクから教えられた『属性ポートフォリオ』と、『かんばん作戦』の実行へ向けた配置と手順を周知確認し、弓兵たちはそのよく分からない『かんばん』とやらを作らされた。
看板の名に反して実際には板では無く『のぼり』、いわゆる棒の長い旗のようなものであり、これがなんの役に立つのかと皆が首を傾げた。
染料を使って書いたものが『右』だの『左』だのよく分からない『カンジ』という記号であることもまた、一層謎を深めた要因だろう。
そしてタスクは、そのできあがった『かんばん』を早速掲げていた。
それに合わせて、前方に疑似配置した軍がリアクションを見せる。
タスクに背を向けて並び立つ弓兵たち。その中で逆にタスクの側を見ていた何人かが、タスクの動きに合わせて声を張り上げる。
タスクが『左』と書かれた『かんばん』を掲げれば、
「カンバァーン! ヒダリィーっ!」
「カンバァーン! ヒダリィーっ!」
直接『かんばん』を見た何人かが叫び、そしてタスクに背を向けていた弓兵部隊全体がそれを繰り返す。
続いてその更に前方にいる戦盾騎士隊と剣士隊がそれに合わせてアクションを起こす。
タスクが『右』と書かれた『かんばん』を掲げれば、
「カンバァーン! ミギィーっ!」
「カンバァーン! ミギィーっ!」
やはり同様に皆が反応する。
これだけ見れば少しだけ統率された軍隊っぽい気がする。
やってることはシュール極まりないけど、とタスク自身も思った。




