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ARK   作者: みこと
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森の巫女

森の巫女


森の声が聞こえる。

そんな風に私はなりたかった。

私の森はとても素敵なところだ。晴れた日には、さんさんと輝く日を体いっぱいに受けようとする木々が背伸びをし、雨の日には動物たちをその大きな体で守ってくれる。

私にとっては、とっても大きなお兄ちゃんみたいな存在だ。

だから、私は森とお話ができるようになりたかった。

そんなことばかり言っていると変な子だと思われるかもしれないけど、心からの気持ちだ。

森の中心にはご神木がある。

この森一番の木で、太さは大人の人が20人手を繋いでやっと一周できるくらい。高さもどの木よりも高くてどこにいてもご神木は見ることができる。この森に住む人達は、毎朝ご神木にお祈りをし、お供え物を置く。もし、お供え物やお祈りを欠かすと森の木々が死んでしまうらしい。その時は巫女を決め、少女を1人お供えする、そんなことをお母さんは言っていた。

そんなことはありっこないと私は毎日お供え物を、取っては食べていた。

「どうせ、鹿さんやきつねさんに食べられるもん。私が食べたって一緒だよ」

お供え物で一番多いのはパンと牛乳。手軽だからだと思う。私は両方好きだからいいけど。

「こら、またお供え物食べたの?ダメだって言ってるじゃない。村の人達にバレたら大変でしょ?」

ツインテールの金髪にパチくりとした青い目、お人形さんみたいな顔をしかめて怒るのは私のお姉ちゃん。お姉ちゃんが17で私が9つだから、8つ離れている。

「えー、なんでー。どうせ、動物たちが食べるんだよ?」

「それでいいのよ、お母さんも言っていたでしょう?」

「むぅ、動物が食べていいなら私だって食べていいじゃない。」

「ダメよ、動物や森を敬いなさい。私達は動物や森のおかげで生きてるんだから」

「わかったよー…お姉ちゃん怒ると怖いんだもん」

「わかれば、いいのよ。あっちで、素敵な花畑を見つけたの一緒に見にいかない?」

「ええ!新しいとこ!?お姉ちゃんよく見つけられるね」

「もう、知ってるところだったらごめんね」

お花畑は、ご神木の向こう側森の奥にあった。怖い動物が住んでいるからあまり行ってはいけないと言われていた場所だった。

「お姉ちゃん、こっちは危ないってお母さん言ってたよ?」

「怖い動物がいるからでしょう?大丈夫、動物は怖くなんてないわ。」

「狼さんは、女の子を食べちゃうんでしょう?」

「あはは、それは絵本の話だよ。森の中に狼なんて見たことある?大丈夫よ。」

お姉ちゃんは、お母さんの言いつけはいつも守るに動物の事になると違った。動物になにか思い入れがあるみたいだった。

「さぁ、着いたよ!」

お花は紫一色だった。初めて見るお花で、お姉ちゃん曰くラベンダーというらしい。

ほのかに光っていて、神秘的なお花だった。

「わぁ、きれ〜い!ラベンダーは光るお花なの?」

「うーん、どうなんだろう?私もお母さんから聞いただけだからわからないけど、光るお花なんて、初めてよね」

「うん!とってもきれい!一本もって帰ろう!」

「そうね、お花についてわかるかもしれないし、一本だけ持って帰りましょう」

そう言って、私はお花に触れた途端、森が騒いだ。

「な、なに?」

「森が……やめた方がいいかもしれない…!やっぱりダメ!ダメよ抜いちゃ!」

「えっ」

プツ、という音とともに花は抜けた。

すると、お花の光はなくりなり見る見るうちに枯れていった。

「あれ、枯れちゃっ…た…」

突然辺りが暗くなり、私の意識が途絶えた。


「起きて!起きて!」

「う…うーん」

私を起こしたのはお母さんだった。

「大変なの!お姉ちゃんが!」

「お姉ちゃんがどうかしたの?」

「お姉ちゃんが…巫女に選ばれたの」

「えっ!うそ!あんなに森は元気だったじゃない!」

「それが、突然…」

「嘘だよ!お姉ちゃんが巫女だなんて!」

私は外に出た。日は傾き始め西日になっていた。赤い光が森を照らした。

真っ黒な森を。

「うそ…そんな!」

森はあたり一面黒くなっていた。私には森の声は聞こえないけれど、わかる。これは明らかに苦しんでいる。

「ご神木のとこにいかなくちゃ!」

私はかけていく。変わり果ててしまった森の中を。


ご神木に着くと、沢山の大人達が集まっていた。お祭りという雰囲気ではなく、緊迫した表情を浮かべていた。

「巫女はこの子に決める!村のお供え物を食べたところを見たものがいる!」

「…わかりました」

巫女装束に着替えたお姉ちゃんは、静かに頷いた。

「ちょっと待って!お姉ちゃんはそんなことしないよ! 」

「妹か?あっちに行っていろ。家族が見るにはあまりにも辛い」

そう言って、大人の村人達が私のことを掴んで神木から離れていく。

「ちょっと待って離してよ!お姉ちゃん!お姉ちゃぁあああん!!」

お姉ちゃんは、驚いた表情を見せたあと、静かに笑って見せた。


あれから、一年。私は毎日お姉ちゃんの元に通っている。

お姉ちゃんは、ご神木に巻きつけられ、段々木と一体化してきていた。何度も引き剥がそうとしたけれど、お姉ちゃんは痛がったし、どうあがいても私の力じゃ無理だった。

「ありがとう。あなたが来てくれるだけで私は嬉しいわ。」

そう言って笑うお姉ちゃんは、悲しい笑顔を浮かべた。

「お供え物、食べちゃダメだけど…お姉ちゃんは食べてもいいんでしょ?」

「ええ、私はもう木みたいなものだもの」

お姉ちゃんの体は日に日に木の中に侵食していっていた。

そんな、お姉ちゃんを見るのは辛いけど多分、私が来ないとお姉ちゃんは寂しいはずだ。私の辛さなんか、お姉ちゃんの辛さに比べたらちっぽけなものだ。

夜になるとお母さんが迎えに来た。私は毎日だだをこねたが、お姉ちゃんがお母さんを困らしてはいけないと笑って見せるので、渋々家に帰っていた。

でも、その日は違った。

突然胸騒ぎがした。何か、森が騒がしかったのだ。森が私に言っている。お姉ちゃんの元にいけと。

私は夜、お母さんが寝静まるのを確認して、慌てて外に出た。月夜に照らされた道をかけ、お姉ちゃんの元に急いだ。


神木の前に誰か立っていた。

私は、木の影に隠れて様子を伺った。

「今日は顔色がいいね」

「あなた、また来たの?ふふ、暇なのね」

「今日はいい知らせだよ、その縄切れるかもしれない。ちょっといいナイフが手に入ってね」

お姉ちゃんと同じくらいの年の黒髪の美しい顔立ちの少年だった。

「へぇ、どこで手に入れたの?」

「日本でかな?親父のやつを拝借した。殺されかけたけどね」

「ふふ、あなたのお父さんはつくづく怖い人なのね」

そう言うと、彼はどこからともなく、ナイフを取り出した。

そして、目をつむりお姉ちゃんを結んだ縄を素早く切った。みたいだ。私には見えなかった。

すると、縄がほのかに光を帯びた。紫色の光だった。

「やはりか…もう、そこまで…」

しかし、お姉ちゃんの体はもう、半分以上埋まってしまっていて、お姉ちゃんがご神木から開放されることはなかった。

「あなた、凄いわ…この縄を切るなんて…」

「まぁ、専門分野なんでね。でも、君をそこから助け出すのは難しそうだ。この木は僕じゃ切れない」

「お兄ちゃん、すごいね!」

私は思わず飛び出してしまっていた。

「君は?」

「お姉ちゃんの妹!」

「こら!お母さんを困らしちゃダメでしょ!」

「えー、森がお姉ちゃんのとこに行けって言ったんだもん、しょうがないじゃん」

本当は、言った気がしただけど。

「もう、また適当なこといって…」

「仲が良いんだね羨ましいよ」

「ええ、まぁ。私とこの子は仲がいい方だと思うわ。あなたと違ってね」

「いちいち、一言多いよ?君は」

少年はそういって笑い、夜空を見上げた。星がいくつも瞬き暗い森に光を届かせていた。

「心の闇が生む…欲望の力…その力は紫の光となって、世の理を超える力を授ける……。バカみたいな話だろ?」

「紫の光…」

お姉ちゃんと私は自然と先程の縄を見た。今もわずかに紫の光を放ち続けていた。

「あそこには、村のみんなの欲望が込められていたのね…」

「人は心に闇を持ち、戦い続けなくちゃいけない。それは、罪かもしれないし、過去かもしれない。どちらだとしても、戦うことをやめ、その力に身をゆだねればそれはもう人とは呼べない。」

私は思った。自分にもお姉ちゃんにも、そして、あの美しい少年にも同じように闇があるのだろうか、と。でも、私も村の一員で、お姉ちゃんを縛り付けた1人でもある。

胸の奥に冷たい針が刺さった。

その時、また森が騒いだ。何か沢山の物がこちらに近付いていた。

「…まずい!君はお姉ちゃんの近くから離れないで!」

「何が起きてるの!?」

「オオカミだ!数は50はいるはず!なんでここを目指してる!?」

少年が叫ぶと、オオカミ達が茂みから一斉に現れた。

血走った目には、欲望の光が灯り私達を睨みつけ、四方から飛びかかって来た。

「ガルッ!」

少年は右手にナイフを構え、左手を上着の中に入れた。

オオカミが少年の一寸先に来た時、オオカミは散り散りに引き裂かれた。

「見ちゃダメ!」

お姉ちゃんは悲痛な声で叫んだ。

「あ、ああ…!」

私は全身を震わせ、必死にお姉ちゃんに抱きついた。肌の温度はほとんど感じなかった。

次々と襲ってくるオオカミを見えない剣撃でさばく少年。その目に感情らしきものは無かった。

オオカミの頭が私の足元に転がり、生暖かい血しぶきがかかった。

涙が止まらなかった。泣いてるという感覚ではなく、溢れてくるという感覚だった。

その頭がにんまりと笑って、私に突進した。地面がひび割れるほどの反動を使って飛び上がってきた。

「うぅ…っ!」

「なっ!」

少年が一瞬目を離した、その時をオオカミは見逃さなかった。同時に5匹のオオカミが飛びかかり、少年は4匹までさばいたが1匹逃した。

足元を勢いよく噛まれ、痛みに顔を歪めた。

それをきっかけに、飛び散った頭が一斉に少年に飛びかかりあちこちに噛み付いた。

「くっ!」

「きゃあああ!」

私はオオカミに取り囲まれ、死を覚悟した。

「私の大切な物をうばわないで…奪わないでよぉおおおおお!」

お姉ちゃんが叫ぶと目には欲望の光が宿っていた。

地面からいくつもの大きな根が生え、ムチのようにしなって、私や少年のオオカミを叩きつけた。

オオカミは吹き飛び、動きを止めた。

危険をさっちしたオオカミは私達から距離をとったが、ムチは容赦なくなぎ払った。

「許さない…。許さない…」

ぶつぶつとお姉ちゃんは呟き、倒れたオオカミを何度も何度も何度も叩きつけ続けた。

「ダメだ!その力に身を任せちゃいけない!」

少年は、傷ついた足を引きずって、血まみれの右手でお姉ちゃんの頬を叩いた。

「ッ…!」

お姉ちゃんは俯き、無表情のまま神木にムチを叩きつけ、自分と神木を切り離した。

お姉ちゃんの手足はすっかり細くなっていた。

「動き…にくいわね…」

冷たい声色だった。お姉ちゃんの周りを紫の光が包み込み、体をみるみるうちに小さくして9歳くらいのときの姿になった。

血しぶきで汚れた私は、綺麗で私そっくりな姿のお姉ちゃんと向き合った。

お姉ちゃんは、ばつが悪そうに目を逸らす。

「これくらいになれば、動きやすいわね」

お姉ちゃんはにっこり笑った。傷も何もかも無くなり、まるで時間が遡ったかのようだった。

「君は…人を捨ててしまったんだね」

「…そうね。そうだわ…」

少年は、悲しい顔で静かにナイフを構えた。

お姉ちゃんも地面からまた、沢山の根をはやし少年に殺意を向けた。

「待って!待ってよ!やめて!」

私が間に入った、その時。

「なっ、巫女が抜け出しておる!な、なんてことをしてくれたんだ!」

あの日、私を突き飛ばした大人だった。

「ふざけるなよ、貴様ぁああああ…!」

少年は目にも止まらぬ早さで、村人の前に移動し、斬りかかろうとしたが、その手足を、根によって縛られた。

「なんでだ!こいつらはお前をそんなにしたんだぞ!」

「いいわ…もう…森を元に戻せばいんでしょう?」

お姉ちゃんが目をつむると、森のあちこちで土から細いつたが生え、黒い木々に巻き付いた。

すると、黒かった葉や幹は元のいろに戻り森は一瞬で元の姿を取り戻した。

その様子を確認したお姉ちゃんはゆっくりと少年に巻き付けたつたを解いた。

「なにがおこったんだ。」

村人は震えて腰を抜かし、当たりを見回した。

「これでいいなら、消えなさい」

お姉ちゃんはそう言って、村人を睨みつけた。村人は、「神木のお導きか…」と呟いて静かに立ち去っていった。

すると、また森が騒ぎ幹や葉を黒く染め上げていく。

「…!これは!まさか!」

お姉ちゃんは、森の奥に走った。

「何をするつもりなんだ!?君、こっちにおいで!」

「えっ?きゃっ!」

少年は私を片手で抱き抱えると、私が感じたこともない速度で走った。

お姉ちゃんも、その速度と同じような早さで走っていた。


着いたのは、あのラベンダーの咲く花畑だった。

「この花が原因ね」

そう言うと、お姉ちゃんは地面から根を生やした。

「ま、待って!」

私の声は届かない。

お姉ちゃんは迷わずに冷たくなぎ払った。

ラベンダーの花々は無残に散り、今まで吸い上げていた森の栄養を白い光の玉として一気に放出した。

「さよなら、私の愛しい家族。愛しい森。そして、愛しい動物たち。私は遠くの森にでも行くわ」

「そんなのいやだよ!私も連れて行って!」

最後にお姉ちゃんはにっこりと笑うと、紫の光となって、空高く飛んでいった。


お姉ちゃんがいなくなったあと、森はすぐに元に戻っていった。お姉ちゃんにえぐられた神木にもつたが巻かれていて、私と少年が戻った頃には元通りになっていた。

少年が森に来たのは、この村の内情を聞きつけ、大きな闇を生むことになると思ったかららしい。

その少年に、なぜお姉ちゃんが巫女になったのかと理由を聞かれ、私は姉が吊るされた本当の理由に気付いて泣いてしまった。

お姉ちゃんは私の代わりに吊るされたのだと。貢ぎ物を食べた私の代わりに。

少年は慰めにはならないかもしれないけどと言って、お姉ちゃんのことを教えてくれた。

「君のお姉ちゃんは昔、狼に崖から落ちそうになったところを救われたことがあるって言ってた。そのオオカミが僕たちを、襲ったのを見て、多分自分と戦えなくなったんだ」

狼は敵じゃない。悪い動物なんていない。お姉ちゃんの言葉が頭に響き、涙となって溢れた。

村に戻った頃には朝日が刺し、木々が優しく揺れ私の心を慰めた。

朝の冷たい風に乗って、紫の花びらが舞い散ちる様子を見て、私の目には僅かに紫の光が灯った。


あくまでも短編の集合体としての長編です。

毎週土曜日に続編を上げれるように頑張ります。

法則性や伏線なんかもしっかり読んでもらえれば、楽しめると思います。


お付き合いいただきありがとうございます。

また、見に来てくれると嬉しいです。


ちなみに私は最近まで、たくあんのことをあんこの一種だと思ってました!

違うんですね、びっくりです!

あと、沢庵って料亭ぽいですよね、それもまたびっくり!

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