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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第三章 王都への道
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第三十九話 仲直り

 作戦会議から三日が経過した。


 赤眼魔族迎撃の準備は着々と進んでいる。

 おれたちはまずユニオンに行き、ここエミレダも魔族襲撃の可能性が高いことを告げた。

 ホワイトとセレシアが直接ユニオンに行ったのだ。

 二人は二つ名が付くくらいには名が知れてるので、交渉はスムーズに行ったようだ。

 本来であればソルダットが行って顔パスで貸してもらえるのだが、彼は相変わらず隠居希望なので行かなかった。


 先日のウォーモル襲撃の一件もあり、ユニオンは協力に応じてくれるそうだ。

 むしろこの街の防衛にポアロイルがいてくれて心強いと喜んでくれ、移動式砲台と弾を無償で貸し出してくれる事となった。

 しかも、駐在中の戦闘を得意とするサーチャー達も手を貸してくれるとの事。

 これは嬉しい誤算だ。


 移動式砲台は街の東西南北の門全てに二台ずつ配置する。

 相手が何処から来るかわからない以上、バラバラに配置せざるを得ない。

 サーチャー達はいつでも戦闘に入れるように、城壁の周囲をパトロールするそうだ。

 報酬は戦いに参加すれば出るとのこと。

 だからこんなにサーチャーが積極的なのだ。

 ユニオンも太っ腹だ。

 しかし、やはりこの大人数を指揮しなくてはならないので、セレシアとホワイトは毎日ユニオンに籠ってる。

 帰ってくるたびに「ソルダット、変わってくれ」と泣きついてるのを見るからに、相当退屈なんだろうな。

 最も退屈耐性の無い二人だが、頑張ってもらおう。


 三日間色々とやってきたが、今日もジェフとモリスは街の地形を確認する為に街に繰り出した。

 相手が正門から突入してくるという保証はない。

 どこから来られても良いように街の全体像を把握しておくのは必須だ。

 天才と察知のプロが行ったのだから、こちらも問題ないだろう。


 問題はこっちだ。


「……」

「……」


 おれはアカネと街に繰り出し、必要物資を買いに出ていた。

 セレシアとホワイトは今日もユニオンに呼ばれている。

 まだセレシアの件を根に持ってるのか、もう三日も過ぎたのに未だにまともに口をきいてくれない。

 口を開けば、買い物の件についてだけだ。

 それも一言二言で終わってしまう。

 会話が成立しないのだ。


 アカネがこの調子だと、おれも話すことが出来ない。

 すこし理不尽だと思うが、この状況を打破出来ない自分自身が情けなく思えてしまう。

 どうしよう。


 街の賑やかな雑踏が、やけに大きく聞こえる。

 行き交う人は魔族の出現に怯えてると思いきや、みな賑やかに行き来している。

 それに対しておれたちの間には沈黙が横たわってる。

 二人の沈黙と賑やかな街が、まるで二つに分かれているように遠くにある気がした。


 おれが顔を少し伏せながらアカネの後を歩いていると、アカネが突然立ち止まる。

 アカネの背中にぶつかりそうになったので、おれは慌てて足を止めた。

 するとおれの後ろを歩いていた通行人がおれの背中にぶつかり、押されたおれは少しだけアカネに触れるようにしてぶつかった。

 通行人は聞こえるように舌打ちをして去って行った。


「わ、わりい」

「…………うん」


 アカネはこちらを振り向くことなく、消え入るような声でそう言うと、再び歩き始めた。

 よくわからない。

 何か言いたそうな感じだったが、何だったんだろう。

 もし何か言うつもりだったのなら、タイミング的に今がベストだ。

 

「「あの……」」


 ちょうどアカネと被った。

 ああ、なんてタイミングが悪いんだ。

 二人の間に少しだけ沈黙が流れたが、アカネが「いいよ、そっちが先に言って」と言ったので、何か言わなくてはならない。

 どうしたものか。

 何を言おう。


「あのさ、ゴメンな」


 まだ何を言うか決めかねているおれの口から出てきたのは、謝罪の言葉だった。

 何に対する謝罪なのか自分でもわかっていない。

 けれど、何故ほど無責任なものは無い。

 とりあえず謝って相手に取り繕おうとなんて考えてるから、だから謝ってしまったのか?

 一番ダメなパターンじゃないか……


「私の方こそ……ごめん」

 

 するとアカネの方からも謝ってきた。

 ポツリと呟いた背中は心なしか小さく見えた。

 予想外だった。


 ぶっちゃけ、おれもあれは事故だと思うし、おれに落ち度はない。

 だからおれが謝るのはおかしいが、アカネが謝るのはもっとおかしい。

 別に彼女も悪い事はしてないし。

 あ、そういえばおれに魔撃ビンタしたな。

 まあ、あれは咄嗟の行動だろうから責める気はないが。


「なんか、一回怒ってからそのまま頑固になっちゃって」


 あ、そっか。

 アカネは単にいつも通りに戻るタイミングを失っていただけなのか。

 本当に怒ったのはあの時だけで、それ以降は別に怒っているわけじゃなかった。

 だけど、普通になるきっかけを掴めなくて、ずっとムスッとしてたわけか。

 確かにおれもビビっていつも通りに接していなかったように思える。

 そういえばアカネって頑固だったな。

 そうだ、アカネはとても頑固なんだ。

 キッカケがなければ何も出来ないような石頭だ。


 彼女のゴメンはずっとそういう態度を取っていた事に対する謝罪だったのか。


「本当はもう過ぎた事だし、そんなに引っ張る事でもないのに」

「わかる。そういう時ってあるよな」

「しかもよくよく考えたら、別に私が怒る事でもなかったから余計言い出せなくって……」


 アカネはギスギスいたままで居心地が悪かったようだ。

 頑固な彼女の性格を考えれば、確かにキッカケが無ければ言い出せないのは理解出来る。

 そんな彼女を、元の世界から知っていたのに、今まで何も出来なかったおれが不甲斐ない。

 記憶と言うアドバンテージがあったのにも関わらず。


 アカネは今も十七歳のままだ。

 でも、おれは彼女を追い越して二十四歳だ。

 同い年の幼馴染だったおれたちの間には、七年の差が出来ている。

 今ではおれの方が大人だ。

 その事が、自分の不甲斐なさを更に強く実感させた。


 おれはアカネの腕を掴んだ。


「……なに?」

「アカネ、あそこで何か甘いのでも食べていこう!」

「え?」

「アカネもゴメンでおれもゴメンだと埒が明かないだろ?」

「まあ」

「なら謝るのは甘いもん食って忘れちまおう! 食い終わったら今まで通りだ」

「う、うん」


 別に彼女は今も怒っているわけではない。

 ならば、何かキッカケを作ってしまえばいい。

 そしたら、アカネの好きな甘い物を一緒に食べて、一緒に『美味いね』って笑い合えればもう仲直りだ。

 仲直りなんてもんはこのくらいシンプルで良い。

 甘いものが好きなのは昔のまま。

 なんだかんだアカネ・・・のままだ。

 その事実は今のおれにとって少しだけ安心をもたらしてくれる。


 おれ達は買い出しは後回しにして、スイーツを食べに路地に逸れていったのだった。




短いのでもう一話更新します

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