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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第三章 王都への道
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第四十話 ボーイズトーク

「もぐもぐ、やっぱり素材が違うと魔力の通りが全然違うんだ。水晶が一番いいな」

「でも水晶の加工はめんどくさそうだな」

「そうだ。とても骨が折れる」

「そういえばジェフっち、今日も帰ってきてから一生懸命やってたっすね」

「まあな。だから余計に腹が減った……シゲル全然食ってないな。もらっていいか?」

「おう。食ってくれ」

「私のもいいよ」

「じゃ遠慮なく頂くぞ」


 その夜。

 甘いものを食ったせいで、夕食が全然食えない。

 おれよりもたくさんスイーツを食ったアカネなんて、全く手をつけていない。

 まあ甘いもののおかげで無事に仲直り出来たから良いんだけどね。


 夕食を終えて部屋に戻る。


 部屋はやはりモリスと相部屋だ。

 宿に泊まる時は全部モリスと一緒なので、最近になってモリスの行動パターンがわかってきた。

 部屋に戻るとモリスはボウガンの弦を緩める。

 そして靴を脱いでベッドに「最高っす!」と言いながらベッドにダイビングする。

 その姿勢のままおれと暫く駄弁るのだ。


 おれはシャワーを浴びると、ベッドの上に転がってリラックスしながら、今日の事を考えていた。

 ついにアカネと仲直りが出来た。


「シゲルさん、今日どうでした?」

「どうって?」

「あれ? アカネさんと仲直りしたんじゃないんすか?」


 何で知ってんだ?

 まさか気配で何処にいるかわかってても、あんなに離れてて、しかも市場の喧噪もある中でおれたちの会話を聞くなんて無理なんじゃないのか?


「夕食の時、二人とも甘い匂いしてましたからね。二人でスイーツでも食ってきたんじゃないかなって思ったんすけど」


 あ、ニオイか。

 夕食の時まで残ってたのか。

 まるで犬だな……

 流石モリスと言ったところか。なんでもお見通しだ。


「うー、まあその通りだな。うまく仲直り出来たぞ」

「そりゃ良かったっすね。ていうか、ぶっちゃけますけど……」


 モリスがニヤニヤ笑ってる。

 なんだよ……なんか嫌な予感するんだけど。

 手に嫌な汗をかいてきた。

 おほんとモリスがわざとらしく咳払いをすると、ニヤニヤ笑いのまま聞いてきた。


「シゲルさんって、アカネさんの事好きなんすか?」

「……!」

「お、図星っぽいっすね!」


 モリスの質問に明らかに動揺してしまい、モリスのニヤニヤが大きくなった。

 いや、別に好きってわけじゃないのだけど、こんなに動揺したら好きって認めているようなモノだな。

 恥ずかしい。

 二十四歳にもなって、こんな事で取り乱すとは、おれ小学生かよ。

 おれは大きく深呼吸をすると、モリスに向き直る。


「あのな、正直に言うから誰にも言わないでくれよ」

「わかったっす! 好きなんすね!?」

「待て、まだ何も言ってないだろ!」


 モリスはウキウキと楽しんでる。

 いつもよりも幾分楽しそうに見える。

 あれか、ゴシップボーイだったのか?


「別に、好きってわけじゃないんだけど……」

「素直じゃないっすね」

「うるせー! 最後まで聞け!」

「うっす」


 なんて言ったらいいんだろうか……


 好きではない。はず。

 彼女は幼馴染であり、兄妹と言った方がしっくりくる。

 なので当然仲が良かったが、こっちの世界に来てからは完全な他人になってしまった。

 だからなのか、アカネと仲良くなりたいと思ってしまう。

 仲良くなるというよりは、昔のように何でも言い合えるような関係になりたいのだ。

 だから彼女とたくさん話して距離を縮めたいし、いろんな思い出を共有して親しくなりたい。

 そうすれば元の世界でのような関係に戻れるんじゃないだろうかって思ってる。

 アカネが死んで、もう二度と会えないと思っていたから、その反動で想いが強く出ているのかも。


 ただ、おれでもよく分からない事が一つある。


 この感情が愛情なのか友情なのかがわからない。

 

 おれには元の世界の記憶があるから、どうしても色々な事が絡み合って、真っ直ぐに答えがわからない。

 自分の気持ちがわからない。

 だから今は親しくなりたい。

 ただ、そう思うんだ。 


「ということだ!」

「いやいや、何も喋ってないですよ!?」

「つまりわからんという事だ。以上!」


 モリスはおれの結論を聞いて、不満そうに「えー」と薄目で睨んできた。

 これ以上追求されても、自分でもわからないので話を変える事にする。


「そういえばモリスは、彼女とかいないのか」

「あれ? 今度はオレのターンっすか?」

「そういう事だ」


 ふふふ、洗いざらい吐いてもらうよ。

 おれは男には容赦はしないのだ。


 おれの質問にモリスは天井を見上げながらポツリと言った。


「この世界って理不尽っすよね」


 こいつ、話逸らす気か!?

 許さんぞ!


「いっつもタイミングが悪いんすよ」

「つまり、お前はシウバのように男が好きだとカミングアウトするタイミングを失ったと?」

「違うっす!! もう、話の腰折らないでくださいよ」

「すまん。続けてくれ」


 ふざけ過ぎたか。


「彼女いたっすよ。すっごい大好きな子がいたんす」

「……」


 モリスの話が過去形である事に、おれはふざける気分じゃなくなった。


「自分の未練って彼女に出会わずにして死んだ事なんじゃないかって思うほど好きだったんです」

「それは、大切な人だったんだな」

「でも、オレの未練は消えなかったんす。

 もしかしたら、結婚したら未練も消えたかも知れないっすね」


 結婚?

 この世界にも結婚ってあるのか?

 若い見た目で出てきたらヤツはいいけど、老人は不利な気がする。

 あ、でも精神年齢が最初から老人だったら、そんなに結婚願望がなかったりするのか?

 うーん、わからん。 


「昔、オレは大工やってて彼女はサーチャーでした。オレは自分が仕事してる時も、感覚察知で彼女の事を追って、ずっと一緒にいたくてサーチャーになったんです」


 え? そうだったの?

 モリスがサーチャーになった理由を初めて聞いた。

 DQNっぽく見えるけど、一途なヤツなんだな。


「サーチャーになってから、初めて自分の感覚察知はずば抜けてる事を知ったんっすよ。彼女はその事で凄い大はしゃぎで。効率よく依頼もこなせて、金もランクも結構上がって、ようやく一端のサーチャーになったなって感じで、彼女に告白したんす」

「告白か……」

「頑張ったっすよ。返事は保留にされたんすけどね。その頃は北遠大陸の片田舎に住んでました。あの時は、まさか魔物の大発生に巻き込まれるとは思ってなかったすね」


 魔物の大発生。

 たまに起こるって聞いて事があったが、モリスは巻き込まれた事があったのか。


「彼女はオレよりも強かったんで前線に出ました。勇猛果敢に戦ったんですが、魔物の数が多すぎたんです。オレは後方で魔物がどっちから来るか見極めて指示を飛ばしてたっすけど、全然数が減らないんすよ。

 三日目の晩。遂に前線が崩れ始めたんすよ。彼女の事が心配なオレは気が気じゃなくって彼女の戦っている方に走り出したんす。察知でも彼女の気配はしっかりしていましたから、早く連れ戻そうって思ったんす。

 走ったっす。めっちゃ速く走ったっす。

 結果、彼女は無事でした。勿論無傷ではなかったっすけど、無事でした」


「オレは言ったんす。もう戻ろう、戻って傷を癒そうって。

 でも彼女は言いました。

 ここで戻ったら街がおしまいだ。

 自分が食い止めるから、お前は後方から指示を飛ばせって。

 彼女はまた戦線に飛び出したんですが、その時、振り向かずに言ったんすよ。

 帰ったら伝えたい事があるって」


 それは言っちゃいけない。

 モロ死亡フラグじゃないか。


 ん?

 待てよ。何かおれとアカネの時に似てるな……


「そのまま彼女が帰ってくる事はなかったっす……オレはただ、彼女の最後の言葉が聞きたかった」


 モリスが眼を閉じた。

 別に涙を流しているわけではない。


「結局、魔物の大発生は四日目の晩に、たまたま通りかかったセレシア姉さんが一人でぶっ潰しました」

「マジか」

「マジっす。もっと早く来いやって思いましたよ流石に」


 セレシア、タイミング悪すぎだろ。

 てか強すぎだろ。


「まあ、それはいいんすよ。

 その後、事態が収拾してから、オレは彼女遺品を整理している時に彼女の日記を見たんす。

 ショックでしたね……アレは」


『モリスに告白された。アイツがわたしに好意を抱いてくれてる事はとても嬉しい。

 アイツの想いに応えてあげたい。でも今はまだダメだ。

 今はダメだけど、もう少し落ち着いたらアイツと付き合って、結婚して、田舎でのんびりと暮らすのもいいかも知れない』


「つまり、彼女はその戦いの後、お前と結婚しようとしてたのか」

「そうだったみたいっすね」


 それは辛いだろう。

 自分の好きな相手と両想いなのに、付き合う前に死別するなんて。


「日記の最後にこう書いてあったんすよ。『でも迷ってる。本当に私もモリスもそれでいいのだろうか?』って。

 だからこそ彼女の最後の言葉が気になるんですよ。

 オレに何て伝えたかったんすかね?

 彼女は最後にどんな決断をしたんすかね?」


 おれはモリスと同じく、隣のベッドに仰向けに寝転がり天井を仰いだ。


「きっと彼女はお前と生きていこうと思ったんじゃないか?」

「なんかソルダットさんと同じ事言いますね」


 そのまま天井を見つめてモリスがおれに言った。


「だからねシゲルさん。別れはいつあるかわからないっすから、想いは伝えた方がいいっすよ」


 いつものモリスのようで、どこか違うような。

 いつになく頼もしく見える彼の顔を見ると、それもそうかも知れないなと思った。

 彼はフッと笑って立ち上がった。


 そして、


 突然、嘔吐した。


「!?」


 ベッドの下にどっと吐瀉した。


「すいません。めっちゃ強い魔力を感じました……魔族です」


 モリスは、口元を拭ってキリッとした顔になる。


「西門方面っす! 十五分もしないうちに来ます!」


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