おねがい!
ペンを床に投げて、原稿用紙をしわくちゃにする。
もうダメだ。ぼくはもう、書けない。
だれか、幸せなぼくを創造してください。
ぼくにはもう、生きる価値がない。
信じていた人は今はぼくの悪口で盛り上がっていて、父親と母親も現実をみろと毎日ぼくに指をさす。
ぼくがここまで生きていたことがおかしかったんだ。前世でやり直そう。きっとそれが一番いい。
用意してあった殺風景な部屋の中にある大きな輪に首をかける。
あとは、このイスを蹴って、宙ぶらりんになるだけだ。
本当は屋上にでも行って注目を浴びながら死ぬ、というのも有りかと思ったけど、そこまで行くのが少ししんどい。
遺書も用意した。後悔はもうない。
さようなら。
「大丈夫ですか?」
ふと、どこからか甘えた猫のような声が聴こえた。
猫のような可愛らしい声だけど、明らかに人間の声だ。
思わず輪を外して、辺りを見回す。そしてありえない光景に小さな掠れた悲鳴をあげた。
「そんかことしたら死んでしまいますよ?」
机の上に正座している少女の外見は、ぼくが小説のなかで創造した姿に似ていた。
椿色の髪の毛、キリッとした千歳緑の瞳。深緑色を基調としたデザインのドレスのような戦闘用スーツ。枯葉色が基調のコルセットは大きさ様々な緑色のリボンがたくさんついていて、黒色で彩る、レースやフリルは煩い程に纏わりついている。
耳の後ろで二つに結った髪には、椿の造花がついた髪ゴム。
今目の前にいる少女が本当にぼくの作品に出てくる女の子、名前は
「カメリア…カメリア・セラサイト…」
そうぽそり呟くと、少女は笑顔で大きく頷く。
「よかった!私のこと忘れていませんね!」
ありえない。
何故ぼくの作品のメインヒロインがここにいるのか。
きっとぼくは夢をみているんだ。そうだ、きっと。
机からふわりと降りる少女は突然、女の子とは思えないチカラでイスごとぼくを床に叩きつけた。
「いっ……!?」
背中を思いきり打ち、痛みに悶えていると少女はぼくに近寄り、笑いながら抉る言葉を言う。
「もしかして物語完結しないまま死のうとか思ってませんよねぇ?」
答えようと口を開くが、少女は無視して続ける。
「私の魔法も未完成のまま、私の親も見つからないまま…それで終わらせようとしていませんよねぇ?」
少女が先ほどの大きな輪に触れるとそれは黒くなり灰となった。
そんなありえない光景に再び掠れた悲鳴を上げる。
「いい歳して中二病こじらせやがって…お前は私の人生がどうでもいいのか?!」
先ほどの丁寧な口調から一転、男らしい口調になる。
いや、ぼくも男だけれどあんな口調は使ったことがない。……小説以外は。
彼女が怒るとああいう口調になる設定をしたぼくを恨んだ。
「いい歳って…ぼくまだ高校…」
少しオドオドした口調で言うと、「うるせぇ!」と怒鳴られた。
少女は咳払いすると、「とにかく」と続ける。
「私の物語が完結するまで、死ぬことは許しません」
その言葉にぼくは勇気を出してふざけるな、と言ってしまった。
「なんでぼくの作品のヒロインにそんなこと決められなきゃいけないんだ!そもそもこれが現実かどうかも混乱してたのに…」
すると頬に重い一撃。思わず倒れ込むと、少女は拳を掲げてガッツポーズをする。
「私の運命は全てあなたに決められています。だから私にあなたの選択肢を決める権利があってもいいと思います」
肩をぐるぐると回しながら淡々とした口調で言う。
「君はぼくがどれだけ辛いか知らないからそんなことを言えるんだ」
「あなたの事情など知ったこっちゃないですよ」
少しぼくが感情に身を任せて言うと、少女はだから何だと言わんばかりに笑顔で返す。
「ぼくは親に夢を反対されて」
「私の親は行方不明です」
「しかも友人にも裏切られて…!」
「私には友だちなんてそもそもいません」
交互に自分の不幸を言い合うのはまるで不幸自慢大会みたいでなんだか虚しくなってきた。
「ぼくはもう…消えたいんだ…」
「それだと私の物語が進みません…困ります」
早く消えたいのにまさか自分の創作人間に邪魔をされるとは思わなかった。
こんな悪い夢早く覚めてくれ…。
「あ、そうだ!」
彼女は何か思いついたのか、手を叩く。
「私があなたの災いを退ければいいんですね!」
「…はあ?」
突然何かと思えば、そんな下らないことを言ってきた。呆れて思わず声を漏らすと、少女がすごい人相で睨む。
「あなたが生きる希望をみつければあなたは死にませんね?」
半ばキレ気味の、地を這うような声で彼女は言う。それに否定すると恐ろしい目に遭うと察したぼくは無言で何度も頷いた。
すると彼女は柔らかい笑顔をみせる。
「じゃあ、あなたが生きると決めるまで私は物語の世界に帰りません」
笑顔のまま、そんなことを言う。そんな、恐ろしいことを。
「ま、待って。君は物語のなかの人間であろうと、お腹は空くだろう?でもぼくの家は貧乏だし、大したご飯も…」
親のつくるご飯だけど、貧相なことには変わりないし、女の子を住ませてあげてなんて説明したら発狂されるだろう。
「それなら問題ありません」
少女はそう言うと、目を瞑り、支離滅裂な言葉を繰り返す。ぼくはこんな呪文のようなもの、創作した覚えはない。
暫くすると、少女は目をゆっくりと開き、息を長く吐く。
「お引越し完了しました」
少し汗を浮かべた少女はぼくの身につけている白いシャツに手を伸ばし、それで汗を拭かれた。
「私は隣に住むことになりました!今日から幼なじみの関係ですよ!」
少し悪意を込めたような笑みでぼくを見下ろす。
勘弁してくれ、と呟くと、思いきり胸ぐらをつかまれ、反射的に謝る。
「制服も買わなきゃ、ですね!」
鼻歌を歌いながら、窓から隣の家のベランダへと飛び移った。
そして少女はお母さん、と親らしき人を探して、去り際にぼくにピースサインをした。
ぼくの人生どうしたんだ?
本当に、あれはぼくの小説のなかのヒロインなのか?
でもそんなことはどうでもいい。まさか死ぬことを邪魔されるとは思わなかった。
お願いだから…!死なせてくれ!
死ぬ邪魔しないでくれ!
死ぬ邪魔をするのは楽しいか!?
ぼくは…上手く生きられるだろうか…。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
連載ものを投稿してしまった…!
どんな物語にしようかと、とてもわくわくしています!
恋愛要素も入れたいな、と思ってたりします…まだ先の話は考えていないのでどうなるのかはわかりませんが…頑張ります!