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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第二章 初心者サーチャー
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第二十九話 尋問

 

「お前ら、口閉じっぱなしで帰れるなんて思うんじゃねえぞ」

「……ひぃ」


 今、肩に太刀を担ぐソルダットは騎士団を見下ろし、正座させて尋問している。

 おれは未だに定位置から動いてない。

 ここから見ると、体育教師が悪い事した生徒に正座させてるみたいだ。

 もしあのデカい剣が普通の竹刀だったら、まさにそんな感じだ。


 バラモンテを倒した後、ソルダットは、まっすぐに騎士団達の方へ向かったのだった。

 少し経ったら素手で倒した三人が起きるんじゃないか? と思ったが、あれからピクリとも動かない。

 ソルダットも完全に無視してるし、本当に死んだのだろう。

 コツンと小突くくらいの攻撃も、実は殺人拳だったのか。


 そして今は騎士団への尋問タイムというわけだ。


 正座開始からまだ五分も経ってないが、何人かはもじもじしてる。

 一番もじもじが酷いのは言わずもがなトミーだ。

 額に脂汗を浮かべて、歯を食いしばり声を漏らす。


「……くっ!」


 こいつは早く言わないと殺されるとか思ってないのだろうか。

「くっ!」とか言ってる場合じゃないだろ。

 さっきからソルダットもガチの脅しっぽい事をしてないから舐められてるんだろうか。

 まあ、確かにソルダットは見境無く殺しをするようなヤツじゃない。


「ふう、仕方ない。お前らが悪事をしでかしたっていう証拠が無かったから、殺したくはなかったんだけどな……」

「わかった! 言うッ!」


 被せるくらいのタイミングでトミーが叫んだ。

 はやっ

 ちょっと危ない単語が出たらこれだ。

 横に並ぶ騎士団の連中も「え? はやくね?」って顔をしてトミーを見た。


「よーし、言え」


 ソルダットは剣を地面に突き刺すと、トミーの前にしゃがんだ。

 てか、こんなに堅い地面にあんなに長い剣が根元まで刺さるって、

 マスター、アンタやっぱり凄いわ。


「すまんが、我々は上からの命令を受けただけで、詳しい事は知らんのだ……」


 ソルダットは顎に手をやり、トミーの顔を覗き込む。


「上ってのはジャバノスっていう組織の上層部か?」

「ああ、そうだ……くぅ」


 もじもじしながら答えるトミー。


「ほう。じゃジャノバスってのは何をしてるんだ?」

「い……言えない、ブッ!」


 ソルダットのジャブがトミーの鼻っ面をとらえた。

 トミーの鼻からたらりと血が流れた。

 それを騎士達は黙って見守った。


「言う! 言えば良いのだろう!」


 パンチ一発で態度を変えたトミーに、騎士達は呆れ顔だった。


「……ジャノバスは世界の秩序を守る為に活動しているという名目だが、その実態は詳しくはわからん。我々下の者は上層部の邪魔になる者を始末したりするのが主な活動だ。その見返りに我々は少なくない見返りを貰うのだ……」


 上層部の邪魔になる者、それがおれだったってこと?

 何でよ? こっちに出て来ていくらも経ってないって言うのに。


「近隣のサーチャー狩りはそれと関係あるのか?」

「いや、あれは賊どもが情報収集がてら勝手にやった事だ」


 ソルダットは「やはりか」と呟く。


「何でシゲルを狙う?」


 下を向きながら、トミーは口を開いた。


「それは我々もわからない。ただシゲルという黒髪の若い者の出現は結構前から確実視されていた。捜索の命令も出ていたのだ。

 そして最近になって突然、上層部から『シゲルがポアロイルとウォーモルに向かっている』という情報をもたらされた。我々としては、出現したばかりの者を始末だけという、簡単なわりに莫大な報酬が入る楽な仕事ということで、ジャノバスの息のかかった盗賊ギルドと共謀する事にしたのだ。

 ポアロイルがいるといっても、邪魔なのは『ホワイト・マリシオクネ』と『天災セレシア』の二人の戦力と、察知のスペシャリストのモリス・トパーズの三人だけだ。うまく動けばシゲル一人だけ始末するのは容易いと踏んでいた。それにあの方の命令だ、従わざるを得ない……あ!」


 こいつバカか。

 おもいっきり口滑らせやがった。


「あの方ってのは?」


「う……なんでも無い……ブッ!」


 またしてもソルダットの高速ジャブが炸裂した。


「言え」

「わかった、わかったから殴らないでくれ……」


 トミーは再びすんなりと吐いた。

 さっきの賊達はもっと誇り高かったのに、こいつ弱いなぁ。


「本名は私も知らん。だが組織内ではグモーザと呼ばれている。ジャノバスの実質上トップで、報酬はかなりくれるが、失敗したら殺される事もあるのだ……

 命令を受けた以上失敗は出来ない。我々の報酬の取り分は減るが、名の通った賊も呼び寄せた。もちろん優れた感覚系の賊もだ。

 準備は万端なはずだった」


 ソルダットは黙る事によって続きを促す。


「しかし、感覚系の素質をもつ盗賊どもが『シゲルが察知できない』と言い出したのだ。

 もちろん貴様らの宿はわかっている。ただシゲルの存在が確定ではない限り、我々としてもポアロイルに喧嘩など売りたくない。慎重に慎重を重ねて調べた。そして数日後、シゲルは毎日採石場にて怪しい事をしているとわかった」


 怪しい事?

 トレーニングしていただけなんだけどね。


「そこで我々は採石場にてシゲルを始末することにした。しかし、あそこには多くの労働者がいる。もしシゲルが労働者の近くにいたら我々守護騎士団は手出しが出来ん。

 故に作戦を立てて、もし労働者が周囲にいたら宿からモリス・トパーズを引き離し、ホワイト・マリシオクネか天災を分断させ、手薄になったところを襲うつもりだったのだ。

ポアロイルに武力行使はリスクが高かったが、後に払われる報酬を考えたら引く訳にはいかなかったのだ。それにあの方からの命令を失敗する訳には……あ、足崩しても良いか?」


 足崩しちゃダメだろ。

 ソルダットは綺麗にスルーした。


「なるほど。大体はわかった。つまりお前らはただの駒で、黒幕はそのグモーザってやつなんだな」

「そうだ……あ、足を崩し……」

「ジャノバスの本拠地はどこだ? カンクエッド王国中から賊を呼べるってことは、それなりにデカいんだろ? まさか本拠地が無いなんてことはないだろ」


「王都だ……これ以上は知らない……頼む、もう解放してくれ」


 懇願するトミーの顔の半分から下は鼻血で真っ赤だった。


「王都か……」


 ソルダットは空を仰ぎながらぽつりと呟いた。


-------


 翌日


 おれ達は装備をそろえて王都に旅立つ事になった。


 ちなみに昨晩おれを狙っていた北区の守護騎士団は全員解放してやった。

 おれとしては後日再び狙われるのが怖かったが、ソルダット曰く「こいつら、今のお前より弱いぞ」との事なので、渋々ながら了解した。

 でももし解放しないってなったとしても殺すのは嫌だったので、まあいいかと納得した。

 実行犯じゃないしね。

 もしかしたら後日、ジャノバスから直々に始末されるかもしれないし。


 宿に帰ったおれ達は、トミーから聞いた話をみんなに話した。

 ソルダットとおれの話を聞いたみんなは「シゲルが変な組織に狙われてるなら、ぶっ潰しに行こうぜ」という、ギャングみたいな発想で満場一致。

 おれとしては、これからも狙われるかもしれないと怯えて旅を続けるより、不安の種を摘み取った方がいいのでありがたい。


 それよりも、みんながおれの身の安全を考えてくれたのが嬉しい。

 もしおれが狙われてるのを知って、危ないヤツは捨てて行こうってなって、一人ウォーモルに置いていかれたら、おれは一ヶ月間くらい泣き続けただろう。

 でもポアロイルはおれを置いていくことはしなかった。

 まさにこれが仲間だ。

 これからもお荷物にならないように鍛えよう。


 そして今、おれたちは宿にいる。

 時間はもう少しで昼食の時間といったところか。


 朝のうちにアカネとホワイトが大量の食料等を買ってきた。

 今、二人は馬車にそれを運びに行ってる。

 おれは万が一また狙われるかもしれないので、宿の一室にてモリスとソルダットに守られて宿で留守番をしていた。

 といっても、うるさいヤツ二名も同じ部屋にいる。

 部屋の端ではジェフが机に向かって地図と睨めっこしながら旅の行程を練っている。

 その横でセレシアがジェフの手元を覗き込む。


「セレシア! 気が散るから向こうに行ってろ」

「なによ! 覗くだけでもダメなの!?」


 と、言い合いになり、作業の方はなかなか進まないようだ。


「なにも王都までの道のり全部を聞いてる訳じゃないじゃない! 次の街はどこかくらい教えてくれてもいいでしょ!」

「うるさいな! いいから黙ってろ」

「なによ! まだ次の街も決まってないんじゃないでしょうね!?」


 セレシアの挑発にやすやすとのるジェフ。


「次の街はバエカトリだ! 街道沿いだし、ソルダットの知り合いの情報屋もいるからな。

 というわけで、最初の補給地はバエカトリだ! わかったらどっか行け!」


 バエカトリか……

 変な名前だなぁ。


 その日の午後。

 タディルとアンが見送りに来てくれた。

 午前、アカネとホワイトが挨拶しに来て、今日の出発を知ったそうだ。

 二人はすっかり元気を取り戻していた。

 その姿を見ると、自分がポアロイルでいる事が誇りらしく思えてくる。

 本当に良かった。


 ジェフがルートを決め終わると、おれ達は久しぶりに馬車に乗り込んだ。

 久しぶりの馬車はなんだか狭く感じた。


 明かり取りに備え付けられた小さな窓から吹き込む風は、こもった車内に新鮮な空気を運んで来る。


 おれは荷物の中から初めての戦闘で使った棒を取り出して眺める。

 こいつを拾った時は、この世界に徐々に慣れ始め、これからの異世界生活にワクワクしていた。

 だが、今はなぜが追われる身になった。

 理不尽だ。

 どうして理不尽な事ばかり立て続けに起こるんだ?

 なんでおれが?


 正直言うと、平穏が欲しい。

 最悪、帰れなくてもいいから、平穏に過ごしたいと思ってしまう。

 もちろん帰還は諦めないが、命を狙われる生活はゴメンだ。


 どちらにせよ、ジャノバスを潰すまで平穏はない。

 その為にはこちらから行動するしか無いのだ。


 おれは自分の平穏を勝ち取る。



 ウォーモルの正門でタディルとアンが手を振る。


 気怠い午後の日差しがサイケデリックなペイントの馬車を照らし、サヤバーン地方特有の乾いた風はタディルとアンの髪を揺らした。

 モリスとホワイトはラッパを持ち出す。

 御者台ではセレシアが太鼓を構える。


 馬車が走り出し、ポアロイルの楽器がけたたましく鳴り響き始めた。

 パカポコと軽快に鳴る馬の蹄の音が聞こえなくなるくらいに。

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