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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第四章 カンクーンの決着
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第五十一話 手の中

 時刻は夜八時を回った。


 おれ達は今アイボリーフォートの真っ正面に立っている。

 風は無く、空に浮かぶ雲は大きな三日月を露出させたままその場に漂っている。

 後方に広がる街には、人々の暮らす温かな明かりが灯っている。

 そして前方に佇む象牙色の要塞にもまた同じように灯りが灯っていた。

 しかしそれは、生活のためのものじゃなくて、夜にゆらめく戦いの烽火のようだった。


「ほ、本当に行くんだよな?」

「もちろんだ」


 絶賛ビビリ中のおれはソルダットを見たが、ソルダットは相も変わらずいつも通り。

 煙草をくわえながら、闇夜にぽっかりと浮かぶ孤島のような城を眺めていた。


「さて、ここからは警戒して行くぞ」


 大きなリュックを背負った非戦闘員のジェフもソルダットと同じ所に視線をくれていた。

 ごそごそとリュックの中からガラス玉を取り出して地面に叩き付ける。

 赤尽くめの襲撃の際に使った簡易シールドだ。


「腕が鳴るわね」


 セレシアは手をポキポキと鳴らしながら、眉を吊り上げさせた。

 遠足直前の子供みたいにウキウキしてる。

 こいつら頼もし過ぎるぜ。


「さてと」


 ソルダットは一歩前に出ると門を見渡した。

 見張りの兵士はいない。

 しかし、堅牢な正門は分厚い鉄格子を固く閉ざしている。

 それに何のためらいも無く長い剣を振り、真っ二つに切り裂いた。

 ギャンと大きな音を立てて城の正門はくの字に折れて、外庭に続く通路が目の前に広がる。

 これで後戻りできない。


 今おれ達は国家に戦いを挑もうとしている。

 まるでテロリストにでもなった気分だ。

 まあこんなにビビってるテロリストなんていないかも知れないけどね。

 未だに平和的な解決を頭の中で模索してる自分がいる。

 でも、この世界は元の世界と訳がちがう。

 手紙の文面からは他の選択肢がないことが簡単に見てとれたしな。


 外庭は中央の大きな石畳以外は芝に覆われていた。

 おれ達は王城に向かって中央をまっすぐに進む。

 敵の気配はない。罠はあるかわからないが、ジェフの簡易シールドがあれば先手は防げる。

 でも嫌な予感がさっきから止まらない。

 なんかこう背筋から首にかけてビリビリとしびれような不快感が付きまとう。


 それでもやはり何も起きずに、おれ達は明かりが灯る城の足元までやってきた。

 中央の石畳の道と連結するように幅広の階段が王城の中に続いている。

 明かりはこの辺りを中心に照らしていた。

 両脇には大きな門が何個もある。これは多分兵士が詰めているんだろう。


 と思った途端。やはりその脇から鎧兜を装着した兵士がわらわらと出てきた。

 ガシャンガシャンという音があたりに響く。

 統制の取れた動きで、あっという間に何百もの兵士に包囲された。

 うっわ……もうピンチじゃねえか。

 おれは全身に魔力を込め身体強化を施した。


 兵士たちは何も言わずに槍を構え始める。

 誰も何も喋らない。

 鎧が擦れあう音以外は全く音がない。

 なんだ、戦いってこんなに静かなのか?


「アンタらどいてなさい!」


 そんな静かな空間にセレシアの怒声が響いた。

 彼女はいつのまにか戦闘態勢にはいっていて、髪を逆立たせて宙に浮いている。

 しかし、兵士たちは未だに何も言わない。


 その時。包囲の前列で槍を構えていた兵士たちが一歩ずつ進み包囲を狭めてきた。

 かけ声など何一つなくともぴったりと息を合わせて動く。

 おれは徐々に近くなる槍先に冷や汗を流しながら少し後ずさった。

 ここはおれも戦闘態勢に入らなくては。

 竜骨バットを中段に構える。


「セレシア。吹っ飛ばせ」


 ソルダットが城の中に続く階段を見たまま言った。

 その言葉の後、地面から二本の巨大な岩の手が轟音とともに現れる。

 セレシアのアースエレメントは彼女の手と全く同じ動きで左右に手のひらを広げた。

 それ以上近づくな。手のひらはそう兵士たちに語りかけているようだった。

 しかし、全く怯みも驚きもせず、兵士たちは一歩一歩前に進み、包囲網を狭める。


「チッ!」


 セレシアが舌打ちをしながら両腕を左右に払った。

 もちろんそれと同じ動きでエレメントの腕が兵士たちを吹っ飛ばす。

 鎧が打ち鳴って左右に兵士が宙に舞う。

 それでも残りの兵士たちは変わらずに槍をこちらに向けて近づいてくる。

 もう一度セレシアが包囲を散らした。

 やはり兵士たちは吹っ飛んでいくが、残った兵士は止まらない。

 さきほど散らされた兵士たちもそのまま隊列に戻り、包囲を整えている。

 これは兵士たちが勇敢とかそう言うことではなく、完全に異常な現象だった。

 若干手加減しているとはいえ、SSクラスのセレシアの攻撃を防御もなしにまともに喰らって立ち上がる時点で異常だが、明らかに腕が変な方向に曲がってるヤツまで平気で隊列に戻ってくる。

 彼らは一言も話さない。

 悲鳴も上がらない。

 気味が悪い。

 おれは一歩後ずさった。


「なんなのよ……コイツら」


 その異常な光景にセレシアまで冷や汗を流した。

 なんだ?

 まるでこれじゃあ操り人形みたいじゃないか。

 てことは、こいつらは操られてる?

 兵士たちは不気味さを増してグングンをこちらに迫る。

 戦いとは言え、自分の意志でもなく戦場に立たされている人間を殺すわけにはいかない。

 そんなの後味が悪過ぎる。


「無視するぞ」


 ソルダットがジェフを抱き上げて包囲網の上をジャンプして中央の階段に下りた。

 兵士たちは隊列を保ちながらも、すぐにソルダットとジェフの方にも分散して行く。

 こりゃ確かに無視するしかなさそうだ。

 おれも全身に身体強化をして跳躍。セレシアは自分の足元にエレメントを出してカタパルト方式で一気に階段まで飛んだ。

 振り返ると、階段の前に一直線に並んだ虚ろな兵士たちが一段一段登ってくるホラーな光景が広がっていた。

 ぞくっとする。

 こいつらこのまま城の中まで追いかけてくるのか?

 あ、この階段を破壊すればヤツらは登って来れないか。


「おいセレシア。この階段壊してくれよ」

「シゲルにしてはナイスアイディアね」


 当たり前だろ。小細工に関しては頭が効くのさ。

 セレシアはふんと唸って魔力を込めて腕を振り上げた。

 しかし、エレメントが出てこない。


「あ……れ?」

「何やってんだよ?」

「出てこないのよ!」


 なんでだ?

 いつもどんな分厚い石畳でもぶち破って出てくるじゃないか。

 そこでジェフが声を上げた。


「耐魔レンガだ!」


 あ……

 そうか、そう言えば王城は耐魔レンガで出来ているんだった。

 退魔レンガは魔力を通さない。

 セレシアのエレメントはどんな原理で出て来るのかわからないが、おそらく魔力を地面かなにかに伝えているんだろう。

 となると、地面と自分の間に魔力を遮断する物体があったらエレメントは召還出来ないのか。


「シゲルがやるんだ!」

「オッケー!」


 指揮官みたいになったジェフにおれは親指を立てながら身体強化をマックスにして、さらに竜骨に思い切り魔力を込めた。

 なんだか魔力を込め過ぎたせいか、竜骨が若干光ってる。


「おっらあぁぁァッ!!」


 おれの魔撃は地面にクレーターを作るほどの威力がある。

 それをゴルフスイングよろしく地面におもいきり落とす。

 セレシアの拳骨さながらの爆音を響かせて階段が中程から爆ぜた。

 思った通り、階段を上手いこと切り取り、うまいこと兵士たちの足は止まった。

 しかし、城内が全部耐魔レンガとなるとセレシアはいつもの戦い方が出来ない。

 てことは、こいつも非戦闘員か?

 と思ってセレシアの方を振り向くと、どこから現れたのか全身が岩でできた大男が立っていた。

 ゴーレム? え? 敵?

 

「さあ! いくわよ!」


 岩男からいきなりセレシアの声が聞こえてきた。

 おっと、そういうのもアリなのか!

 地面から岩が遮断されたらエレメントは操れない。

 ならば岩を身にまとってしまえばいいってことか。

 頭いいな。


「久しぶりに見たな。その格好」

 ソルダットが岩男の肩をポンポンと叩いた。

「これ疲れるから嫌なんだけど、仕方ないわ!」

「よし。じゃあ進むぞ」


 おれ達は階段を勢いよく登り、ついに城内に侵入した。



-------


 大堂はがらんとしていた。

 高い天井と、左右に広がる赤絨毯の通路。

 まさに王城といった様子だ。

 そこには門番はおろか、誰一人としていなかった。

 やはり、この城全体変な雰囲気に包まれてる。

 もうだいたいわかってはいるが、ジャノバスが何かしている。

 いや、もうジャノバスというよりもグモーザがなにかしているに違いない。

 城の構造は、前に食客をしていたソルダットが教えてくれた。

 この大堂を中心にそれぞれ大小さまざまな部屋があるらしい。

 全部で五層になっており、第一層はこの大堂。王の謁見の際につかわれるくらいの場所で、特に何も無いらしい。

 第二層は社交場になっていて、巨大なダンスホールと何十メートルもある食事会場があるんだとか。

 第三層は主にここで暮らすメイドや執事、それに有事に備えた王国トップクラスの精兵が詰めているそうだ。

 第四層は他の王族と食客の部屋で、一番上の第五層に王がいるとのこと。


「さて、それじゃあまずはホワイトたちの救出だ」


 ジェフが鞄からダウジングランプを取り出して色んな方向に向け始める。

 昼間は王城の前でピタリと反応しなくなったが、やはり城の中でも全く反応しなかった。


「これじゃ耐魔レンガのせいなのか、コイツを取り上げられたせいなのかわからないな……」


 やはりここまで来たが、ダウジングランプは使えそうにない。

 そしたらしらみつぶしに探すしかないってわけか。でもこの巨大な城中を隈無く探すのは効率が悪い。加えて敵の奇襲もある。無駄足を増やせばその分奇襲に会う可能性も高くなって、必然的に消耗も多くなる。


 一度考えてみよう。ホワイトもいてモリスもいるのに、ただ大人しく監禁されるとは考えにくい。

 おそらくはだまし討ちをかけられたのだろう。

 何でも察知できるモリスといえども相手の敵意まではわかるまい。罠にかける事は不可能ではないはず。

 

「人を閉じ込めておく所はどこにある?」


 おれの問いかけにソルダットは首を傾げた。


「牢屋なら地下だが、王国側から招いて地下に呼び出すのは考えにくい。あそこは処刑場でもあるからな」


 確かに一理ある。

 報酬を受け取るだけでも客は客だ。それを牢屋、言い換えれば国としてあまり見せたくない場所に通すわけはない。

 そもそもそんなところに通されたら、モリスだって何かあるとわかるだろう。


「そしたらからくり部屋みたいな場所はないか?」

「ある」


 ソルダットは親指で上をさした。


「第四層はからくり部屋だらけだ」


 第四層。

 つまり王族と食客の間。

 たしかに王族がいるなら、いざという時のパニックルームが一つ二つあってもおかしくない。

 てことは、おれ達は四層まで行かなきゃ行けないわけか。


「そこだ。おそらくそこにホワイトたちがいる」


 ジェフが鞄の中からヘンテコなヘルメットを取り出した。

 地味な茶色で色んなものがくっ付いている。

 形はフルフェイスのヘルメットみたいだ。


「お前ら好きなように暴れても大丈夫だ。天才は自分の身は自分で守れるのさ」

「なんだそれ?」

「よくぞ聞いた! これはな、超強力なシールドを常時展開出来る魔道具だ。ちなみに重さも軽減してあるし、魔力は充填式だが一晩は使い通せる。ボクが使っても安心だ。天才は己の弱点も把握して初めて天才なのさ!」


 緊張感がないわけではないだろうけど、これはもうジェフのお決まりパターンだな。てか、そんなもんあったなら最初からつけとけよ。



「ささ、シゲル。早く魔力を充填してくれ。目一杯たのむぞ」


 おれはヘルメットに触れて思い切り魔力を流した。竜骨と違って中々入っていく感覚がなかったがジェフがもういいという所で止めた。たくさん入ったのかわからないが、おれの魔力自体はそんなに減っている感じはない。

 すると、どこからともなく鎧の闊歩する金属音が響いてきた。


「第二波が来たみたいだな」

「蹴散らして進むわよ!」


 おれ達は帯を締め直す気持ちで、ソルダットを先頭に走り出した。

 大堂を直線に突き抜け、玉座の後ろの扉まで来た。

 なんか直感的にだが、この先何かがいることがわかった。

 おそらくおれ達の行く手を塞ぐ何者かが。

 その扉をぶち破ると、大堂に負けず劣らずの大きな部屋に出た。

 そして部屋の中央には先ほどよりも際立って重装備な兵士たちが並んでいた。その数およそ三十人。

 見覚えのある鎧だ。

 あ、これ昨日街で会った王国騎士団だ。

 普段のポアロイルならなんともない数だが、今は飛車角落ちの状態。

 しかも相手は王国に詰める衛兵と来たら、決して油断出来る相手ではない。


 ていうか、王国騎士団まで根こそぎ操られてるのか?

 そりゃいくらなんでもおかしい。

 手紙の差出人は大臣だった。

 確かに大臣となれば権力はあるし、兵士を動かせることもできるだろう。

 でもこの人数を私用で動かせるなんてことはありえるのか?

 しかもここは王城内。

 王の許可もなくこんなところで戦闘なんてできるのか?

 仮にジャノバスのトップであるグモーザがなんかの魔法で操っているとしても、こんな多数の人間を一気に操れるとは考えづらい。

 となると、王が操られてる?

 いや、王には食客ヤクブがついてる。そう簡単に魔族の手に落ちることはないだろう。

 待てよ。大臣からの手紙はヤクブは直接持ってきた。

 ヤクブはジャノバス側か?


 考えれば考えるほど深みに嵌っていく。

 そして、目の前には重装備の王国騎士団。

 ええい! 今は余計なことは考えずに突き進むしかない!

 おれ達は武器を構え直し、向かい合った。


 と、その時。

 鎧の先頭の男が兜を外した。

 中から出てきた顔は、昨日おれとアカネに接触してきた騎士団の男だった。

 何を思ったのか、突然ヤツは膝をつき頭を下げた。騎士流土下座か?


「ハヤシ殿! このようなことになってしまい大変申し訳ない!」


 突然のことに、おれらの頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶ。


「ハヤシって誰よ!」


 セレシアの叫びに騎士団の方にもクエスチョンマークが浮かんだ。

 あ、そうか。あの時おれは咄嗟に偽名を使ったんだった。

 おれ以外のヤツらはダブルクエスチョンだろうな。


 というか、コイツら外の連中と様子が違うぞ。

 操られているわけじゃない?

 ならここはおれが仕切ろうじゃないか。


「まあまあ。あなたたちはどうしてこのような仕打ちに出たんですか?」


 おれは武器を構えたまま半歩前に出た。

 向こう側の動きはない。


「我々も昨日までは何も知らなかったのだ。しかし……」


 頭を下げたまま男は拳で地面を叩いた。

 がしゃんと鎧が鳴る。


「すべてはエルバが……!」


 エルバ。手紙の差出人の大臣だ。

 やはりこのエルバってヤツがジャノバスと繋がっているのか。

 男は声を震えさせながら続ける。


「昨晩、エルバが王と二人で話し合いをすると言って部屋に籠ったきり出てこなくなったのだ。おかしいと思った侍女が部屋に行くと、青い顔をして出てきた。王が人質に取られたと」


 なるほど。

 ここまで城を自由に使えるのは王が人質になったからだったのか。


「ヤクブがいるだろ。なぜあいつは何もしない?」

「我らもヤツに掛け合った。しかし、アイツは取り合わなかったのだ」

「なぜ?」

「なんでもソルダット殿が生きてると知ってからは、ヤツと手合わせすると聞かないのだ」


 ソルダットが隠居してるということは誰も知らないはず。

 実際に昨日こいつら自身もソルダットが生きていることを知らなかった。


「王を人質に取られたなどということは公にできない。この国のメンツもある。ヤクブを抜くとなると、人質を取った状態のエルバをどうこうするのは難しい。あの大臣も軍人上がりだ。変なことをすれば簡単に王の首が飛ぶだろう」

「あの野郎……」


 ソルダットがため息を吐いた。

 なにかソルダットとヤクブの間に因縁でもあるのか。


「外の兵たちは一体何があった?」

「わからん。ただ今朝、兵士の詰め所に異変があったのだ。駐屯兵の半数が意識を失い、残りの半数はただ何も話さぬ抜け殻のようになった……おそらくは……」


 外の連中か。

 やはりあれは異常現象だったのか。


「どのようにして駐屯兵たちがあのような状態になったのかは我らにもわからない。ただエルバが関与していることは明白だ。

 王は人質に取られ、大多数の兵が無力化された中、エルバは我々に二つの要求を突きつけた。一つはポアロイルの者たちが来るのを迎え入れること。もう一つは……」


 一呼吸置いて、彼はこちらに向き直って言った。


「ポアロイルにいる『シゲル』という者を亡き者にすること」


 やはりそうか。

 これでエルバは完全にジャノバス側ということがわかった。

 しかし、一国の大臣ともあろう者が何故ジャノバスに?

 彼の話はまだ続いた。


「だが、我々はシゲルというのは誰なのかわからない。それはエルバも同じだったらしい。だから先日、直々に我らを使ってポアロイルを城に招くように仕組んだのだそうだ。既にすべてはヤツの手の中だったのだ……」


 本当に申し訳ないと彼は再び頭を下げる。

 偽名を使ってよかった。

 そうじゃなければ、最初からあの虚ろな兵士たちのターゲットにでもなっていたかもしれない。


「お前たち。ジャノバスって知ってるか?」


 その下がった頭向かってジェフが言った。


「ああ、もちろん知っている。ヤツらはこの国の各所に蔓延り内政を影で操っている。公にはしていないが王国としても色々と調査をし、撲滅を計っている」


 ということは、王国自体のスタンスはおれ達と同じサイドだ。

 でも、どれがジャノバスかわからない限り検挙も処罰も出来ない。

 危険分子をしらみつぶしにしていくしかないという、非効率的な手段で探しているんだろうな。

 ジェフが舌打ちをした。


「ジャノバスはシゲルを狙っている。それは知っていたか?」


 騎士の方は驚くとも何ともなく、頭を下げた姿勢のまま首を振った。


「知らない。しかし、ジャノバスをはじめとした犯罪組織を取り締まる警務大臣であるエルバが、シゲルという者を狙っている。ということは……」


 彼は思い切り歯を食いしばり悔しさに歪んだ顔をこちらに向けた。


「ヤツがジャノバスだ」


 取り締まる側のトップが、取りしまわれる側にトップだった。

 それなら捕まるはずがない。

 あれ? サイババの話だとジャノバスのトップはグモーザという魔族だったはず。

 そうするとグモーザは一体どこに行った?

 まだ影に何かがあるのだろう。

 エルバは今回の事態を巻き起こした実行犯だとするなら、おそらくグモーザは影に徹するつもりなのかも知れない。

 まだ明るみに出たのは氷山の一角か。


「じゃあアンタたち! そのエルバってヤツをぶっ飛ばしてきてあげるからそこ通しなさい!」

「いや。それはできない……」


 騎士団の男は立ち上がると、兜を被った。


「我らの行動はすべてとある能力者によって監視されている。もしもここですんなりと貴殿らを通してしまったら王の命がない」


 後ろに控えた三十人あまりの騎士が一斉に剣を抜き胸の真っ正面に当てた。

 ほんの少しもズレのない動き。

 統率の取れた動きは、想像できないほどに威圧感を持っておれの網膜に映る。

 冷や汗が頬を伝る。


「ここは是非、我らを倒して進んでくれ」


 前の男が剣の柄で胸の紋章をガツンと鳴らす。

 それに続けて後ろの隊列の全員が一斉に二回づつ胸を叩き、金属音が空気を強く揺らす。

 これが戦いの合図なのだろう。

 後ろに控えた兵士たちは腰を落とし、戦闘態勢に入った。


「どうか……我が王を救ってくれ」


 しんと静まる部屋。

 空気は恐ろしいほど張りつめていた。


「……御武運を」

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