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死んでないおれの不確定な死亡説  作者: 提灯鮟鱇
第二章 初心者サーチャー
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第二十六話 ターゲット

「……よし。それじゃ戻るか?」


 おれはさっき盗賊が飛んで行った空を見ながら問う。

 モリスとは無事に合流、追っ手はウォーモルの空にホームラン。

 これでおれ達のミッションはコンプリートだ!


「そうっすね。今回はまだ残党がたくさんいそうなんで、一旦戻って作戦会議でもしましょう」


 そう、赤い服のボウガン野郎も取り逃がしたんだった。

 相手の規模も全くわからない状態だ。

 こんな危険な連中で、なおかつおれ達を付けねらうのなら、当然野放しには出来ない。


 モリスと合流した事によって満足してしまったが、まだ解決ではない以上、気を引き締め直そう。

 油断したところをボウガンで狙撃された、なんていうのは御免だ。


「他のみなさんは馬車のところっすか?」

「そうよ! ソルダットが剣を取りに行くって!」

「うわぁ……マジっすか」


 セレシアの言葉を聞いて、モリスは心配事が増えたような、減ったような複雑な表情を作った。

 ぶっちゃけおれには一体何がマジっすか、なのかわからない。

 ソルダットが剣を取りに行くとどうなるの、ねえねえ? と問いつめたら「うるさいヤツだな、見ればわかる」とジェフにウザがられてしまった。

 そしたら是非ともウチの大将が剣を一本取りに行くと一体どうなるのか、見学させてもらおう。


 おれたちは一度、宿の方に向かうこととなった。

 ソルダットも剣を取ったら宿に向かうそうだ。

 ホワイトとアカネは、ジェフの気配を消す魔道具を起動させながら宿で待機してる。

 ちなみに、気配を消す魔道具にはちゃんとした名前があるそうだ。

 ジェフは「これは朧月という!」と声高らかに吠えて教えてくれたのだ。

 見事な厨二ネーミングだ。


 おれ達は早速、迷路状に入り組んだ路地をスルスルと通り抜け、宿を目指す。

 レーダー男モリスのおかげで、こんなに複雑な路地もちょちょいのちょいだ。


 順調に路地を進んでいた矢先、モリスが突然物騒な事を言った。


「追っ手じゃないっすけど、屋根の上にボウガンを構えた伏兵が四人ほどいるっすね……

 うちらを探してるみたいっす」


 スナイパーの登場だ。

 しかし、こちら側には全て見通せるモリスがいるため、おれは不思議な安心感を持っていた。

 モリスがいれば、地図を見ながら迷路を攻略してるようなモノだ。


「ちょっと遠回りになるっすけど、こっち側から行きましょう」


 結果的には敵の襲撃を受ける事無く、無事に宿に戻ってくる事が出来た。

 しかし、回り道を繰り返した分、結構な時間をロスしてしまい、おれ達がロビーに戻ったのは暗くなってからだ。


 ロビーにいたのはアカネとホワイトだけだ。

 ソルダットがいない。


「あれ、ソルダットは?」

「屋根の上だ。あの剣はデカいから屋内は窮屈だろうな、ガハハハ!」


 なるほど、ソルダットの剣はデカいらしい。

 しかし、みんながもったいなぶって教えてくれないから、一体どんな剣なのかめちゃくちゃ気になる。

 男の子は武器とかそういうのは無性に気になるのだよ。


 外に出て屋根を眺めようとして、モリスに止められた。

 今は周りに動きはないが、個人行動は極力控えろとの事。

 確かにモリスはレーダーを持っているにも関わらず、ちょっと一人になった時にやられた。

 くう……ソルダットの剣を見てみたいが我慢か。


 夕食を済ませると食堂のテーブルで作戦会議を開いた。

 ソルダットは降りてこない。

 リーダーのくせに。


 ソルダット不在のポアロイルではアカネがリーダーになる。

 まあ、リーダーっていっても上座に座って話が進まない時に仕切るってだけだけど。

 考えてみれば、ポアロイルって根っからのリーダー気質なヤツっていないよな。

 このメンバーで考えてみたら、アカネかモリスが妥当な気がする。


 会議の議題はもちろん襲撃者について。


 襲撃者は大体な見当がついてる、というのはホワイトの談である。

 ホワイトの言うには襲撃者は盗賊ギルドという組織の連中だそうだ。


 ここカンクエッド王国はかなり大きな国で、この大陸の半分の面積を国土として有する。

 そして、その広大な国土は荒野地帯のサヤバーン地方、貿易都市のモーダ地方、南に海を持つアラスダラ地方、山岳地帯のタタノ地方、大森林を持つイズマン地方、そして王都カンクールの六つの地方に別れている。

 そのタタノ地方以外のすべての地方で、闇の世界を暗躍する巨大組織がまさに盗賊ギルドなのだ。

 彼らは、盗賊が奪って来た盗品を横流ししたり、さらって来た人間を奴隷として買い取ったり、盗賊達が捕まらないように嘘の情報を流したり等、盗賊をフォローすることを目的に作られた組織なのだ。


 盗賊ギルドでは定期的に祭りと呼ばれるイベントがある。

 サーチャー狩りだ。


 これは敵対組織の所属要員を減らすという目的で始まった祭りだそうだが、今では完全に賞金目当てのイベントに模様替えされたようだ。

 有志の盗賊やそれに準ずる者が徒党を組み、サーチャーを殺すという単純なルール。

 もちろん、少し名の通った者を殺せば見返りは大きい。

 だが実際よくターゲットになるのは、中堅クラスのサーチャーだ。

 といっても祭りの期間中はユニオン側の警戒も高いので、毎回犠牲者はそこまで多くないのだ。


 ポアロイルなんかは事実上、大陸最強と言われているらしいので、祭りが始まると数人しか攻めて来ない。

 なぜなら、彼ら盗賊とて大陸最強と謳われるパーティーに挑んで命を無駄にしたくないからだ。

 大抵の場合はホワイトかモリスにやられるらしい。(モリスはレーダーで先手をとってボウガンで狙撃、ホワイトはワンパン)


 しかし、今回は異常だそうだ。


 祭りは基本的に二年に一度開催されるのだが、今は祭りの時期じゃないらしい。

 それに加えて、襲撃もいつもより巧妙なのだそうだ。

 ポアロイルに仕掛けてくるヤツはいつも一攫千金狙いの素人な賊で、こんなにチームワークを持ちつつ、戦術的にしかけてくることはなかった。


 今回はかなり狡猾だ。

 ポアロイルの目であり鼻であり耳であるモリスを孤立させ、強力な戦力であるホワイトを罠にはめる。

 もしかして、おれ達全員が我を忘れて動いていたら、もっと何かしらの罠が仕掛けられていたのかもしれない。

 相手は本気を出して、ポアロイルを消そうとしてるみたいだ。

 一体何故だ。


「むう、確かに今は祭りの時期じゃない。攻め方もいつもと違う……」


 ジェフは顎に手を当てて考える。

 モリスは会議より周囲の警戒に神経を割いてるみたいで、相づちも打たない。


「もしかしたら単独でボクらの殺害リクエストが出てるのかもしれないな……」


 可能性で考えればジェフの意見は一番ありえそうな推測だった。

 そしてその意見はいつも能天気なホワイトさえ真面目に聞いていた。


「でも、どうしてだ? 確かにオレらはギルドに賞金を掛けられてるかも知れないけどよ、それにしても今回は人数的にも戦術的にもかなりマジな感じだぜ? 勝率が少ないのは乗っからねえのがヤツらのやり方だろ?」

「そうね、私もそう思うわ!」


 今回の異常さは全員が感じているらしい。


「まあ、自分は前の祭りの時はまだいなかったから、わかんないんすけど……」


 モリスが一旦周囲を見渡す。


「こっちは攻撃力も防御力もかなり高いんで、やすやすと突破はされないっす。

 もしポアロイル全員始末したいならもっと大所帯で来る筈っす。それこそ国軍クラスの軍隊を動員しないといけないっすけどね。」


 話を切ると、再び辺りを見て口を開く。


「ぶっちゃけ自分が見る限り、この布陣は誰か一人を狙っている感じっすね。

 そうじゃなきゃ、この人数と戦術は説明がつきません」


 なに?

 一人を狙ってる?

 何故?


「じゃあ一体誰が狙われてるんだ?」


 おれの声は若干震えていた。


 あの人数で一人のターゲットだけを狙っていたと考えたらぞっとしたのだ。

 間違いなく全員が、明確な殺意を持って連携していたということか。


「多分、自分ではないっす。もし自分だったら、全兵量を使って叩きのめしに来てた筈です。もしそうだとしたらホワイト先輩へ用意されてた罠の説明がつかないっす」


 確かにそうだ。

 もしモリスを狙うのであれば、トイレに立ったタイミングで決めにくる筈だ。

 しかし、モリスについて行った追っ手の数も多かった。

 という事は、あの追っ手はモリスを孤立させて、おれ達と合流させない為の追っ手だった可能性が高い。


 もう一度整理してみよう。


 ウチの戦闘員はかなり強い。

 ソルダット、ホワイト、セレシアを始末したければ大軍隊を投じる必要がある。

 だが、圧倒的な人数をかけて消耗戦をしかけても逆に潰される可能性もある。

 相手に取って避けたい存在。

 という事は、この三人はターゲットじゃないだろう。


 そしてモリスも違う。

 ってことは……


「もしモリスの言う通りなら、奴らの狙いはボクかアカネかシゲルってことか……」

「そっす。まあ推測なんすけどね」


 ジェフは「ふむ……」とか言って思考の世界に入って行った。


 さっきから上座にすわるアカネも口を開かないで、ただただ難しい顔をしている。

 ちょっと沈黙になりそうだったので、おれは手を挙げて発言した。


「一ついいか? 相手の狙いは多分アカネでもないと思う」


 突然名前を呼ばれてビクっとしたアカネだが、首をかしげて問う。


「なんで?」

「アカネはここ最近ずっと一人で外出していた。 もしアカネが狙いならもっと早い段階で行動に出てると思うんだが……」

「なるほど! 頭良いわね!」


 セレシアが手を叩いて納得の表情を見せる。

 いやいや、それは誰でもわかるだろ。

 やっぱ通常時はおバカさんだな、セレシアは。 


「ってことでおれかジェフだろう」


 アカネは相手の眼中に無いって感じだ。

 ジェフは割と軽い感じで肩を落とし、それを見てホワイトが笑う。

 なんかいつもの光景だな。


「ちなみにおれはジェフだと思うぞ。おれもずっと一人でトレーニングしてたし、もし襲いに来るんだったらいつでも来るだろ」

「……はぁ、天才ってのはいつも狙われる立場か」

「ダハハハ!」


 そう。

 おれはここ最近、ずっとトレーニングに精を出していた。

 たまに同行者もいたが、基本的にはずっと一人だった。

 もしおれを狙うんだったら、完全にいつでも殺すタイミングがあったはずだ。

 しかも、こんな最近加入したばかりのルーキーに殺す価値などないはずだ。


 考えれば考えただけおれがターゲットではない根拠が出てくる。


 そんな時ホワイトが手をひらひらと振って注目の合図をだす。

 さっきまで笑ってたのに、真剣な表情になってる。

 みんながホワイトを見ると、さっきまで振っていた手を口に前で握る。


「えー、実はだな」


 握った拳にわざとらしく咳払いを一つ。


「ウォーモルに来た初日に、オレとソルダットが夜に出かけただろ?」


 ああ、風俗に行ってたって日か。

 確かにそんな日もあったな。


「実はあの時、情報収集に出ててな、一人の情報屋にあったんだ」


 え?

 風俗じゃないの?

 なんだ、ちゃんと仕事してたんだ。


「その時に盗賊ギルドが最近動いてるって情報は貰ったんだが、気になることを聞いてな」

「なんだよ、気になる事って」


 ジェフがホワイトの顔を覗き込む。

 ホワイトはおれを見ながら言った。


「守護騎士団なんだけど、ポアロイルがウォーモル入りするって情報をオレ達がこっちに着く前から持っていたみたいなんだ」

「それはあり得る話よ。私たち目立つし、特に変わった事じゃないわ」


 おれもアカネと同意見だ。

 ジェフもモリスもセレシアもアカネの発言に頷く。

 しかしホワイトは調子を崩さず続ける。


「だけどな、その守護騎士団のどっかの区のお偉いさんが、ポアロイルの七人目の情報をコソコソと集めようとしてたってよ」

「ん? 七人目っておれか?」


 まあ、重大な戦力になるポアロイルなので、新メンバーの情報は知りたがるのはお偉いさん達にとって当然の事だと思うけど?

 不思議なところが無いように思えた。


 だが……


「そうか!」

「なるほどっすね!」

「何が!?」


 わかってないのはアカネとセレシアとおれだけだ。


「アカネ、わからないのか? シゲルは仲間になってから何日も経ってないし、目立つような力も無い。

 ホワイトとソルダットが情報を貰ったのが初日の夜。関所で盗賊を受け渡した門番から伝わるにしても早過ぎる。かといってタディルとアンの口から徐々に伝わるにしても、その日の夜に守護騎士団の上位職まで伝わる事は不可能。

 つまりポアロイルに七人目がいる事をこんなに早く知るのはあり得ないんだ。どっかから先にシゲルの存在を知らされていたって事だな。

 多分だが、道中に出てこなかったマーリオ盗賊団あたりが情報提供していたのかも知れない」


「ってことは?」


アカネはすっきりしない顔を作り、テーブルに頬杖を立てた。


「まだわからないのか? 今回の相手はモリスを襲ったヤツらも合わせたらなかなかの数だっただろ。これが街に入るとするなら、どこの区の守護騎士団かは知らんが何かしらの手引きがあったと考えた方が普通だ。

 つまり、盗賊ギルドがおれ達がウォーモルに向かっている情報を守護騎士団に渡し、賊たちが秘密裏にこの街に入るのを支援したって事だ」


 要は、守護騎士団の一部と盗賊ギルドが繋がっているということか。


「じゃあ、おれの情報を集めてたってのはなんだよ」


 そう、守護騎士団はおれの情報をひっそりと集めていた。

 盗賊ギルドと繋がっている守護騎士団が、だ。


「理由はわからんが、お前が奴らのターゲットである事は間違いなさそうだな」

「狙われてたのはシゲルだ」


 ジェフの断定的な物言いに背筋が凍り付いた。


「……」


 おれかよ……

 確かに、赤い服のスナイパーもバリア越しに一発撃ってきた。

 そう考えれば狙われてたのか。


「でも一体どうして……あ」


 思い出した。

 今朝も採掘場でトレーニングしていたら守護騎士団が来たんだった。

 あいつら何区って言ってたっけ?

 あの偉そうなおっさんの名前は、確か……


「トミーだ。トミーと名乗った北区の副団長が、今朝採石場に尋ねて来た!」


 おれは思い出した事実をみんなに伝える。


「多分そいつが関与してる。行動に移す前に一度シゲルを見に来たんだろう」



 その時、モリスがテーブルを叩きながら勢い良く立ち上がった。

 椅子は後方に倒れ、テーブルの上に置いてあった飲み物はこぼれた。


「きゃっ、なに?」


 すこしビックリしたアカネは頬杖をやめて後ろに飛び退いた。

 その言葉に応える事なく、モリスは一目散にロビーから外に抜ける。

 まだ見える位置にいる。

 屋根の上にいるソルダットに向かって大声を張り上げた。


「盗賊達が集まってるっす! 逃げるかもしれません! 先手を打ちましょう!」

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