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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第一章 ポアロイル旅楽隊
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第七話 現状把握

 この偉そうな少年は腕を組んでおれを見る。


「さて……どこから話そうか」


 やっぱりこのガキんちょ生意気だよな。


「ああ、出来れば何から何まで、まるまる全部教えてくれ」


 そうだ、混乱も限界に達している。

 出来ればすぐに事実を聞きたい。


「そうだな。お前、本当にここにくる前の記憶はあるのか?」

「そうだ。なんだよ、あったらおかしいのか?」


 するとこの少年ジェフは、ため息を吐きながら首を振った。


「ああ、おかしいね。ここにいる人間はみんな、自分の名前しか知らないんだ」

「そりゃさっき聞いたぞ」


 ジェフ少年は顎に手を当てて「ふむ」と唸った。


「お前、記憶はあると言ったが、始まりの部屋の記憶もあるってことだよな?」

「始まりの部屋ってあの真っ白い部屋の事か? あるぜ。後ろの扉をちょっと開けたら突然吸い込まれた」

「後ろの扉? 扉は一つじゃないのか? まあ真っ白い部屋であってる。その部屋は始まりの部屋と呼ばれてる場所だ」


「へえ。 ……んで?」

「そうだな。この世界の人間はみんな始まりの部屋から生まれる」

「じゃあお前ら全員死んでここに来たのか?」

「ま、そうなるな」


 どうやらここは本当に死後の世界らしい。

 信じがたい話だが、茜が高校生の姿のままここにいるということが、それを何よりも証明していた。

 当時の姿のまま……?


「この世界では年を取らないのか?」


 おれは今24歳で、本来ならここにいる茜も24歳ということになる。

 しかし、見る限り高校生の頃と何も変わっていない。


「そうだ、年は取らない。ここにやってきた姿のまま成長もしないし老いもしない」

「じゃあどうやって死ぬんだ?」

「そりゃ普通に刀で切られたりしたら死ぬぞ」

「いや、そうじゃなくて、寿命とか無いの?」

「一応、何百年と生きてると魂が朽ちるから、そうすると死ぬな」


 何百年も生きるのかよ。

 死人のくせに長生きだな……


「ここにいる人間の目的はただ一つ。未練を消し去ることだ」


 さっき黒人とDQNも言ってたな、それ。

 しかし未練って言われても、おれ死んでないんだけど……


「未練は自分でもわからないんだ。だからふとした事がキッカケで未練が消えるときがある。そうすれば僕たちの魂は解放されるんだ」

「死んでない人はどうすればいいの?」

「いやいや、死んでないヤツはここに来ないから」


 あっさり死人扱いされた。

 どうしよう……

 おれ、マジで死んだのか?

 そう思ったら、なんだか親の顔が頭に浮かんだ。


「まあ、時間はたっぷりあるし、この世界も悪くないぞ」

「そうっすよ。この世界じゃ未練にこだわらないで自由に生きてる人の方が多いんですから」


 ジェフ少年とDQNが、落ち込んでるおれをフォローするが大して心に響かない。

 なんだか理不尽すぎて涙がこぼれそうだ。

 会社で変な機械のテストしてたら死にましたとか、笑えねえよ。

 そんでおれ自体はバーチャル世界に来たと思ってたら死後の世界とか、勘弁してくれ。

 おれは今にも泣き出しそうだったが、心の中で「労災とか下りんのかな」と現実的な事も考えていた。

 本当に死んでたらどうしよう?

 もう二度と帰れないのか?


「お前、ここに来る前にアカネに会ったことがあるといったよな?」

「うん……グスッ」


 泣きそうなので、短く返すのが精一杯だ。


「記憶はどのくらいある?」

「全部ある。子供の頃から昨日の事まで。茜の事も……」


 チラッと茜を見たら視界がじわりと歪んだ。

 涙がもう、止められない。

 おれはブランケットに顔を埋めて泣いた。

 みんな見てるが構うもんか。

 やりきれない思いを奥歯で噛み締めるようにして泣いた。

 さっきのうるさい美少女が「ジェフ、何でコイツ泣いてんの?」とか失礼な事を言ってるのが聞こえてきたが、おれは泣き続けた。


「お前、それ本当か?」


 誰かがおれに向かって言った。

 おれは涙でダラダラなツラを声のした方向に向ける。

 そこにはボサボサな長い黒髪の男がいた。


「ていうか、お前ら何人いるんだよ」

「この六人で全員だ。それより教えてくれ、お前の記憶の話を!」


 ガシっと肩をつかまれた。

 まるで子供が物語の続きを催促するような、そんな雰囲気だ。

 ……てか力強すぎだろ! 痛い!


「わかった、話すから!

 ……いっ、肩、肩離せ! イタタタタッ!」

「おお! すまんすまん!」


 横で黒人がニコニコしながら見ていた。


「よかったなソルダット、久しぶりに見つかってよ! ガハハハハ!」


 何がよかったのかわからないが、おれはとりあえず自分の事について話す事にした。


-------




 話し始めると、彼らは何ともないようなところで質問してきたり、すごいなと感心したり、訳のわからないところでこっちと違うなとか言い出して、話がなかなか進まなかった。

 時折、話を端折ろうとすると、もっと詳しくとか言われて大変だった。


 何時間喋ったかわからない。

 おかげで泣きたい気持ちはすっ飛んだ。


 話し過ぎて口がカラカラになると、気を利かせたDQNが「水っす!」とかいって温い水を持ってきてくれたりした。

 途中で「わたし先に寝るわ!」と、一番やかましい少女が退席した後は、誰も欠ける事なくおれの話を聞いていた。

 ボサボサ黒髪野郎に至っては、メモまで始める始末。


 気づくと周りはぼんやりと明るくなり始めていた。

 オールで喋り倒した。

 正直かなりしんどい。


 おれが始まりの部屋まで話し終わる頃には、みんな疲れ果てていた。

 もちろんおれも一通り話して疲れた。


「ふう、もういいだろ。じゃこっちの番だ。この世界について教えてくれ」


 おれだっていつまでもクヨクヨしたくない。

 死んだのかも知れないが、ここにこうして生きている。

 この世界の事を聞いて、今後おれはどうするのか考えなきゃいけない。


「いや、疲れた。明日にしよう」


 なに?

 おれのターンは無しなのか?


「おいおい、ふざけんなよ。おれ一晩中喋ったんだぜ? そっちも話せよ」

「おれも眠いな……。明日にしようぜ。ワハハ……」

「いや、今教えてやった方がいいんじゃないか?」


 お、ジェフくん! いいね!


「ふう、わかった。そんじゃー教えてやるとしようかね」



-------




 主な話は、ソルダットと呼ばれたこの男とジェフ少年の二人が語ってくれた。

 てか、残りは馬車に引っ込んでいった。


 彼らの話によると、ここはおれのいた世界とは全く別世界だった。

 ここはゲートワールドと言われてる世界で、みんな扉から生まれてくるらしい。

 生まれてくるというよりは、出てくるって表現の方が正しいか。

 ちなみにコイツらはみんな死人だそうだが、今こうして生きているので、死後の世界というより異世界と思った方がしっくりくる。


 おれは運悪く荒野の真ん中に出てきたわけだが、不幸中の幸いでこいつらが見つけ出してくれたらしい。

 見つけたのはあのDQN(モリスという名前らしい)で、今にも獣に食われる所だったとか。

 次の街へ向かう途中に偶然発見したっていうんだから、何と運の良かった事か。

 ちなみにあの獣、この陽気な黒人が二匹とも倒したらしい。

 戦士かよ。


 こいつらはというと、何だか良くわからないが『夢とロマンを追い求め旅する楽隊、ポアロイル旅楽隊』というらしく、いろんな地方をぶらりと暢気に旅をしているらしい。

 メンバーはボサボサ髪のリーダー、ソルダット、黒人がホワイト、知的少年ジェフ、やかましい美少女セレシア、DQNモリス、そして茜。

 旅で寄る先々で、いろんな仕事をして旅の資金を調達しているらしい。


 仕事というと、たいていの街には『ユニオン』と呼ばれる何でも屋の組合があって、それは世界中どこにでもあるので、その日暮らしにも困らない。

 この世界で一番デカい組織だそうだ。

 まあ、いわゆるギルドみたいなやつだ。


 こいつらはそこで仕事を受けている。

 まさに日暮らしなヤツらだよな。



 次にこの世界について。

 このゲートワールドも地球同様、海が大半を占め、いくつかの大陸が存在する。

 これについては、「長くなりそうだから今度教える」と言われた。まあいいか。


 ちなみにこいつらも地球という存在は知っているらしいが、それは記憶を持ったままこっちに飛ばされてきたヤツ(要はおれみたいなの)に聞いたらしい。

 ただ記憶を持って飛ばされてくるヤツなんてのは稀で、たいていの場合は自分についての事だったり、おれらの世界の一般常識なんかを少し覚えている程度なんだそうだ。

 こっちの科学技術はそんなに発達していないが、電気とかあるっちゃあるようなので、少し安心した。

 この世界の科学技術とかは、断片的に記憶を持っているヤツらが作ったそうだ。

 時計なんかもあって、ソルダットが見せてくれたが、地球と同じ十二進法だ。


 驚いたのは言葉についてだ。

 よくよく考えてみたら、あの茜以外日本人っぽいのがいなかったが、みんなと話が通じた。

 最初は日本語だと思っていたが、おれの口から出てたのはこの世界の言葉だったそうだ。

 おれがなぜここの言葉を話せるのか聞いてみたが、みんなそんなもんらしい。

 まあ、こいつらは元の言語の記憶がないんだから、比較のしようがないよな。

 みんな扉を出た時から喋れるんだとか。


 もう不思議なことがあり過ぎて、そんなもんだと言われると「ああ、そんなもんか」と思ってしまう。


 そんで、おれは何とか元の世界に帰還出来ないか聞いてみた。

 実際、おれは死んだ覚えが無い。

 だからもしかしたら帰れるんじゃないかと、心の隅で少しだけ思っていた。


 しかし

 彼らは知らないと言った。

 というか、こっちの常識しかないこの世界の人間にとって、そういう概念はないっぽい。

 記憶の断片がある人間も帰れたヤツは皆無だとか。



 これは正直、かなりショックだった。


 その話を聞いた後、暫く動かないおれを見て二人は複雑そうな顔をしていた。

 でも、切り替えの速いおれは、すぐに次の話を聞く事にした。

 悩んでても仕方ない。


 記憶を持ってるヤツもいるって話だが、おれみたいにすべて覚えているのは限りなくゼロだそうだ。

 ただ過去にはそういうヤツもいたらしく、そういうやつは賢者と呼ばれてる。


「それじゃ、おれって賢者じゃん?」

「まあまあ、最後まで話を聞けよ」


 ソルダットがそう言うと、ジェフは大きなため息を吐いた。


「いいか? 賢者ってのは魂の記憶を持っているだけじゃない。魂の記憶に加えて人外な能力を持っているヤツが賢者と呼ばれてるんだ」


 なるほど、おれ特に能力なんてないな……はっ!


「あるぞ!」

「「!?」」

「おれ、一回寝るとアラーム無しじゃ起きれない体質で、誰かが起こしてくれないと五日くらい寝続けられるけど、これって人外な能力じゃないか!?」


 あるぞ! のところで二人とも少しビクってしたけど、ジェフはあからさまに呆れた顔をした。


「そいつはすげーな。そんじゃ寝てる間に腹とか減らないのか?」

「おい、ソルダット。話を続けよう」


 ジェフ少年が話を戻した。

 うん。それが正解だね!

 おれも言ってみただけだし!


 賢者はちょくちょくいるらしい。

 その中でも、もの凄い能力と膨大な魂の記憶を持つものは大賢者と呼ばれ、彼らがどこにいるか知る者はいない。

 もはや伝説だ。


 ちなみに、大賢者は三人いる。

 太古から生きている『大賢者ノートリオ』、二つの頭を持つ『大賢者イスダルム』、魔女と呼ばれる『大賢者アリス』。


 この世界ってマジで厨二だな。

 名前言うのでもちょっと恥ずかしいわ。



「まだ話してたの! 出発よ!」


 一番乗りで寝だしたうるさい少女、セレシアが声をかけてきた。

 おっと、もう昼間になってら。

 夢中になり過ぎたな。


「そんじゃ行くか。お前一緒に来るんだろ?」

「あ、ああ……いいのか?」


 ソルダットの問いかけに、おれはちょっと戸惑った。

 ぶっちゃけ今後の事考えてなかったからな。


 馬車の奥から眠そうに目をこする茜が出てきた。


「一緒に来るんですよね?」


 この茜は、おれの知ってる茜じゃない。

 ポアロイル楽隊のアカネ(・・・)だ。

 今はそういう事にしておこう。

 無理に過去にしがみ付いても辛いだけだ。

 彼女は何も覚えていない。

 まるでまったくの他人のようだ。

 別の好きだった訳じゃないけど、なんだか失恋に似た気持ちだな。


「早く乗れよ。後ろの席は広いから横になれば良い」


 そしてジェフ少年。

 こいつは生意気で口も良くないけど、なんだか憎めない良いヤツだ。




「さー、しゅっぱーつ!」


 セレシアの号令とともに走り出す馬車。



 おれはそいつに乗り込んだ。




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