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恋人がいない方が幸せ

「学校行きますよ!」

「嫌だ」

即答すると、不意に胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。

ジタバタともがきながら苦しいと無言で訴えると、少女は手を離し、床に落とされる。

「学ぶことは大切です。学校へ行きましょう」

今こんな余計なことを言っている少女はぼくが書くのをやめたファンタジー小説のメインヒロイン、『カメリア・セラサイト』。

夢のような話だが、彼女が物語から出てきたんだ。

出てきた時には、ドレスのような戦闘スーツ、と戦闘する気満々の格好だったが、今はぼくの嫌いな場所のブレザーの制服だ。

派手な色のチェック柄のスカートとリボンが面白いくらい似合わない。…と、嫌味を言ってやりたいが、ムカつくほどに似合っている。

「ほら、行きますよ」

「嫌だってば…ていうかぼくのことなんか放っておいてくれよ」

彼女が掴んできた腕を振りほどき、少し怒鳴りつけるように言うが、彼女はぼくを怖がろうともしないし、むしろぼくの腹に拳を入れてきた。

魔法じゃなくて物理でぼくを黙らせてくるの女子としてどうなんだ…!

そういう設定にしたのぼくだけど。

「あなたのお母さんも言ってましたよ!せっかく受かった学校に行かないなんて勿体無いと!」

「な、なんで母さんが思ってること知ってるんだよ…」

「お友だちになりました」

思わず吹き出し、むせる。

友だち、という意味を理解しているのか、表情も変えず当たり前のように言う。

「友だち…?」

「はい!あなたの愚痴を言ったらお友だちになりましょう、とメールアドレス頂きました!」

携帯電話持ってたのかよ、とツッコミを入れようとすると、「携帯電話は昨日買いました」と少女はつけたした。

「そんなことより、学校行きましょう!」

「学校行って何するんだよ…」

「お友だちつくって、恋人もつくってハピネスライフおくるためです!」

目を爛々と輝かせる彼女にため息混じりに言った。

「ぼく、一応恋人いるよ」

「え」

ぼくの言葉を聞いた瞬間、彼女は素頓狂な声を出す。暫く沈黙が流れ、彼女は悲鳴をあげながら後ずさりする。

「恋人いるのに死にたがるとか全国の恋人いない方々に謝った方がいいですよ…!」

その言葉を聞いたぼくはため息を吐く。

「恋人がいるからといって幸せというのは間違えてるよ」

「というかこんな奴に恋人がいるのが不思議です!」

「いて悪かったな」

そんな漫才のような会話をした直後、唐突に彼女は部屋の隅のハンガーにかけてあったワイシャツとブレザー、ネクタイをぼくに投げつけた。

「恋人がいても幸せではないということを証明して見せてください」

彼女はニタリと嫌な笑みを浮かべる。

「私が納得したらあなたは学校へ行かなくてもいいです」

これは挑発だ。乗ってはいけない。いけないと解っていたが。

「……今日だけだ」

彼女が小さくガッツポーズをしたのは、みなかったことにしておこう。


「ここがそうですね!」

門の前で大げさに騒いでいるせいで、周りから注目を浴びる。

「今日からみなさん友だちです!」

そう言った直後、彼女はまたブツブツと何か言い、言い終わると彼女の周りを人が囲む。

友だちになる魔法使えるとかこいつこそ全国のぼっちに喧嘩売ってるとしか思えない。

彼女がそんなことをしている間に、人を探していた。

ぼくの、傷つけたくない、大切な恋人。

すると、少女を囲んでいる人の中でなんだなんだと顔を覗かせる少し背丈の大きい女の子をみつけ、背中に冷や汗が伝う。

「今日一日はぼくに話しかけるなよ」

そう言って首を傾げたままの少女をその場に置き去りにした。

少女が門前にいなくなってから学校に入ろうと、少し学校から離れたコンビニに入ろうとする。

「学校、来てたんだ」

後ろから聴こえた声に肩が大きく跳ねる。

ゆっくりと振り返ると、''彼女'' がいた。

真っ黒で肩までのびた髪。邪魔な前髪をとめる少し変わった目玉のピン。薄めの化粧なのに可愛いと、クラスで人気のアイドル。

この人がぼくの恋人。黒狩 恋乃 (くろかり れんの)。通称、レン。

「心配したよ……何度も連絡したのに返信こないから……」

目を潤ませてぼくの胸へ飛び込む。

心配してくれてありがとう、と感謝するべきだが、忘れないで欲しいのは一つ。恋人がいることも死にたい理由の一つだ。

「心配かけてごめん」

ぽそりと呟くとレンは手をぼくの頬にのばし、思わず身構える。

「顔にはしないよ…今は」

耳元で囁かれた言葉に、あの時の恐怖が蘇る。

震えた唇で意味もない「ごめんなさい」を呟く。

「やだなぁ、なんで謝るの?」

にやにやと笑う彼女に背を向ける。

逃げたい消えたい怖い近寄らないでほしいどうしてぼくは今ここにいるのだろう。帰ろうぼくだけの世界に閉じ篭ろう。

「今日は私から逃げないよね」

満面の笑みでレンは滑らせるように指を絡めてくる。

「学校、行こう?ねぇ、ねぇ?」

「いや、でも今日はもう帰…」

「もうずーっと学校居なくてノートとってないでしょ?私の写していいよ」

レンは強引にぼくの腕を引っ張り地獄の場所へと誘おうとする。

学校の、学校の中にある保健室。彼女は好んで使う場所。

ぼくの身体は動かず、レンの思うがままだ。

「今日もねぇ!先生いないから二人きりだねぇ!」

『二人きり』という言葉に震え上がる。門前には運良くカメリアの姿はなかった。

そして引きずられ、入口に近い保健室へと放り込まれる。

「そこに座って」

そう言ってレンは床を指さす。大体レンが『座れ』と指示してきた時は『正座』を意味する。

正座で座った途端ぼくの頬にレンの拳が思いきり入る。体勢を崩し、倒れ込むと、彼女はぼくの前髪を掴み上げる。

「何で私のメール無視するのぉ?」

アイドル、とは思えない、ゴミをみるような目。

痛みで悶えていると「うるさいなぁ」と彼女は腹に蹴りを入れてきた。

「っ…!」

あまりの痛みにうずくまる。

「やだぁ、そんなことしてたら芋虫って呼ぶよ?」

彼女はぼくの頭を足で床に擦りつけながらぼくを罵る。

「ふふふ、メール返してくれない芋虫は潰しちゃうよ?」

蹴りながら、笑って、そんなことを言う。

そう、レンはぼくを殴ったり蹴ることを生きがいとする最近話題のDV女だ。

ぼくは何度か、彼女に殺されかけたことがある。

「ひどいよぉ…私はこんなに好きなのに…君は好きになってくれないなんてぇ…」

そう、意味がわからないところは一つ。彼女は笑っているのに泣きながらぼくに暴力を振るう。

ぼくはぼくなりに彼女を愛しているつもりだったが、伝わらなかったらしい。そのせいでもう彼女への愛はなくなったし、完全に冷めた。別れたいけど、別れ方がわからない。

だから嫌なんだ学校なんて。

ぼくを消そうとする場所なんて。

こんなところでは死にたくない。

誰か、誰か…!

彼女に暴力を振られているうちに、視界は真っ黒になっていた。

助けを呼んでも誰もきてくれないのが当たり前。相談する相手もいない。

顔に傷があるのは彼女のせいだと訴えても冗談だと言って皆信じない。


だれかぼくを、たすけて

少し暴力表現を出してしまいました…。


3話目からは明るい話になる…はず?

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